“大きな賭け”に勝ったペレス会長とマドリー、逆境を克服して欧州制覇&2冠達成へ王手!「取り返しがつかないと思われた状況を好転させた」

レアル・マドリーのフロレンティーノ・ペレス会長は高笑いしていることだろう。ラ・リーガに続いてチャンピオンズリーグ(CL)制覇にまい進するチームの快進撃に、そして目前に広がるクラブの明るい未来に。

ポスト・クリスティアーノ・ロナウド時代のマドリーを力強く牽引したカリム・ベンゼマを失った今シーズン、前評判は決して高くなかった。エースの後釜確保を主張する声が高まり、カルロ・アンチェロッティ監督がハリー・ケイン(現バイエルン)の名前を持ち出していたにもかかわらず、マドリーは獲得を見送った。さらに開幕を前後して、GKティボー・クルトワとCBエデル・ミリトンが立て続けに左膝前十字靭帯を断裂。いつしか「今シーズンは過度期」と諦めの声が囁かれるようになった。
マドリーが補強を見送ったのは夏だけではない。昨年12月にミリトンに続いてCBのレギュラー格のダビド・アラバが同じく左膝前十字靭帯を断裂。冬の移籍市場のオープンを約2週間後に控えていたこともあり、当然のように補強を推す声は多く、アンチェロッティ監督も即戦力クラスの獲得の必要性を訴えた。しかしクラブは現状維持を選択した。

ペレス会長はラ・リーガ優勝を決めた後、「今シーズン、マドリーは逆境を克服する力を見せた。クルトワ、ミリトン、アラバが大怪我に見舞われる中、残りのメンバーは立ち上がる強さを持っていることを示した。取り返しがつかないと思われた状況を好転させたんだ。負傷したチームメイトの苦しみを、誇りの喚起と逆境を克服するためのエネルギーに変えた」とコメントしたが、事態が暗転していれば、間違いなく批判の矛先は自身に向かっていただろう。ペレス会長は“大きな賭け”に勝った。 おかげで来シーズン、空席のままの前線のポジションはそのままキリアン・エムバペに用意され(ケインがいれば、こうはいかなかった)、CBはレンタル先のアラベスで結果を残したラファ・マリンの復帰で対応すればいい。もっと言えば、補強を見送ったおかげで現有戦力の底上げが図られた。ヴィニシウス・ジュニオールとアントニオ・リュディガーの、新エース&新DFリーダーへの一本立ちは、その何よりの証だ。

ジュード・ベリンガムの加入で世代交代が一気に進み、エドゥアルド・カマビンガ、ロドリゴらも成熟を遂げている。トニ・クロース、ダニエル・カルバハル、フェルラン・メンディ、ホセル、ブラヒム・ディアス、ルカ・モドリッチ、アルダ・ギュレルらも、レギュラー、控え、ベテラン、若手を問わず、各自がそれぞれの役割を全うしている。そこに今夏、CL制覇を熱望しているエムバペが満を持して加わる。
豊富な経験に裏打ちされたアンチェロッティ監督の手腕も見逃せない。ブラジル代表から熱烈なラブコールを受け、今シーズン限りでの退任が既定路線と見られていた中、昨年12月に2026年6月まで契約を延長した。ピッチ外でも、本拠地サンティアゴ・ベルナベウのリニューアルが完了。超近未来型の器が出来上がり、これからますます経営の好転が予想される。

一方、宿敵のバルセロナと言えば、会長がむやみやたらとしゃしゃり出て現場を混乱させ、切り札と期待されていた監督が未熟さを露呈し、歴史的と言われる巨額債務を抱え、今夏の補強も明るい見通しが立たず、本拠地カンプ・ノウはリフォームの真っ只中……。マドリディスタの喜びは、バルセロニスタの悲しみ、その逆もまたしかりと言われるが、マドリー優位の下馬評が大勢を占めるCL決勝(6月1日/ドルトムント戦)を約2週間後に控え、両者の明暗がはっきり分かれる形になっている。

文●下村正幸

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