「飛騨春慶の伝統を守る一助に」 ネイリストが挑んだ漆塗り伝統工芸との異色コラボ

メ~テレ(名古屋テレビ)

岐阜県高山市で4月、ちょっと珍しいショーが行われました。自分にしか作れないものを生み出し、伝統文化も守りたい──。そんな思いを持った女性の取り組みを取材しました。

桜が満開の中で開催された岐阜県・高山市の「高山祭」。この時期、市内で開催されたイベントがありました。 華やかな着物や袴を着て、ランウェイを歩くモデルたち。一見、和装のファッションショーのように見えますが、実はネイルのショーです。 「飛騨春慶」と呼ばれる、この地域に400年ほど前から続く漆塗りの伝統工芸とコラボした珍しいネイルに、装飾が施されています。

ネイリストの私にできることは──

「高山にいるから、私にしかできないことってなんだろうね?と話していた時に、伝統工芸とコラボなんてどう?と雑談の中から生まれたのが始まりです」(ネイリスト 佐藤直子さん) 「飛騨春慶ネイル」を作ったのは、地元・高山市のネイリスト、佐藤直子さん。 「艶や削りや塗りの工程がすごく飛騨春慶とネイルが似ているところがあって、それでやってみようと思って」(佐藤さん)

飛騨春慶ネイルが生まれたきっかけ

飛騨春慶は深い色合いと艶に加えて、時間が経つと漆の下から透けて見える木目が特徴です。 協力したのは、飛騨春慶の職人・川原俊彦さん(62)です。きっかけは、佐藤さんが工房を訪れたことでした。 「2年くらい前、最初は工房を見学させてほしいと佐藤さんが、『伝統工芸をなんとか取り入れられないか』と相談された」(飛騨春慶・塗師 川原俊彦さん) 飛騨春慶は、木を加工してお皿や箱などの形を作る木地師と、その上に天然の漆を塗り上げる塗師の技術を合わせることで完成します。

条件は「木のネイルチップ」

塗師の川原さんは、通常アクリルで作るネイルチップを木で作ってくることを条件に承諾したといいます。 すると── 「 『木のネイルチップができたので、持って行っていいですか』と言われたので、『どうぞ』って言ってみたら、意外ときれいなものを持ってきたのでびっくりした。どんなものを持ってくるのかなと思ったが、考えてみるとやはりネイルの方なので、磨くのがプロなんだなと」(川原さん) 佐藤さんは木の角材を彫刻刀で掘って、やすりで磨き、両手分10個の木のネイルチップを約21時間かけ作りました。 その後、川原さんが1カ月をかけ、漆を塗るなどして完成させました。

後継者不足が課題

佐藤さんが飛騨春慶のネイルを作りたいと思ったのには、もう1つの理由がありました。 「川原さんに『職人は、僕が1番最年少なんだ』と言われた。『じゃあどうなるんですか』と聞いたら、『もう廃っていく産業だ』とて言われて」(佐藤さん) 「飛騨春慶連合共同組合」には30年ほど前、地元の塗師が40人ほどいましたが、今は8人。職人の後継者不足が課題となっています。 「飛騨春慶が何かきっかけになっていろんな人に知られたり、若い方に興味を持ってもらい、職人さんになってみたいと思うきっかけになれば」(佐藤さん)

伝統文化を守る一助に

去年は「飛騨春慶ネイル」を海外のショーでも披露。珍しいネイルに、現地の人からは驚きと称賛の声が上がったといいます。 今回高山市で初めて開催したショーでは、海外でも好評だった緑と黄のグラデーションデザインに加え、飛騨の工芸品「組み紐」を使ったデザインなど8点を披露しました。 ショーに来た観客は── 「なかなか指先に注目してみるということがなかったので、すごく新鮮でネイル自体もすごくきれいでした。光が当たるとエッジの部分がきれいに光っていた」 「春慶がすごく身近に感じられました」 佐藤さんとタッグを組む塗師の川原さんは── 「出来た物を見ると、やっぱりやってよかったなとすごく思う。何でも挑戦しなきゃいけないなとあらためて感じたところです。漆器の業界とは全く違う分野の方たちが見てくださっている感じなので、あらためて漆器の良さアピール出来れば」(川原さん) 佐藤さんは、今後も「飛騨春慶ネイル」を通じて、伝統文化を守る一助になりたいと話します。 「飛騨春慶ネイルとチームで世界を目指しています。ハイブランドとコラボしてパリに行くとか広げていけたらいいと思います」(佐藤さん)

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