<ライブレポート>君島大空、石若駿とのデュオ編成でビルボードライブ・ツアー【外は春の形 vol.3】開催

君島大空によるビルボードライブ・ツアー【外は春の形 vol.3】が4月30日にビルボードライブ東京、5月2日にビルボードライブ大阪で開催された。石若駿を迎えたデュオ編成で毎年春に行われるこのツアーは今年で3年目。独奏や合奏形態に加え、最近では藤本ひかりと角崎夏彦との「君島大空トリオ」としてもライブを行う君島だが、合奏形態のメンバーでもあり、音源のレコーディングにもほぼほぼ参加をしている盟友とのツアーは、自身の現在地を確認し、新たな作品に向けてチューニングをする機会になっているはず。本稿では4月30日にビルボードライブ東京で行われた2ndステージの模様をレポートする。

3本のギターとアンプ、キーボード、ドラムセット、グランドピアノがぎゅっと中央に集められたステージに君島と石若が登場すると、2人が向き合うように座って、まずはインプロビゼーションがスタート。君島の手元にはキーボードの他にノートPC、ミキサー、エフェクターなどが置かれ、それらを細かくいじりながらアンビエントな音像を作り出していく。石若はそのムードに呼応するように徐々にプレイの音数を増やしていき、それはまるで冬から春へと季節が移り変わり、あらゆる生命が動き出す、その厳かな躍動感を表しているようにも聴こえる。

一度大きく広がった音像が収束し、再び静謐な空間へと戻ると、君島が「世界はここで回るよ」をひっそりと歌い出す。音源ではドラムレスだが、石若はブラシなどを用いたフリーなタイム感のプレイで音源のイメージを損なうことなく君島の歌に寄り添い、改めて2人がわかり合っていることを感じさせる。それは佐藤円による照明演出も然りで、普段のビルボードライブとは異なる親密にして驚きも感じさせる照明も、君島の音楽に対する理解度の深さを感じさせるもの。音と光の空間芸術としてのライブがそこにはある。

ここからの4曲ではテレキャスター、バリトンギター、ガットギターの3本を使い分け、ジャズやフュージョンからメタル?ジェントまでを横断する君島のギタリストとしての特異性を強く印象付ける。テレキャスターでのアヴァンでノイジーなプレイも、バリトンギターの低音を生かしたプレイも素晴らしいが、「嵐」と「傘の中の手」でのガットギターのプレイは特に君島の原点を強く感じさせるもの。「嵐」でパーカッシブに演奏したかと思えば、「傘の中の手」では流麗なアルペジオを聴かせ、コラージュ的な側面もある音源とはまた異なるプリミティブな感動がある。単なる「弾き語り+伴奏としてのドラム」というデュオ編成でないのは言うまでもないが、曲ごとにプレイスタイルが変わり、手癖も感じさせず(それは石若も同様)、それがゆえにジャンルに規定されない「君島大空の音楽」になっているのは本当に素晴らしく、それは技術と感性の両方があってこそ成り立つものであると改めて感じさせる。

ここで石若がドラムセットからグランドピアノへと移動し、披露されたのは「エルド」。音源にはドラムも入っていて、2分ほどの小品という印象だったが、石若のネオソウル的なアレンジによって、美しいピアノバラードへと生まれ変わり、君島のシンガーとしての魅力がより引き立つ仕上がりにもなっていた。優れたプレイヤーであると同時に、音像やテクスチャへの理解もあり、ソロでは自ら作曲をして、ボイシングの知識も豊富な石若は、やはり君島にとってライブでも制作でも欠かせない存在であることを実証する名演だった。

石若が再びドラムセットに戻り、君島がガットギターを手にして披露されたのは「花降る時の彼方」。曲が始まるとステージ後方の幕が開いて六本木の夜景が浮かび上がり、音数の少ない序盤から徐々に熱を帯びていく演奏は格別。君島はライブ後にXで「四月の海に花が降りました」とポストしていたが、〈君に花を選んだ〉という歌い出しの「エルド」から「花降る時の彼方」へという流れは非常にドラマチックで、この日のハイライトだったように思う。

……と書いてしまったものの、実際にはここから先のライブ後半もクライマックスの連続で、君島のポエトリーリーディングにあわせて石若が自在にプレイするインプロビゼーションはフリージャズ的な緊迫感と高揚感を感じさせ、そこから一転、「新しい曲をやります」と言って披露されたのは、比較的シンプルなアレンジによるスタンダード感のあるバラードで、君島のメロディーメーカーとしての普遍的な魅力を感じさせるもの。本編ラストは再びバリトンギターを手にして、ヘヴィかつラフな演奏で「沈む体は空へ溢れて」が披露され、合奏形態にも通じるロック的な熱量の高さに比例するかのように、場内からも大きな歓声が起こっていた。

アンコールを求める拍手に応えてもう一度ステージに登場した君島は、「ビルボードライブ東京でできるのはすごくうれしい。音がよくて、リハのときからやっててすごく楽しいんですよ。だから出るたびに思うんですけど……ワーってしたらいつの間にか終わってる」と笑って話し、この飾らないキャラクターもやはり彼の大きな魅力。最後にテレキャスターでのブルージーなプレイが魅力的な「都合」を演奏して、この日のライブが終了。4月が終わり、すでに外の形は春から夏へと変容しつつあるが、また季節が巡って春の形になる頃、2人はどんな音を鳴らしているだろうか。

Text by 金子厚武
Photos by 垂水佳菜

◎公演情報
【君島大空 外は春の形 vol.3】
2024年4月30日(火)東京・ビルボードライブ東京
2024年5月2日(木)大阪・ビルボードライブ大阪
※終了

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