Q. 体に悪くないお酒の適量が知りたい! ビールは1日何杯までOK?【薬学部教授が回答】

「体に悪くないお酒の量」「健康を害さない飲酒量」の目安はどれくらいでしょうか? 厚生労働省のガイドラインを見れば、大体の目安はわかりますが、しかし一概に「何杯までなら大丈夫」とは言えないのです。その理由を解説します。

Q. お酒の適量が知りたいです。ビールなら1日何杯まで飲んでOKですか?

Q. 「お酒を飲み過ぎだと家族に注意されてしまったのですが、毎日のささやかな楽しみなので、飲むのをやめるのは無理です。 『健康的な量』までにしたいと思うのですが、医学的に見て『健康を害さない量」はビールだと1日あたりどれくらいまでならOKでしょうか? その量を超えないように飲みたいと思います」

A. 厚労省のガイドラインが目安にはなりますが、「量」だけでは回答できません

2024年2月19日に厚生労働省から「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」が発表されました。 「お酒の飲み過ぎは健康を害する」ということは誰もが何となく認識しているでしょうが、国として飲酒量と健康リスクに関する具体的な見解が示されたのは、初めてと思われます。 詳細についてはリンク先の厚労省の資料を実際にお読みいただくのが一番いいのですが、ここでは要点を紹介しましょう。 このガイドライン中では、1日あたりに摂取する「純アルコール量」が、「男性なら40g以上、女性なら20g以上で、生活習慣病のリスクが高まる」と述べています。 ここで言う「純アルコール量」とは、種類によらず、お酒に含まれている純粋なアルコールの重量のことです。たとえば5%のアルコールを含んだビール500mlの1本は、純アルコール量としては20gになります。 ですから、ガイドラインで適量とされているのは、男性ならビール2本、女性なら1本までということです。少なく感じる人もいるかもしれませんね。 これまでは、飲酒量の目安を「ビール〇本、日本酒〇合」のように説明することが多かったのですが、同じ種類のお酒でもアルコール度数が違えば、アルコール摂取量は大きく変わるため、あいまいでした。 そこで、より正確な目安として「純アルコール量」という指標が取り入れられたようです。 また、同ガイドラインでは、摂取する純アルコール量が、男性なら300g/週(40g/日)以上、女性なら75g/週(11g/日)以上で脳梗塞の発症リスクが高まり、男女とも150g/週(20g/日)以上で大腸がんの発症リスクが高まるという研究結果も紹介されています。 国としては、国民一人ひとりがアルコールに関連する問題への関心と理解を深め、不適切な飲酒を減らすことで、疾病の予防と医療費の削減を図ろうとした取り組みであり、非常に良いことです。 一方で、専門家の筆者としては、今回の発表内容について留意すべき点があると思いますので、以下で私見を補足させていただきます。 まず、今回のガイドラインで「純アルコール量」という指標が導入されたことを受けて、お酒を扱う各社では、缶ビールや缶チューハイなどのアルコール飲料に、含まれている純アルコールの量(g)を表示する取り組みを進めているようです。 私たちがお酒を飲むときには、その表示を見て、「今夜の純アルコール摂取量をトータル20gまでにするためには、このお酒を〇本まで」と言った見積もりをしたうえで飲み始めればいいということになります。 確かに以前よりは正確に飲酒量を設定しやすいかもしれません。しかし、「純アルコール量」だけに頼るのは良くありません。 上の例であげたように、5%のアルコールを含んだビール500mlは純アルコール20gに相当しますが、40%のアルコールを含んだウィスキー62.5mLでも純アルコール20gです。 では、どちらを飲んでも、体への影響は同じなのでしょうか。そう、もちろん違います。お酒の濃さが違えば、飲んだあとの体内への吸収率も違ってくるので、酔い方や体への影響も違います。 また、同じ5%のビール500mlでも、ゆっくり時間をかけて飲んだときと、一気飲みしたときでは違いますよね。もうお気づきだと思いますが、要するに、アルコールの影響は、「最終的に血中アルコール濃度がどれくらいに達したか」で決まるのです。 もとのお酒に含まれているアルコール量が20gを下回っていても、飲み方によっては健康を害するでしょうし、逆に20gを少しくらい超えていても、薄めてゆっくり飲めば心配ないでしょう。量だけではなく、「飲み方」に気をつけることが大切です。 もう一点気になるのは、「飲酒のリスク」の考え方です。 上述のように「1日に摂取する純アルコール量が40g以上だと心筋梗塞の発症リスクが高い」と言われると、多くの人が「アルコールが心筋梗塞の原因になる」と思われそうですが、そうとも限らないのです。 発症リスクの研究は、2つの事象の「相関関係」を解析しているに過ぎず、実際の「因果関係」はわかりません。 飲酒量が多い人は、栄養バランスを崩しがちです。お酒ばかり飲んで、ちゃんと食事を摂らないと健康を害します。 アルコールによる認知症の場合、アルコール自体が脳に悪影響をもたらすというよりは、ちゃんと食事を摂らないためにビタミンB不足になり、それが神経系の障害につながるのです。 また、深酒を繰り返すと、睡眠障害にもなりますし、日中の活動低下や精神不安定にもなります。アルコールそのものの作用というよりは、飲酒がもたらす食生活や睡眠などの変化が、結果的に体や心を害していくのだということも心得ておくべきでしょう。 いずれにしても、お酒はほどほどに楽しむのがよくて、やはり飲み過ぎはだめです。今までに言われていたことと何ら変わりません。上手にお酒と付き合うようにしましょう。

阿部 和穂プロフィール

薬学博士・大学薬学部教授。東京大学薬学部卒業後、同大学院薬学系研究科修士課程修了。東京大学薬学部助手、米国ソーク研究所博士研究員等を経て、現在は武蔵野大学薬学部教授として教鞭をとる。専門である脳科学・医薬分野に関し、新聞・雑誌への寄稿、生涯学習講座や市民大学での講演などを通じ、幅広く情報発信を行っている。 (文:阿部 和穂(脳科学者・医薬研究者))

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