男女でアジア王者に 「決勝戦」中止と厳しい「現実」、満員の「埼スタ」【リーグ2連覇の浦和L「アジア制覇」舞台裏と未来】(3)

彼女たちならスタジアムを満員にできるはず。撮影/原壮史(Sony α1使用)

三菱重工浦和レッズレディースが、アジアの頂点に立った。AFC女子クラブ選手権で、優勝したのだ。さらに、その2日後、WEリーグで連覇を果たした。2つのタイトルを獲得した浦和Lの知られざる「激闘の裏側」と、「クラブの未来」について、サッカージャーナリスト後藤健生が熱く語った。

■ヨーロッパでも「一度もない」快挙

さて、こうして三菱重工浦和レッズレディースはアジアのタイトルを獲得した。浦和は昨年のAFCチャンピオンズリーグでも男子の浦和レッズが優勝しており、今月25日に2023-24シーズンの新チャンピオン(横浜F・マリノスもしくはアルアインFC)が決定するまで、わずか2週間ほどではあるが、浦和は男女の両大会のタイトルを同時に持つクラブということになる。

これは、女子のチャンピオンズリーグの長い歴史を持つヨーロッパでもかつて一度もなかった快挙なのだ。

ただし、今回のAFC女子クラブ選手権は2024-25シーズンから始まる本大会を前にした招待大会、パイロット大会という位置づけだった。

8チームが招待され、昨年11月に4チームずつに分かれてリーグ戦が行われ、3戦全勝で勝利した浦和と仁川現代製鉄が決勝を争ったのだ。

ところが、AFCは今年の3月になって突如、「決勝戦の中止」を発表した(中止の理由については何も説明がない、きわめて杜撰な決定だった)。

これに対して、浦和側がWEリーグや日本サッカー協会を通じて決勝戦の実施を要求。仁川や韓国サッカー協会もこれに応じて、急きょ決勝戦が実施されることになったのだ。

ただし、決勝戦の実施が改めて発表されたのは4月25日になってからのこと。決勝戦まで2週間しかない時点の発表だった。

しかし、それでも決勝戦には5271人の入場者が集まった。試合まで2週間ほどの告知期間しかなかったことや平日・金曜日の18時開始という社会人にとっては来場しづらい時間設定だったことを考えれば、5000人を超える観客が集まったのは成功だったと位置づけてよかろう。浦和のWEリーグでのホームの入場者数のおよそ倍の観客数だ。

■東京ベレーザですら「苦戦する」現実

3シーズン目を迎えたWEリーグだが、観客動員数は一向に増加する気配がなく、最近は入場者1000人以下といった試合も目につくようになっている。

動員が順調なのは手堅い人気を誇る浦和と、新スタジアム効果で多くの観客を集めているサンフレッチェ広島レジーナくらいのもので、日テレ・東京ベレーザですら集客に苦戦を強いられているのが現状だ。

原因としてはさまざまなことが考えられるが、秋春制で行われているWEリーグの日程がきわめて分かりにくいこともある。

シーズンが開幕して、まずWEリーグカップというリーグカップの大会が行われ、その後にリーグ戦が開始されるのだが、また代表の活動や皇后杯があるので、1か月ごとに中断があり、中断が明けると今度はウィークデーも含む連戦となる。

熱心なサポーターなら理解できるかもしれないが、一般のファンにとってはきわめて分かりにくいスケジュールということになる(日本のファンにとって、そもそも秋春制にも馴染みがない)。

WEリーグは、日本では初めての女子の団体スポーツのプロリーグである。一方でリーグ戦の実施と並んで、女性の社会進出とか女性活躍などの理念を掲げる活動に非常に積極的だ。

もちろん、女性の社会進出をサポートするという理念は素晴らしいことだ。しかし、リーグとしてまず取り組むべきは、プレーのレベルアップだったり、観客動員=社会的認知度のアップではないだろうか。WEリーグの社会的認知が進まず、観客動員数が増えないのでは、「理念の空回り」と言わざるを得ない。

人気が低迷したままでは「プロリーグ」と称しながら、採算性のないリーグになってしまう。もし、財政的に苦境に陥って脱落するクラブがあったり、さらにリーグが解散してしまったりしたら、それこそ女子スポーツのプロリーグ結成という試みの失敗となり、女性活躍社会へのイメージダウンにつながってしまう。

WEリーグ当局は、とにかくWEリーグの社会的認知や競技レベルの向上のために全資源を投入すべきだろう。

アジア女子クラブ選手権というコンテンツも人気拡大のきっかけとして使えるかもしれない。国際試合は、一般のファンも引き付けることができるし、浦和をはじめ、WEリーグ勢は幸いにもアジアをリードする強豪ばかりなのだ。

■浦和レディース「究極の目標」は…

今回の女子クラブ選手権を巡るゴタゴタは一義的にはAFCの責任だ。だが、それなら、アジアで初めての女子のプロリーグでもあるWEリーグは、AFCに対してもっと積極的に働きかけを行っていくべきだろう。

浦和と仁川の試合は、残念ながら競技レベルという面でも最高の試合ではなかった。

なぜなら、決勝戦開催を巡って二転三転したため、両チームとも最高のコンディションからはほど遠い状態だったからだ。

仁川はケガ人を多く抱えていた。一方の浦和も負傷者続出ではあったが、選手層の厚さがあるだけに仁川側ほどの影響はなかった。しかし、大型連休中の連戦の後だったので浦和の選手たちは疲労を蓄積させた状態で、通常の試合に比べて非常に動きが重そうに見えた。

浦和は4月27日の土曜日に第17節の広島戦を戦い、中5日の5月3日にセレッソ大阪ヤンマーレディースと対戦。そして中2日の5月6日にちふれASエルフェン埼玉戦があり、そこからさらに中3日で仁川戦を迎えていたのだ。

決勝戦までにしっかり開催の告知を行い、週末に決勝戦を設定できれば、1万人を超すサポーターが入ったかもしれないし、そこでコンディションの良い状態で内容のある試合ができれば浦和レディースの、あるいはWEリーグ全体の集客力はさらに上がるはずだ。

2024年秋に始まる公式の第1回女子クラブ選手権では、そうした理想的な運用ができるようにしてほしいものだ。宮澤ひなたが所属するマンチェスター・ユナイテッドが優勝したイングランドの女子FAカップ決勝は、ウェンブリー・スタジアムに7万6000人もの観客を集めて行われたという。

浦和レディースにとって、究極の目標はアジア女子クラブ選手権で埼玉スタジアムを満員にすることではないだろうか。

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