佐藤寛太、『不死身ラヴァーズ』で素を暴かれる「こんなに恥ずかしかったのは初めて」

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松居大悟監督が10年以上温め続けてきたというラブストーリー『不死身ラヴァーズ』が完成した。高木ユーナの同名コミックを映画化したこの作品の主人公は、幼い頃に出会った運命の相手、“甲野じゅん”のことを忘れられずにいる“長谷部りの”。彼女が告白して両思いになるとじゅんは消えるのだが、何度も別人になってまた現れるーー。佐藤寛太は松居監督の下で、あらゆる世代のじゅんを演じている。佐藤が監督のSNSにDMを送ってアプローチしたことが、今回のキャスティングへと繋がったという。憧れの監督とともに過ごした日々のこと、完成作を観て抱いた思いについて聞いた。

【本予告】『不死身ラヴァーズ』5.10より全国ロードショー

見上愛さんが動いて初めて現場に風が吹くような感覚毎日ウキウキしながら現場に行っていました

――こんなにも「好き」を伝えられる役は、なかなかないですよね。

佐藤 本当にそう思います。ありがとうございます!っていう感じで毎日ウキウキしながら現場に行っていました。全シーンを通して、長谷部さんがどう動くかによってもちろんこっち側も変わってくるわけじゃないですか。だから自分がどう演じたいのかってことは、そんなに考えていなくて。同じ日を繰り返すようなシーンでも彼女の雰囲気や言葉、発せられるものすべてを自分がきちんと受け取ろうと思っていたんです。それを受けた俺がどうするかによって長谷部さんの動きも変わると思うので、うまく呼吸のようになったらいいなと思っていました。

――見上愛さんと共演した印象についても教えてください。

佐藤 最初に俺と会ったとき「この人、無理なタイプかも」と思ったらしいです。結構それ、言われるんですよ(笑)。自分では普通にしゃべっているつもりなのに、わーっときている感じに思われるみたいで。今回の役で言ったら、バーベキューをしている大学生のじゅんとリンクした感じなんでしょうね。じゃあ、「普段の俺って嫌われる雰囲気なの!?」ってことになりますけど(笑)。

――プレス資料のインタビューには「私が今まで会った人のベスト3に入るぐらい面白い方でした」と書かれていますよ。

佐藤 え、すごくないですか! めっちゃ褒めてるじゃないですか! 嬉しいです(笑)。俺はいつもどおり話していただけなんですけどね。

長谷部って疾走感があって花の香りがするような女の子だけどスーパーウーマンじゃなくて、自己嫌悪だったり人に見せたくない気持ちも見え隠れするキャラクターだと思うんです。だからこそ長谷部の笑顔に射抜かれるし、「この子って本当は一体どんな子なんだろう?」って思ってしまうというか。

松居さんがオーディションで見上さんに会ったとき、「なぜそういう芝居をするんだろう」と思ったそうなんです。俺も同じで、シンプルに人として今どう思ってるんだろうなってことがすごく気になる人だったから、一緒にいて超楽しかったです。彼女が動いて初めて現場に風が動くみたいな感覚もあって、才能のある若い方と共演するとこんなにも勉強になるんだなと思いました。

(C)2024「不死身ラヴァーズ」製作委員会 (C)高木ユーナ/講談社

――『正欲』で東野絢香さんと共演したときにも、そうおっしゃっていましたね。

佐藤 自分だったらピリピリしたりトゲトゲしないとできなさそうなことを、彼女たちは軽々とやっているように見えました。俺なんか一生懸命やってやっとここですよってことを、サラッとやっていて。そういうお芝居を目の前で見ると、頑張ってますよ!って見せることはダサいし、尖っている必要はないなと思うようになりました。今は仕事に対しての捉え方が少し変わって、そのときに求められることやできることをやっていこうという風に思っています。

全力で走って好きな人に会いに行こう!って思える映画です

――今回はヒロインをキュンキュンさせる王子様とは違うベクトルで、何とおりもの“理想の人”を演じる難しさもあったのかなと思います。

佐藤 理想の人という部分では、何も考えていなかったです。でも確かに何回も恋に落ちるっていうことは、特別な存在ってことですもんね。……それは俺が考えることじゃなくて、松居さんがキャスティングの段階で考えてくれていたことかもしれないです。中学生になったときはさすがに難しかったですけどね(笑)。

メインとなる大学生のじゅんのパートを撮ることなく、クリーニング屋さんになった日がクランクインだったのも大変でした。でも結果的にはいろんな人間について考える経験は、すごく楽しかったです。

(C)2024「不死身ラヴァーズ」製作委員会 (C)高木ユーナ/講談社

――憧れだった松居監督の現場はいかがでしたか?

佐藤 松居さんも松居組の人たちもみなさんすごく穏やかでした。怒号が飛び交うこともなく、純粋に一緒にもの作りをすることが楽しいという人たちが集まっているのは、松居さんの人柄もあるのだと思います。だからこそ人間の機微や、あまり見られたくない部分も映せるんだろうな、って。

見上さんと対談したときに分かったことなのですが、ふたりに対する演出が違っていたみたいなんです。見上さんはロジカルな演出を受けていたらしいのですが、俺には説明もなく「もう1回いこうか」という感じでした。俺はずっと構っていてほしいので、もっと細かくダメ出しをしてもらいたかったんですけどね。でも監督の中に理由があったんだろうなと思います。

――走ったり、突然側転したり、体を使うシーンも印象的でした。

佐藤 最初は側宙をするつもりだったんですけど、無理でした(笑)。中学生くらいまでは運動ができる男子がモテるってことなんですかね? 自意識と思春期の狭間で異性に手を握られると急に側転をしちゃうのが中学生、ってことかもしれない。監督から最初に「側転できる?」って聞かれたので、大事なシーンなんじゃないかと思います。

――完成作を観た感想をお聞かせください。

佐藤 こんなに恥ずかしかったのは初めてでした。お芝居をしている感じはあまりなかったので、自分の素を見ている感覚になったのかな、と。自分の映画を初めて見たときぐらい……、いやそれ以上に恥ずかしかったです。いつもはあの芝居はもっとああしておけばよかったとか、具体的に思うんですけどね。松居さんって人間を暴いていく監督なので、自分の中からそういう感想が出てきたのかもしれません。

この作品を観た作り手の人が「佐藤寛太と組んでみたい」と思ってくれたり、反響を聞いた松居さんが「寛太とまたやりたいな!」って言ってくれたらいいなと思っています。

――「好き」という気持ちを伝えたくなる恋愛映画になっていますよね。

佐藤 全力で走って好きな人に会いに行こう!って思える映画ですよね。小さい頃、遊びに行くのが楽しみで走って行くことってあったじゃないですか。でも大人になると、遅刻しそうなとき以外にはないわけですよ。だから最近、「走ってお前に会いに来たぜ!」っていうプレイを友だちにしています。 待ち合わせ場所に全力で走って行って、ゼェゼェしながら「……よう!」みたいな。疲れ果ててしばらく動けなくなるんですけどね(笑)。でもこの映画を観た人にはぜひ全力で走って誰かのもとに向かってほしいです。

『不死身ラヴァーズ』 公開中

取材・文:細谷美香
撮影:稲澤朝博
メイク:KOHEY(HAKU)
スタイリング:平松正啓(Y’s C)

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