【解説】 プーチン氏訪中、習氏はウクライナ戦争でどんな代償を支払う用意があるのか

ローラ・ビッカー北京特派員

ロシアのウラジミール・プーチン大統領が16日から、2日間の日程で中国を訪問している。プーチン氏はこの公式訪問の前、両国の連帯を「前例のない」レベルだとたたえた。

ウクライナへの全面侵攻開始から2年以上がたった今、中国はプーチン氏にとってかけがえのない友好国となった。中国はこの戦争を非難することを拒否し、重い制裁を受けているロシアとの通商を続け、アメリカや欧州連合(EU)をいらだたせている。

しかし、プーチン氏はさらに多くを求めているようだが、中国にはその代償を支払う気があるのだろうか?

バランスを取りながら

プーチン氏は先週、5期目の大統領宣誓を行った。その後初めての外遊先に中国を選んだのは驚くことではないかもしれない。プーチン氏は中国国営メディアに対し、2日間の公式訪問を前に、両国の関係が「最高潮に達した」と述べた。このインタビューでプーチン氏は、中国の武術や哲学への興味を語り、家族が北京語を学んでいると話した。

「困難な国際的状況の中、我々の関係はなお強化されている」と、プーチン氏は述べた。

しかし、プーチン氏がその友好関係をひけらかす一方で、中国の習近平国家主席には心配の種があるかもしれない。

アメリカはこのほど、ロシアの制裁回避を手助けしている疑いがあるとして、中国政府に加え、ロシア政府と取引している香港の銀行や企業に対する新たな制裁を発表したばかりだ。

中国はロシアに武器を売却していない。しかしアメリカとEUは、中国からの技術や部品の輸出が戦争に不可欠になっているとみている。アメリカのアントニー・ブリンケン国務長官は4月の訪中の際、BBCのインタビューに応じ、欧州の安全を脅かす冷戦終結後の「最大の脅威に(中国が)油を注いでいる」と話した。

アメリカやEUにとって、これが越えてはならない一線となっている。しかし中国は、ウクライナに対する姿勢は中立であり、戦争以外の商業的な用途で使用される輸出品はルール違反ではないと主張している。

それにもかかわらず、この疑惑は習氏の先週のフランス訪問につきまとい、「魅力攻勢」だったはずの外交に水を差した。

また、EUが中国への独自の関税を検討するなか、中国に対する懐疑派とタカ派は声を大きくし、習氏に対してプーチン氏にもっと圧力をかけるよう求めている。

そして実際、低迷する中国経済に、貿易相手国からのこのような圧力に耐える余裕はない。国内需要が弱いということは、海外の市場が必要だということだ。

これらすべてが、習氏を厄介な状況に追い込んでいる。

限界はどこか

ロシアがウクライナに侵攻する数日前、中ロの指導者らは「限界なし」のパートナーシップと協力関係の深化を発表した。西側諸国に対するイデオロギー闘争の同志として、これは理にかなっていた。

中国は今でもロシアを、アメリカ主導の世界秩序を再構築する鍵だと考えている。両国の貿易は盛んだ。シベリアから中国へ天然ガスを運ぶ「シベリアの力」パイプラインでの安定供給を含む安価なロシアのエネルギーは、中国にとって利益となっている。

それでも、ウクライナでの戦争が長引くにつれ、中ロ同盟は「限界なし」には見えなくなってきた。BBCの分析では、この文言はほとんど国営メディアの報道から消えてしまっている。

米カーネギー国際平和基金の趙通上級フェローは、中国はロシアとの戦略的パートナーシップにおける「無限性」を軽視していると指摘する。

「中国は西側の影響力をそぐという目標を支援しているが、核兵器の使用をほのめかすといったロシアのいくつかの戦略には賛成していない。中国は、ロシアを無条件に支援しているように見えることが自国の評価にどう影響するかを非常に気にしており、国際舞台で自国の正当性を高めるために戦略を練り続けている」

直近の欧州訪問の際に習氏は、中国は「この危機の発端でも、関係国でも、参加国でもない」と述べた。これは、中国政府が国民に言い続けていることでもある。

「ウクライナ人は今も塹壕で血を流している」

だが中立を公言しているからといって、検閲の厳しい中国のメディアでウクライナへの同情が簡単に目につくわけではない。

中国の国営メディアはいまだにロシアの侵攻を正当化し、アメリカが支援する北大西洋条約機構(NATO)の拡大に対する、ロシアの迅速な報復だと説明している。

中国人アーティストの徐唯辛氏は2022年、初めてキーウを襲った爆発をテレビで見た時、この状況を記録しなければと決意した。

「私は武器を持たないが、ペンを持っている」と、徐氏はアメリカのアトリエからBBCに語った。徐氏が最初に描いたウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の肖像画は、ソーシャルメディアで大きな話題となった。

「戦争が始まってから毎日絵を描いている。1日にも休んだことがない。新型コロナウイルスにかかった時も、外国旅行をした時も、毎日描いていた」

徐氏の作品は中国で検閲されていないが、中国での反応に徐氏は驚いたという。

「これまでの経験とは大きく違った。炭鉱労働者を描いた時には、もらったコメントは全てポジティブなものだった。文化革命についての作品さえ称賛を受けた。批判はほとんどなかった」

しかし今回は反発を受けたと、徐氏は述べた。

「批判は構わない、ただブロックするだけなので」

「何人かの友人は、私と違う考えを持っているからと私をフォローから外していた。でも私に何ができるのか? 私は正しいことをしていると信じている。娘の模範になりたいと思っている」

徐氏の行動は、ウィタ・ゴロド氏のようなウクライナ人にとっては希望だ。ゴロド氏は、中国人の考え方に影響を与えたいと考えている。戦争が始まった時にキーウにいたゴロド氏は、得意な北京語を使い、ウクライナ語のニュースを翻訳してソーシャルメディアで共有しようと考えた。

ゴロド氏は北京を訪問中にBBCの取材に応じ、「中国にウクライナのメディアがないと知っていたので、戦争の真実について知ってもらいたかった」と語った。ゴロド氏は現在、ウクライナ・中国学協会の会長を務めている。

「正直に言うと感情的にとてもつらく、時間もかかる作業だ」とゴロド氏は語った。現在は100人体制で公式発表やゼレンスキー氏の演説、戦地に取り残された一般市民の話などを翻訳しているという。

ゴロド氏はまた、中国の学者たちにウクライナを訪問してもらい、破壊を自分の目で見てもらい、最終的にはロシアに圧力をかける手助けができればと考えているという。野心的な目標だと分かっているがやってみたいのだと、ゴロド氏は語った。ゴロド氏の兄は最前線におり、両親はまだブチャ近郊の故郷に住んでいるという。

「ウクライナにいる人々は今も苦しんでいる。シェルターに隠れ、塹壕(ざんごう)の中で血を流している。ウクライナに必要なのは美辞麗句ではなく、ロシアへの制裁だ」

これまでのところ、ゴロド氏の活動は検閲を受けていない。これは中国政府がある程度、寛容であることを示唆している。

「平和の守護者」としての習氏

中国政府内から聞こえてくる声は他にもある。少なくとも一部の中国国民がロシアとの制限なしの関係をどこまで支持するのかをめぐって、亀裂が生じつつあることを示唆している。

復旦大学のロシア・中央アジア研究センターの馮玉军所長は先に、英誌エコノミストへの寄稿で、ロシアがウクライナで負けるのは確実だと述べた。

これは、中国では大胆な意見だ。

しかし一方で、習国家主席も自らが平和の守護者になると示唆している。

昨年3月にロシアを訪問する数日前、習氏はゼレンスキー大統領に電話をかけ、「中国は常に平和の側にいる」と強調した。中国はまた、12項目からなる和平案を提示し、核兵器の使用に反対した。

だが、今回のプーチン氏と習氏の会談では、どちらも政策で大きな転換を見せる兆候はないようだ。

西側諸国は中ロの同盟関係への焦りを募らせ、習氏の平和の守護者としての期待も今のところ失敗に終わっている。こうした中で習氏は、かつて同志であり「親愛なる友人」と呼んだ国際的な嫌われ者であるプーチン氏と、「肩を並べて」立ち続けるリスクを計算していることだろう。

(英語記事 China-Russia relations: What is Xi Jinping prepared to pay for Putin’s war?

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