人手不足に対する企業の動向調査(2024年4月) 正社員の人手不足は51.0%、 高止まり傾向続く

 帝国データバンクが実施した2024年度の業績見通しに関する調査では、業績の下振れ要因として「人手不足の深刻化」をあげる割合がトップとなり、多くの企業が懸念している実態が明らかとなった。実際に、2023年度の人手不足に起因する倒産件数は313件となり、過去最多を記録し前年度から倍増となるなど、事業継続の可否を決める大きな要因の一つといえる。今後の業績維持・拡大を大きく左右する企業の人手不足の状況について、調査を実施した。

※調査期間は2024年4月16日~4月30日。調査対象は全国2万7,052社、有効回答企業数は1万1,222社(回答率41.5%) なお、雇用の過不足状況に関する調査は2006年5月より毎月実施しており、今回は2024年4月の結果をもとに取りまとめた※本調査の詳細なデータは、景気動向オンライン(https://www.tdb-di.com)に掲載している

人手不足割合は正社員で51.0%と高止まり、非正社員でも同様の傾向

 2024年4月時点における全業種の従業員の過不足状況について、正社員が「不足」と感じている企業の割合は51.0%だった。毎年4月は新卒新入社員が入社することで人手不足が緩和される傾向があるが、前年同月比でもわずか0.4ポイントの低下にとどまり、高止まりが続いている。

 また、非正社員では30.1%だった。前年同月から0.6ポイント低下し、正社員と同様の傾向がみられた。

人手不足割合 推移(各年4月時点)

正社員・業種別:ITエンジニア不足の「情報サービス」が71.7%でトップ、「旅館・ホテル」も高水準

 正社員の人手不足割合を業種別にみると、主にIT企業を指す「情報サービス」が71.7%でトップとなった。18カ月連続で7割以上と高水準が続いている。

 当業種の企業からは「AIブームのなかで人材が確保できず、自社での開発を断念するなど案件数が一時に比べると減少傾向にある」(千葉県)や「開発案件は多く出てきているが、開発案件に対応できるスキルマッチした要員が不足しており受注に至らない」(新潟県)などの厳しい声が聞かれている。

 また、活況なインバウンド需要がみられるなかで「旅館・ホテル」も71.1%で深刻な人手不足がみられる。その他、「建設」(68.0%)、「自動車・同部品小売」(64.9%)など6業種が6割台となった。

正社員の人手不足割合(上位10業種)

非正社員・業種別:「飲食店」が74.8%でトップ、個人向け業種が上位に並ぶ

 非正社員の人手不足割合を業種別にみると、「飲食店」が74.8%となった。引き続き高水準は変わらないものの、前年同月から10.4ポイント低下と人手不足の緩和がみられた。次いで「旅館・ホテル」(63.8%)も高水準で続いたが、「飲食店」と同様の傾向で大幅に低下している。

 以下、「各種商品小売」(60.8%)など、小売・サービス業を中心に個人向け業種が上位に並んだ。

非正社員の人手不足割合(上位10業種)

「旅館・ホテル」「飲食店」の人手不足割合は低下、特に非正社員では従業員数の増加が背景

2024年3月には訪日外国人が初の300万人を突破するなど、行動制限のない「ポストコロナ」が到来してから1年が経過し、旅行需要は活況だ。

 そうしたなか、「旅館・ホテル」は正社員において71.1%の企業が人手不足となり、深刻な状況が続いている一方で、8割に迫る水準まで上昇していた人手不足割合は2023年と比較して低下しており、2024年以降は7割前後で推移している。引き続き他業種と比較して高水準であることに変わりはないが、低下傾向に転じた。

 「飲食店」においても非正社員では74.8%と引き続き高水準ではあるものの、8割を上回っていた2023年から低下しており、「旅館・ホテル」と同様の傾向がみられた。

「旅館・ホテル」「飲食店」の人手不足割合

 両業種ともに低下したものの、人手不足を感じている企業のなかで従業員数の変化をみると傾向はさまざまで、正社員が増加した割合はいずれも2割台にとどまった。一方で、非正社員の方が増加した割合が高く、特に飲食店では40.0%となった。こうした従業員数の増加が、両業種の非正社員における人手不足割合が前年同月から10ポイント以上低下した背景にあるといえよう。

「旅館・ホテル」「飲食店」の従業員数増減(前年同月比)

今後の見通し:人手不足割合は高止まりで推移も、就業人口の増加が続けば低下に転じる可能性

 人手不足割合は正社員では51.0%、非正社員では30.1%となりそれぞれ高水準で推移している。そうしたなか、足元では月次ベースとして2カ月連続で前年同月を下回った。新型コロナウイルス感染症が「5類」に移行されてから人手不足割合は上昇し続け、2023年から高止まりで推移していたなか、わずかながら変化の兆しがみられる。

 2024年3月時点の労働力調査(厚生労働省)では、就業人口は前年同月から20カ月連続で増加した。働き手の拡大が人手不足の緩和につながっている可能性が示唆され、実際に新規求人倍率や有効求人倍率(同)においても2023年より低下した。今後も同様の傾向が続けば、人手不足の割合は低下傾向に転じることも考えられる。

 一方で、高水準が続いている業種は引き続き顕著だ。IT人材不足が深刻な「情報サービス」や2024年問題に直面している「建設」「運輸・倉庫」を筆頭に、インバウンド需要の高まりを受けて「旅館・ホテル」「飲食店」でも特に際立っている。それぞれの業種からは、堅調な引き合いのなかで人手不足を理由に受注し切れないという声が相次ぐなど、機能不全が顕在化している。人手不足が常態化すれば業績の維持・拡大が期待しにくくなるなか、中長期的に人材確保や業務効率化に向けた対策を講じられるかが、今後の事業継続を大きく左右するといえるだろう。

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