石川祐希、王者ペルージャ移籍の舞台裏。会長は発表前から興奮を抑えきれず「イシカワ! イシカワ! イシカワのことを話したいんだ!」

現地日、14バレーボール男子日本代表の石川祐希が、主戦場とするイタリアリーグ/スーペルレーガで今季王者のシル スーサ ヴィム・ペルージャに加入(契約期間2年)することを正式発表した。

イタリアはもちろん、欧州をはじめとする各国で大注目を集めた石川の移籍。報じられ始めたのは、2020-21から所属したミラノで4度目のレギュラーシーズンを戦う真っ最中だった。世界屈指と呼ばれるようになったアウトサイドヒッター(OH)の去就だけでも移籍市場を騒がせる出来事。さらに新天地候補の筆頭は欧州トップクラスの強豪ペルージャとあって、メディアとファンの関心は強まる一方だった。

実のところ、取材で出会うリーグ関係者の間で“ペルージャの石川獲得”は、ある時期から暗黙の了解となっていた。だが、あまりの過熱ぶりに、シーズン中の選手本人、所属クラブやチームメートに配慮して公の場で言及を控える状況が続いていた。そのため、耳に入る情報は、オフレコとして温めてきた。

そんな空気の中、プレーオフ開幕直後の取材で訪れたペルージャの本拠地『パラ バルトン』でリーグ関係者と談笑していると、「イ・シ・カ・ワー!!」と叫びながらこちらへ近寄ってきたのは、ジーノ・シルチ会長だった。アイコンタクトで肯定を匂わせつつも、言葉では知らぬ存ぜぬを貫いていたペルージャ陣営をかき分けて、「イシカワ!イシカワ!イシカワのことを話したいんだ!」とまだ禁句であったはずの名前を連呼。驚きを隠せない周囲の空気に、「これ、いいのか?」とドギマギしながら、熱弁に耳を傾けた。退団する主将のポーランド代表OHウィルフレド・レオンの後任として白羽の矢を立てた石川の獲得は、ペルージャにとって至上命題。それを成し遂げたクラブのトップは、歓喜を抑えきれない様子だった。

移籍に関する第一報を目にした直後から、きっとイタリア中部のこのクラブを新天地に選ぶだろうと確信していた。精鋭が揃う常勝クラブへの加入をキャリアの青写真として語っていた石川が、歩みを止めるはずがないからだ。けれど、予期せぬ形でそれが現実となった瞬間、より熾烈な環境へ自ら飛び込み新たな扉を開く石川の選択に万感の思いが込み上げてきた。
90年代黄金期のイタリア代表を主将として率い、現在は同国公営放送で解説者を務めるアンドレア・ルッケッタ氏からは、今季の決勝1戦目が行なわれたペルージャ本拠地でこんな言葉をかけられた。同クラブとイタリア代表の双方で主将と司令塔を担うシモーネ・ジャンネッリの名前を挙げて、「来季はこのアリーナがユウキのホームになるね。ジャンネッリと化学反応を起こしてユウキは間違いなく新しい成果を手にする。そう思うだろう?」と。筆者が大きく頷いたのは、言うまでもない。
リーグ公式HPも「輝きを放つ日出づる国の逸材がブラックデビル(ペルージャの愛称)へ!」と報道。中央大学在籍中の2014-15シーズンにイタリアでのキャリアをスタートさせた石川が、20-21からの直近4シーズンにミラノでクラブ史を次々と書き換えながら大きな飛躍を遂げたことに触れ、「ずば抜けた跳躍力、揺るぎない基礎技術のクオリティと多彩な攻撃力」とその能力を紹介。ペルージャがビックネーム獲得に成功したと伝えている。

移籍先のペルージャは今季、クラブ世界選手権2連覇に加え、スーペルコッパ、コッパイタリアとスクデット(リーグ優勝)の国内3大会を完全制覇して驚異の4冠を達成。石川は、それらすべてのタイトル連覇と、自身にとって初舞台となる欧州大会最高位チャンピオンズリーグで、クラブ悲願の初制覇を目指す。

重責を担うことになる石川にとって、心強い後ろ盾はリーグ随一の熱量を誇るサポーターの存在だ。彼らが陣取る“Curva(クルヴァ)”を取り仕切る某氏は、「イシー!イシー!イシー!」と取材の際に自作の応援歌を披露。軍団を代表して石川の加入を大歓迎した。

筆者の地元でもあるペルージャ界隈で今、バレーボールファンを最高に盛り上げているのはパリ五輪よりも“イシカワ”。「来季は毎週、取材に来てくれよ!OK?」と会長に真顔で肩を叩かれ、思わず背筋が伸びた。続けて、「歓待のサプライズを考えているんだ。何かアイデアはある?」と問われて、「日本と言えば、、、子どもたちにも親しまれるアニメはどうですか?」と返答。どんな企画が飛び出すのか楽しみだ。

清楚なブルー&ホワイトから威圧感を放つ極彩色のユニフォームに着替えて臨むイタリア10シーズン目。背番号14からますます目が離せなくなりそうだ。

取材・文●佳子S.バディアーリ

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