54年続いた町の本屋を残したい――脱サラして店を継いだ兄弟が仕掛ける、本を売るためのユニークな企画とは?

54年続いた町の本屋を残したいと、サラリーマンを辞め兄弟で店を継いだ小西康裕さん(写真左から4人目)。オリジナルのブックカバーを作ったり、SNSで発信したり、持続できる本屋にするための工夫を教えてもらいました。

●プロフィール
(こにしやすひろ)1986年大阪生まれの37歳。1970年創業の正和堂書店の3代目。京都精華大学でデザインを学び、卒業後、国内大手の印刷会社に就職。メーカーの販促物の制作や店頭販促などに携わったのち23年に退社し正和堂書店へ。家族構成は妻(40歳)と長女(4歳)。学生時代から何度も読み直している本は『自分の仕事をつくる』(西村 佳哲著・ちくま文庫)。趣味はGoogleマップで知らない土地をバーチャル散歩すること。

●正和堂書店
大阪府大阪市鶴見区鶴見3-6-12 コーポみやにし

「正和堂書店」公式Instagramはこちら

「本屋を残したい」とサラリーマンを辞めて兄弟で店を継いだ

町の本屋さんが次々と閉店する中、54年続く店を残そうと家族で奮闘中の小西康裕さん。大学卒業後はクリエイティブ職に憧れて印刷会社に入ります。

「いずれは店を継ぐつもりでしたが、書店業がここまで落ち込むとは思いもしませんでした。コロナ明けにいよいよ経営が厳しくなり、初代の祖母、二代目の母と叔父から店を畳むという話が出て……でも自分と弟は続けたいと思いました。本屋は世代を問わずいろんな人がフラリと立ち寄って、思い思いの時間を過ごせる場所。そんな居心地のいい公園みたいな空間をこの町に残したい。まだ可能性はあると信じて初代と二代目を説得し、兄弟で跡を継ぐと決めました」。

弟の悠哉さんは一足早く脱サラして店に立ち、康裕さんも14年勤めた会社を昨年退職し合流。

「本を売るだけでは生き残れないから、考えつく限りの企画にトライして、持続できる本屋にしていきたいです」。

初代の弘子さんは86歳。今も毎日店番する
三代目の悠哉さん(康裕さんの弟)と二代目の典子さん(康裕さんと悠哉さんの母)

●日本の本屋さんは減っている
実店舗を構えている本屋さんの数は、2007年度は全国で約1.4万店。それが2022年度には約8200店と15年で約6割に。とくに、床面積が小さな本屋さんが姿を消している傾向。

●本だけ売っていては儲かりにくい!?
1000円の本が売れたときの売上は、本屋さんの取り分が約20%。そこから人件費などの経費を払うと利益(儲け)はわずか。本がたくさん売れた時代は成り立ったが、今は本よりも利益率の高い商品やサービスも提供し、これまで以上に売上を増やすことが求められる。

●1000円の本が売れた場合の取り分(概算)
著者 :約10%=100円
出版社:約60%=600円(※ここから紙代・製本代・輸送代・制作費・人件費・会社の家賃などを払いつつ在庫リスクも負う)
取次 :約10%=100円
書店 :約20%=200円(※ここから家賃や人件費、公告宣伝費、各種保険料、リース機器の使用料、設備費などを払う)

【お客さんに聞きました】なぜ本屋さんに来ましたか?
・知らない本に出会える楽しみがあるからです。ネットの情報は私の想像の範囲のものしか勧めてくれないから、便利ですが驚きがなくて。(みきさん・トロンボーン奏者)

・「コスパ3選」「やるべきこと5選」みたいなハウツー情報は疲れる。もっと深いことや、私が知らない世界を見せてくれるのはやっぱり本かなぁ。(みゆきさん・販売)

・その道のすごい専門家や、文学に人生を注いでる作家が精魂込めて書いているのが本。普通に暮らしてたら絶対に会えない人が、自力ではできない旅に連れて行ってくれる感じ。そう思うと本は高くないと思う。(けいこさん・IT系)

・好きな本屋さんがなくなったら悲しいから、買い物して応援してます。“いつのまにか閉店しちゃってた”ってのは絶対避けたいですね。(demiさん・ケアマネ)

まずは本屋に来てください!三代目の挑戦はブックカバーから

「お客さまが本屋に来たくなる物を作ろう!」と思いついたのが、安くて気軽に手に取れる文庫本用のオリジナルカバー。地元の印刷屋さんと協力して作ったカラフルなブックカバーとしっかり厚みのあるしおりのセットは「かわいい~」「おしゃれ!」とSNSでも話題に。「これまでに約70種類作りました。カバーがきっかけで常連になってくれた方や海外から来店してくれるお客さまもいます」。

文庫本を買った人すべてにプレゼント。デザイン担当は康裕さん。印刷会社時代に磨いたグラフィックデザインの技術をフル活用

本を読むのがもっと楽しくなるものをどんどん売ろう!

本を売るだけでは経営が厳しいので「読書がもっと楽しくなるアイテム」を仕入れ販売して売上と利益を増やす作戦。

「イチ押しは、おいしいお茶とともに本を読むひとときをより豊かに過ごせるお茶とセレクト本のセット。地元の人気コーヒー店や紅茶専門店とコラボした本格派で、味にも自信があります」。

おすすめの本に合うコーヒーや紅茶、ココアのセット。パッケージに貼られた本とお茶のレコメンドを読むのも楽しい

ネットでも本の楽しさをガンガン発信しよう!

インスタではおすすめの本を毎日投稿しオンラインショップでは本やオリジナル雑貨を販売。

「Xやインスタのフォロワーさんが1000人を超えるにはかなり時間がかかって心が折れそうでしたが、忍耐強く毎日投稿。今は14万人以上の方に、本の楽しさをお伝えできるようになりました」。

オンラインショップのセレクト本コーナー「10冊だけ書店」の選書をする康裕さん

●Xのフォロワー 1.8万人、Instagramのフォロワー12.5万人!

「BASE」内のオンラインショップ

競争ではなく協業。いろんな会社やお店と組んでみんなで盛り上げよう!

お店に入ってすぐの場所にコラボ企画のコーナーが。

「自分たちだけでなく全国の本屋さんや出版社、日本のメーカーさんと手をつないでみんなで盛り上げ合っていきたい。その思いをコラボ商品と一緒に目に見える形でお客さまに届けられるのは、店というリアルな場の強みだと思います」。

正和堂書店と同じ大阪市の地元企業「牛乳石鹼共進社」とのコラボブックカバー。カウブランド赤箱・青箱のカバーと石けん型のしおりをセットで23年11月1日(本の日)から47都道府県の協力書店で無料配布。※予想を大きく上回る人気で、刷ったカバーは配布終了
海とタコと本のまち、兵庫県明石市にある社員6人の出版社「ライツ社」のコーナー。エッジの立った話題作を連発するライツ社の本がここまでまとまって並んでいる本屋さんは珍しい

参照:『サンキュ!』2024年6月号「あしたを変えるひと」より。掲載している情報は2024年4月現在のものです。撮影/山口明 取材・文/神坐陽子 編集/サンキュ!編集部

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