ウクライナ平和サミットの舞台スイス・ビュルゲンシュトック 地元住民は離心

スイス・ビュルゲンシュトック (KEYSTONE/© KEYSTONE / MICHAEL BUHOLZER)

6月15~16日に開催されるウクライナ平和サミットの舞台として、ルツェルン湖を望むホテル「ビュルゲンシュトック・リゾート」が注目を浴びている。かつては庶民も受け入れられる高級リゾートして地元に愛されていたが、近年は事情が違うようだ。

ある時はオードリー・ヘプバーンの結婚式場、ある時は小学1年生の遠足先。ルツェルン湖を望む山頂にあるビュルゲンシュトック・リゾートはかつて、富裕層・超庶民客のどちらにも親しみのある場所として知られていた。だがそれも今は昔の話だ。

現在、地元住民たちはビュルゲンシュトックにあまりいいイメージを持っていないようだ。山麓にあるシュタンスシュタートの街頭アンケートで判明した。「食事が高すぎる」「昔は建国記念日を祝ったり家族でアイスを食べたりしたが、今はそんな場所ではなくなった」

批判的な声は山頂にも届いている。2月にビュルゲンシュトック・リゾートホテルの総支配人に就任したクリス・フランツェン氏は改善を宣言する。「人々の声は聞いている。誰もが歓迎されるよう、変革に取り組んでいる」。星付きレストランやペルシャ料理の店だけでなく、スイス料理を出すレストランの再開などを計画している。

このような宣言は、ホテルが2017年にリニューアルオープンした時点から聞かれていた。当時のブルーノ・シェプファー総支配人はドイツ語圏のスイス公共放送(SRF)に「日帰り客にとってビュルゲンシュトック・リゾートが重要な存在であることは、常にわかっていたことだ」と語っている。

税金で走る船

ホテルが地元住民に愛されることは重要だ。こうした議論は、山のインフラ整備に税金を投じることへの民意を醸成しているからだ。

ビュルゲンシュトック・リゾートの客向けに増設したルツェルンとニトヴァルデン州ケールシテンを結ぶ航路には、ニトヴァルデン州、ルツェルン州と連邦政府が総額500万フラン(8億6000万円)近くを拠出。国の新地域政策(NRP)を通じそれぞれから無利子融資を受けた。

医療分野では、地元客が歓迎されていないのは間違いない。ビュルゲンシュトック・リゾートのベッドのうち12床は、以前は地元の被保険者のために開けられてきた。リゾートは手術後のリハビリを受けられる施設として、ニトヴァルデン州の病院リストに掲載されている。だが2023年6月にこうしたサービスは打ち切られたことが、ドイツ語圏スイス公共放送(SRF)の調べで分かった。リゾート側は、専門職の不足が理由だと説明した。

フランツェン総支配人は「委託契約の存在は認識している。信頼できる委託相手でありたい」と話した。しかし、ニトヴァルデン州政府は猶予期限の延長を余儀なくされている。州参事(閣僚級)のオトマー・フィリガー氏は「対話は進んでいる。うまくいっている」と話す。

さらに経営層からの醜聞ももれる。リゾートの親会社社長が最近、公金を横領した罪で数年間の懲役刑を言い渡された。

事件とビュルゲンシュトック・リゾートに直接の関係はない。だがニトヴァルデン州議員のアレクサンダー・フザー氏(緑の党、GPS/Les Verts)は、あちこちに軋みが出ている証左だと指摘する。「リゾートが世間の注目を浴びることがないように願っている。そして伝統と現代性のバランスをうまくとり、全てのニトヴァルデン住民のための場所になってほしい」

平和サミットは新たな商機に?

フザー氏は6月に開かれるウクライナ平和サミットに大きな期待を寄せている。リゾートの名誉挽回につながるかもしれない。それはフランツェン総支配人も同じ思いだ。

サミット後も多くのスイス人が会場を見るために山を訪れることは想像に難くない。ヘプバーンが挙式したチャペルを撮影するために、今も多くの映画ファンがビュルゲンシュトック参りをするように。

独語からの翻訳:ムートゥ朋子、校正:大野瑠衣子

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