焦点:対中関税、貿易戦争につながらず 米中は冷めた関係に

Joe Cash Ryan Woo

[北京 15日 ロイター] - 米国のバイデン政権が対中関税の大幅な引き上げを発表したが、中国政府の反応は比較的冷静だ。アナリストは、激しい貿易戦争が再び勃発する可能性は低く、米中は冷めた関係になりそうだと分析している。

中国政府はバイデン政権の措置を非難し、自国の権利を守るため「断固とした措置」を取ると表明した。

だがアナリストは、トランプ前政権が対中制裁関税を課し貿易戦争が勃発した2018年とは状況が様変わりしており、中国側の反応からは自信がうかがえると指摘する。

今回の対中関税は18年とは異なり、中国側に事前に導入の可能性を匂わせていた。また、関税の対象となる電気自動車(EV)やバッテリーなどの産業は、経済的な影響が限られ、中国企業の優位は揺らがないとみられる。対象となる中国製品は180億ドル。トランプ前政権は3000億ドル相当の中国製品に制裁関税を課した。

中国国営メディアは、米国が自ら訴えてきた自由貿易の原則を覆し、気候目標の達成を脅かす措置を講じていると非難。米消費者の負担も増すと指摘している。要は「自分で自分の首を絞めている」という主張だ。

こうした論調は、貿易戦争が勃発した18年とは異なる。当時、中国の交渉担当者は「(米国が)中国の首にナイフを突きつけている」と発言。国営メディアは米国産食品の輸入ボイコットや米国債の売却といった極端な報復措置を示唆していた。

北京のシンクタンク、中国グローバル化センター(全球化智庫)の王輝耀理事長は「中国は道徳的に優位に立つことができる。国際的な基準や規範を破るような連中を相手にしないという立場だ」と述べた。

バイデン大統領は中国との競争時代を勝ち抜きたいが貿易戦争は起こしたくないと発言。米政府高官は、気候変動など限られた協力分野で中国と関わっていく意向を示している。

<「死ぬほどつらい経験は」>

アナリストによると、中国政府には対中関税が発効する前に限定的な報復措置を講じる時間があるが、状況は18年から様変わりしている。

18年の中国自動車メーカーのEV生産台数は80万台弱。23年の生産台数は8倍に跳ね上がり、中国は日本を抜いて世界最大の自動車輸出国となった。中国メーカーは東南アジアや欧州で事業を拡大している。

19年に米国の制裁で大打撃を受けた中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)も復活を遂げ、国産半導体の需要を喚起。スマートフォン事業ではアップルに、EV事業ではテスラに挑んでいる。

新華社は、対中関税に関する論評記事で「死ぬほどつらい経験は人を強くする」とし「この有名な言葉は中国のハイテク企業にも当てはまるようだ」と述べた。

11月の米大統領選を控え、バイデン、トランプ両候補は対中強硬姿勢を取っており、中国側もそうした事情を理解しているとアナリストは指摘する。

在中国米商工会議所のショーン・ステイン会頭は「今回の関税を受けて、中国は本気で取っ組み合いのけんかをしたいと思うだろうか」とし、バイデン政権の措置は予想の「最下限」で「抑制のきいた」ものだったと述べた。

前出の王理事長は「バイデン政権の措置は選挙対策だ。トランプ氏の場合は大統領就任からすでに1年が経過しており、選挙対策ではなく、貿易戦争が目的だった」とコメントした。

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