中川大志「役でも僕個人でも頼れる存在」、映画『碁盤斬り』で糧となった「大ベテランとの交流」

中川大志 撮影/川しまゆうこ スタリイスト:徳永貴士 ヘアメイク:佐鳥麻子

2009年にデビューして以来、確かな演技力でキャリアを重ねてきた俳優・中川大志さん。映画、ドラマから舞台まで、そして現代物から時代劇まで、数々の話題作に出演し、幅広い役柄で魅力を放つ中川さんの「THE CHANGE」とは――。【第4回/全4回】

中川大志さんの最新映画となるのは、5月17日から公開の『碁盤斬り』だ。本作で、中川さんは江戸の両替商・萬屋の手代、弥吉を演じている。

「映画『碁盤斬り』は江戸時代の物語ですが、やはり現代人とは違うものの考え方や、生き方がありますし、逆に令和の時代でも共感できることもある。そこが、時代物の面白さだと思いますね」

『鎌倉殿の13人』で演じた畠山重忠は武士だったが、『碁盤斬り』で演じる弥吉は、武士の生まれでありながら両替商・萬屋の奉公人となった人物。手代である弥吉は、主人の源兵衛、番頭の徳次郎に逆らうことは許されない一方、弥吉には弥吉なりの想いと正義を持っている。

「いろいろなことの板挟みになって、ある意味、かわいそうな男なんです(笑)。ちょっとした勇気を出せなかったばっかりに、どんどん状況が悪くなる。でも、もう言い出せない、みたいな。そういうことは今の日常生活や会社にもあると思うし、現代社会でも共感できるポイントですね」

弥吉の主人である源兵衛を演じるのは、國村隼さん。共演経験もあり、尊敬してやまない國村さんとは一緒のシーンが多く、圧倒的な安心感があったという。

「弥吉はもともと武士の子どもだったんですけど、親を亡くしてひとりぼっちになり、源兵衛に拾ってもらったという経緯があるんです。だから、上司ではあるけれど、どこか父親のようでもあり、役としても、僕個人としても頼れる存在でした。……國村さんが好きすぎて、毎日現場でお会いできて嬉しかったです(笑)」

「本当におもしろかった」大先輩のエピソード

空き時間にはふたりで会話を交わすことも多く、大ベテランである國村さんのお話を聞けたことは、貴重な経験になったという。

「特に、海外での現場でのお仕事の話をたくさんお聞きしました。これまでご一緒された海外作品の監督のエピソードや、海外の俳優さん方の役へのアプローチの仕方などのお話が、本当におもしろくて、ずっと聞き入っていました」

『碁盤斬り』は、囲碁を巡る、誇り高い武士の生き様を描いた古典落語の名作がベースとなっている。中川さんは出演が決まってから落語を見たそうだが、どんなふうに2時間の映画にするのか想像がつかなかったと思い返す。

「落語というのは、江戸時代から庶民に親しまれてきたもので、題材も庶民が共感できるものが多いんですけど、現代人とは物事の捉え方が違う。たとえば、『碁盤斬り』では濡れ衣を着せられた格之進が、誇りをかけて……最愛の娘を犠牲にしてまで、仇討ちを決意するのですが、現代では考えられないですよね。現代だったら命のやりとりにまでは発展しないし、しちゃいけない。切腹が武士の誇りだと言われても、納得できないと思います」

しかし、長い間語り継がれてきた名作落語には、それぞれの時代を生きる人々が共感できることもたくさんある。

「僕が演じる弥吉は、つい口から出てしまった言葉によって物事がどんどん悪いほうへ向かってしまい、草彅さんが演じる格之進、國村さんが演じる源兵衛との関係がこじれていく。でも、いつの時代にも、どんな場所でもそういうことってあると思うんです」

長く愛されてきた作品には、愛されてきた理由がある。長く演じてきた俳優には、経験という財産がある。これから年齢を重ねて、「中川大志」という俳優がどんな風に成長していくのか楽しみだ。

なかがわ・たいし
1998年6月14日生まれ。東京都出身。2011年、ドラマ『家政婦のミタ』(日本テレビ系)で一家の長男役を演じ、注目を集める。以来、数多くの映画、ドラマで活躍。2019年には映画『坂道のアポロン』『覚悟はいいかそこの女子。』で、第42回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。主な出演作品として、映画『四月は君の嘘』(2016年)、『砕け散るところを見せてあげる』(2021年)、NHK連続テレビ小説『なつぞら』、NHK大河ドラマ『真田丸』『鎌倉殿の13人』、TBS系火曜ドラマ『Eye Love You』などがある。

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