「飛べ、シラス。」東京から故郷の椿泊にUターン 水産業で新たな人生を送る男性【徳島】

徳島県阿南市椿泊町では、これから「シラス漁」が最盛期を迎えます。

地元で漁を行う水産会社では、元エンジニアの男性が2023年にUターンし、仕事を支えています、男性の思いとは。

徳島の海の幸「シラス」。

水揚げ後、すぐに茹でて作られる「釜揚げシラス」はやわらか食感で、旨みたっぷりです。

(仲宗根義典記者)

「阿南市椿町の港です。これから行うシラス漁に向け、船が出港します」

5月10日午前5時、阿南市椿泊町でシラス漁を行っている「竹内水産」の船に同行しました。

2023年から、父が経営するこの会社で仕事を手伝っているのが竹内昌平さんです。

(竹内水産 竹内昌平さん(32))

「朝の出港する時が一番朝日がきれいで、気持ちがいいですよね。(Q.きょうのコンディションは?)いい感じです。あんまり風も強くなくて、波も高くないので」

椿泊では10の業者がシラス漁を行っていて、これからが最盛期。

日の出と共に船が沖に向かいます。

(竹内水産 竹内昌平さん(32))

「2つの船で網を出して、それを引っ張っていくようにして獲るのが徳島のシラス漁のとり方です」

シラス漁は3隻の船で行われます。

まず、2隻が網をひき、網の先にシラスを集めた後、もう1つの船がシラスを獲って港に運びます。

(竹内水産 村上飛翔さん(28))

「この魚群探知機を見て(探す)、この真ん中にあるのがここに映ったら細いシラスがとれて。まだ、ちょっと映りが悪いですね。(Q.入社して何年?)僕で3年ですね。もともと高校の時に水産の方にいたので、もともと海が好きだったので。今は楽しい」

出港から40分ほどすると、探知機にシラスの姿が。

「ほな、やろう。網やりますんで」

シラスがいそうなポイントに着くと、すかさず網を投入。

それまでくっついていた2隻が距離をとり、網を広げていきます。

シラス漁の網は、下着のバッチに形が似ていることがから「バッチ網」とも呼ばれています。

2隻がゆっくりと網をひく間、竹内さんはというと...しばしお休み中、なんでも、船に酔いやすいんだとか。

探知機の魚影が濃くなってきました。

(竹内水産 村上飛翔さん(28))

「まだきょう、一番(魚影が)うつっとんちゃうかな」

2隻を再び近づけて、網をひき上げます。

シラスがどれぐらい入っているかは網をあげてみないとわからないため、いつも緊張する瞬間です。

(竹内水産 竹内昌平さん(32))

「どうどう?」

(漁師)

「上等、上等だと」

網の中には、たくさんのシラスが入っていました。

シラスは、カタクチイワシなどイワシの稚魚です。

(竹内水産 竹内昌平さん(32))

「イキのいいシラスが獲れました。ピチピチしてますね、嬉しいですね。しかも、めっちゃ獲れてますね。春のシラスが獲れるのが遅れてたんですけど、きょうはたくさん、しかもめちゃくちゃきれいなのが獲れてるので」

シラスは、鮮度を保つためすぐに氷の中に入れられます。

この会社では5月はじめごろからシラス漁をはじめ、この日は、この時期にしては多い約400キロの水揚げがありました。

多い日には1トン以上あがることもあるそうです。

(仲宗根義典記者)

「今、獲れたばかりのシラスを、生のままいただきます。なめらかな食感で甘いですね」

(竹内水産 竹内昌平さん(32))

「あんまり生で食べる文化は(椿泊には)ないんですよ。獲れたてなので食べれるんですけど」

(仲宗根義典記者)

「ぜいたくな食べ方ですね」

獲ったシラスは、すぐに港に運ばれます。

(竹内水産 竹内昌平さん(32))

「僕の家、ちょうどあの赤い屋根の家なんですよ。いつもあそこの前で、堤防から釣りしたりしてました。小さい時はパン屋さんになりたくて、船で酔うので。高校生ぐらいから工業高校に入って、だんだんITとかが好きになって、それでSONYに入りました」

椿泊町で生まれた竹内さんは、地元の小中学校を卒業後、高校から大学院まで情報工学などを学びました。

大手電機メーカーに入社後はカメラの設計などに携わっていましたが、2023年に退社。

妻と地元に帰り、父親が経営する会社で専務としてシラスの加工などを行っています。

(東京からUターン 竹内昌平専務(32))

「自分が学んできたことを、自分が主体となってやってみたい。いろんな人に出会って、自分がどこまでできるのかというのをやってみたいというのがひとつと、あとは美味しい魚が食べたかったからですね」

40年前、鮮魚の仲卸から始まった竹内水産。

シラスは、漁から加工まで一貫して自社で行っていて、釜揚げの機械は塩分濃度を自動でコントロールするなど、こだわりがあります。

(竹内水産 竹内昌平専務(32))

「約3分間、流れるプールみたいになっていって、ゆであがるように設定しています。職人が手作業でする釜よりも均一に流れて、同じ時間で釜揚げできる釜を使ってます」

釜揚げした後はゴミを取り除き、軽く乾燥させます。

そして、今度は人の目で確認しながら異物を取り除いていきます。

スピードが大事な釜揚げシラス、水揚げされてからわずか20分ほどで完成します。

椿泊のシラスは色が白く、エビなどの不純物が少ないのが特徴なんだそうです。

加工場は、直売も併設していて、出来たてを求めるお客さんがやってきます。

(隣町から来た客)

「ここのシラスはすごく美味しい。新鮮で食べたらちょっと甘みもあって、これは冷蔵庫にきらしたことはありません」

竹内水産では、シラスを京阪神や県内の市場のほか、東京にも直送しています。

(竹内水産 竹内正代表取締役(64))

「僕らはずっと販路拡大は、日本中の市場ばっかりを探していた。今はちょっとそういうのと違って、小売りとか宣伝というか、SNSが発達してるので変わってきてる感じ」

東京で暮らして、改めて椿泊の魅力に気づいた昌平さん。

扱っている魚をSNSで紹介しているほか、県内のマルシェに出店するなどして、情報を発信しています。

(竹内水産 竹内昌平専務(32))

「地元のマルシェに参加したりして、『椿泊の魚が美味しい、シラスが美味しい』というのを伝えることをやってみたり」

衛生面に気をつけるために箱を折る作業を機械化するなど、新しいことを積極的に取り入れている昌平さん。

夢は、椿泊のシラスを世に広めるだけにとどまりません。

(竹内水産 竹内昌平専務(32))

「徳島のシラスと言えば『竹内水産の椿泊シラス』だって言われるようになるのが、まずは一つの夢かなと。そこから水産業の需要が増えていって、同級生とかみんなが椿泊に帰ってきて、漁師をするとか。阿南市が盛り上がっていけばいいなって思ってたりもします」

5月に息子が生まれてパパになった昌平さん。

椿泊の海で、新たな人生を歩みます。

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