日本の報道の自由度が低いのは記者クラブのせい

清谷信一(防衛ジャーナリスト)

【まとめ】

・日本の報道自由ランキングは世界70位で、G7で最低。

・記者クラブは当局と癒着して密室で取引し、法治を歪める。

・日本ペンクラブは記者クラブ問題に取り組め。

日本の報道の自由度が低いのは記者クラブのせい。それを他人事のように語る記者クラブの厚顔。

日本の報道自由ランキングは世界70位で、G7で最低であった。

報道の自由度ランキング発表 日本は順位を下げ、G7最下位の70位。

報道の自由度ランキング発表 日本は順位下げ、G7最下位の70位:朝日新聞デジタル

「報道の自由度ランキング」日本は70位、G7最下位

日本の報道の自由ランキングが低い原因は新聞、テレビ、通信社などが会員で排他的かつ差別主義の記者クラブが大きな原因である。

各省庁に所在する記者クラブは、町内会やマンションの管理組合みたいな民間の一任意団体にすぎない。その記者クラブが官庁などの記者会見や取材を独占して、雑誌などの非会員メディアやフリーランスのジャーナリスト、外国のメディアを締め出して、当局と癒着して密室で取引をしているからだ。一体何の権利があってそのような排除をしているのだろうか。

例えば「週刊東洋経済」や「週刊ダイヤモンド」といった経済専門誌が財務省や経産省の記者会見やレクチャーに参加できない。このような記者クラブメディアが報道の自由とか、人権とか、国民の知る権利とかを大上段から語る(騙る)のは噴飯ものである。

記者クラブがあるから、法治が歪められて、冤罪も多く、代用監獄や、自白の強要なども多い。彼らは検察、警察、司法から情報という餌を与えられているのでいいなりだ。当局のリークを検証もせず、それに沿って記事を書くので冤罪も多く発生する。松本サリン事件などはその好例だろう。

しかも記者クラブ記者は一般的に専門性が低い。例えば防衛省記者クラブに配属されるのは軍事に詳しいからではなく、新聞社など会社の辞令でしかない。そして対象の防衛省や自衛隊からしか情報を取らないので、騙されてもわからない。あるいは露骨な世論誘導をされても気が付かない。

筆者は第2次安倍政権時代に次年度予算と当年度の補正予算が事実上統合され、補正で本来支出が許されない戦闘機や戦車を買うようなことや、概算要求に金額を入れ込まない「事項要求」をいれて概算要求の金額を低く見せる「手品」を繰り返し批判してきたが、記者クラブメディアは報じて来なかった。これが5年で43兆円という「大軍拡」、しかもその増加の原資が建設国債という歪んだ支出を生んだ原因となっている。当時記者クラブメディアがこれらの問題を報じて、批判していれば「借金軍拡」は起こらなかっただろう。

大臣会見で記者が事前に質問を通告し、それに対して官僚が事前に回答を書き、大臣が会見でそれを読み上げる「小芝居」を大臣会見と呼ぶのは我が国だけだ。

以下に浜田靖一防衛大臣(当時)の大臣と筆者のやり取りを紹介しよう。

浜田防衛大臣会見令和5年6月20日(火)における質問

防衛大臣記者会見

>Q:記者クラブの在り方なんですけれども、記者クラブの皆さんが事前に質問を提出して、それを官僚の皆さんが回答を書いて大臣が読み上げるという形の会見が多いと思うんです。これ他の国でやっているという事例を大臣、御存じでしょうか。

>A:我々とすれば、適切な形で記者会の皆さん方との情報交換をさせていただいているというふうに思っております。

>Q:私も自分の身が可愛いいんで、これがいけないとか良いとか言うつもりはないんですけれども、ただ、それは非常に大臣のお時間も無駄になってるんじゃないですか、記者の皆さんも。であれば、そもそもそういう形であれば、例えば、事前に質問を出しているんであれば、それを一斉にメールで配信するなり、ホームページで公開すれば事は足りてしまうんで、記者会見、例えば週に2日じゃなくて、週に1回とか月に1回でも良いということになるんではないでしょうか。いかがでしょうか。

>A:これは記者会の皆さん方が、色々な形をお考えになってくださっているのも事実でありますし、我々としても、やはり人間対面で話をしなければならない時というのもあると思いますので、そういう意味では、今の形ができあがるまでの積み重ね、そしてまた、今後また、そういった色々な意味でのオンラインだとか色んなことが今試されているわけでありますので、これはもう私どもからこういった直接お話をさせていただく機会というのは大変重要だと考えております。やはり、記者の皆さん方との色々な意見というものを、この質問をいただいてもやはり、そこから派生する事実に対しては、私がお答えをするということは、大変重要なことだというふうにも思いますし、これはまた、記者会の皆さん方と我々の広報の方との色々な調整をさせていただくことが肝要だと思いますので、今後ともですね、不断の努力をしていくことが大変重要だと思いますので、色々な御指摘をいただいたことに感謝いたしますけれども、ここはそういった形でまた、より良い方向に進んで行けば良いというふうに思っております。

よほど大臣が返答に困るような質問を出したくないのだろう。実は防衛大臣会見は防衛省の主催ではなく、防衛記者会が主催している。マンションの管理組合と大同小異の一民間任意団体が、非会員のメディアやフリーランスを排除してこのような「筋書きある会見」を開いているのは茶番である。

また以前筆者は小野寺五典防衛大臣時代に会見で質問したらNHKの政治部の鈴木徹也記者(当時)にそんな質問するなと妨害された。大臣が困るような、予定調和を乱す質問をするなということだろう。

NHK政治部記者の暴言 不誠実な「皆様のNHK」の態度

https://kiyotani.seesaa.net/article/201311article_10.html

この件をNHKに抗議しようと電話を掛けて広報につなぐように頼んだら、視聴者係につないで、まったく広報に繋がなかった。その後実名、写真入りでSAPIOやJapan In-depthで書いたら、以後NHKからは出禁になった。このようなメディアが国民から受信料を強制的に徴収しているのだ。

「皆様のNHK」の誠意に疑問①〜問題が発生したら無視を決め込む公共放送は許されるのか

[清谷信一]【続報】「皆様のNHK」の誠意に疑問①〜問題が発生したら無視を決め込む公共放送は許されるのか

以下の記事では防衛記者会と防衛省の癒着がよくわかるだろう。

防衛記者クラブの「台所事情」何とも厳しい実態

>課業中に酒を飲む?

酒代も気になる。記者クラブでは課業中に酒を飲むのだろうか。

>次は交際費だ。この項目の「善政」というのは、記者クラブの会員限定の「行事」のようなものだ。防衛記者会では幹事社の交代や重要な審議事項などがあるときなどに弁当などを用意して、昼休みに集まって話し合う。記者クラブの会費は会社が出している。

>ビール券は各幕僚監部との記者懇談会用となっているが、取材対象である自衛隊に現金同様のビール券を渡しているということになる。かつて官庁の裏金問題でビール券が注目されることがあった。ビール券やタクシー券が通貨として役所内で流通していたのだ。

>防衛省による防衛記者会に対する利益供与が疑われる問題もある。防衛省のA棟の記者会室、会見室、会見控室、D棟にある記者会室などの記者会が使用している部屋の家賃、管理費、光熱費は資料を見る限り支出に入っていない。記者会をケアする防衛省の連絡官2名の人件費も防衛省が負担している。これらの費用は毎月100万円を超えているだろう。

筆者がこの件を報じて当時の河野太郎大臣(当時)に質問して以来、防衛省から役務提供はなくなり、幕僚監部との付き合いも見直された。また記者クラブのコピーとりやコーヒーを淹れたりする「連絡官」2名も廃止された。

更に筆者や布施祐仁氏、寺澤有氏らがフリーランスの会見参加を要求、その後なんとか実現はできたが、大変厳しい制限があり機能はしていない。当初は上記のレベルの実績ある記者は無条件に会見に参加できると防衛省記者会も了承したのに、その後セキュリティを理由に以下のような大きな制限が付けられた。仮にセキュリティの問題が事実であればリモートの参加も可能ははずだ。

防衛省における定例記者会見への参加について

防衛省における定例記者会見(注)については、防衛記者会に所属しない方であっても、次の(1)から(7)のいずれかに該当する方は、所定の手続きを行った上で参加することができます。

(1)日本新聞協会会員社に所属する記者

(2)日本民間放送連盟会員社に所属する記者

(3)日本専門新聞協会会員社に所属する記者

(4)日本雑誌協会会員社に所属する記者

(5)日本インターネット報道協会法人会員社に所属する記者

(6)在日外国報道協会(FPIJ)会員社に所属する記者

(7)上記(1)から(6)に該当しない記者で、上記(1)から(5)に掲げる団体の会員社が発行または運営する媒体に定期的に署名記事を提供する者(防衛省・自衛隊に関連する記事に限る。)

最近は防衛省の各種レクチャーなどの取材機会も記者クラブ縛りが減り、より多くの記者が参加できるように変更されてきている。また現在防衛大臣会見しか質疑応答の動画やログが公開されてないが、将来各幕僚長会見も同様にするという。実はこれ昨年にでも実現する予定だったが、空幕広報室長の強硬な反対があり実現しなかった。件の空幕広報室長が3月末で異動になったので、これが実現する日も近いかもしれない。

筆者は今年、自身も会員である日本ペンクラブの桐野夏生会長、浅田次郎元会長ら首脳にこの記者クラブ問題について行動を起こすように呼びかけた。

日本ペンクラブは国際P.E.N.の日本支部でもある。その基本理念には「思想・信条の自由、言論・表現の自由の擁護」を謳い、生命と人権、言論・表現の自由を守るための活動をつづけています、と述べている。

また国際ペン憲章は「P.E.N.は言論報道の自由を宣言し、平時における専制的な検閲に反対する。P.E.N.は、より高度な政治的経済的秩序への世界が必要としている進歩をなしとげるためには、政府、行政、諸制度に対する自由な批判が不可欠であると信ずる。また自由は自制を伴うものであるが故に、会員たちは政治的個人的な目的のための欺瞞の出版、意図的な虚構、事実の歪曲など言論報道の自由にまつわる悪弊に反対することを誓う」

と述べている。そうであれば日本ペンクラブが記者クラブ制度について何ら言及してこなかったのは大変問題であり、桐野夏生会長以下、記者クラブ問題に取り組むことを強く希望するものである。

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写真)木原防衛大臣

出典)防衛省

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