日本女子テニス界期待の17歳、齋藤咲良がプロ転向!「プレッシャーはない、どんどんテニスを盛り上げていきたい」<SMASH>

「プレッシャーは、ないです。逆に、どんどんテニスを盛り上げていきたい、みんなで!」

口元に、はにかんだ笑みを浮かべながらも、目には強い光を称えて、彼女は言った。

必ずしも、饒舌なタイプではない。彼女に近い人たちも、「どちらかといえば口数が少ない方」だという。ただ彼女は、人の話を聞く時、あるいは自身が言葉を発する時、まっすぐに相手の目をみつめる。こちらの心に直接訴えかけるかのような言葉は、リアルな質感を伴い響いた。

2006年10月3日生まれの、17歳。

現在の世界ランキングは、236位。ジュニアランキングは、昨年5月に世界2位を記録。ちなみに、ランキングポイントでは1位と並ぶも、出場大会数の兼ね合いで甘んじた2番手の地位である。

ジュニアで輝かしい実績を誇り、既に一般の国際大会でも活躍する齋藤咲良が、今年5月から正式に、プロキャリアのスタートを切った。

齋藤が今いる世界200位台前半のランキングは、グランドスラム(四大大会)予選に出られるかどうか微妙なライン。当落線である200位が近づくと、選手は誰しも目の色が変わる。ましてや17歳の斎藤にとっては、未踏の領域にして、キャリアの一つの目的地。意識しない方が不自然だろう。

現に齋藤自身も、全仏オープン開幕を2カ月後に控えた3月末頃から、予選出場を意識した事実を隠さない。
「日本でのITF(国際テニス連盟)大会シリーズが始まった頃から、フレンチ(全仏)の予選に出たいなと思い始めました。ライブランキングをチェックして、あと少しだ……と思ったり。やっぱり気になっちゃいました」

昨シーズンを362位で迎えた時、齋藤が掲げた今季の目標は、「8月の全米オープン予選に出場すること」だった。ところが、オフシーズンに重ねたトレーニングと練習による成長の加速度が、本人の予測を上回る。2024年シーズン開幕戦のITF W50で準優勝し、1月末のオーストラリア・バーニーのITF W75でも準優勝。ランキングを200位台に乗せたことで、「フレンチも出たい」との思いが自ずと頭をもたげた。

そこからの日本での5大会は、結果としては、甲府(ITF W50)と岐阜(ITF W100)の3回戦進出が最高。ただ試合のコートに立てば、「予選のことを考えたりはしなかった」と断言する。「自分のプレーが普段と違うと感じたことは?」の問いにも、「ないです」と即答した。
全体としては、「悔しい」戦績に終わった日本での5大会。だが、岐阜のカンガルーカップで勝利した2試合では、納得のプレーができたと頷く。良きヒントとなったのは、ビリー・ジーン・キング・カップ(女子国別対抗戦)の日本代表サポートメンバーとして、高質・高レベルのプレーを間近で見たことだ。

「大坂なおみさんは打つイメージあるんですが、ラリーの時は体勢が低くて、しっかりつないでいる。決めにいく時とラリーの時のメリハリがすごくあったので、そこはお手本にしたいと思いました。

日比野菜緒さんは、前に出ていくのが凄くうまくて。相手の体勢を見ながら判断し、ネットに出たらほとんど決めていた。相手がしっかり構えている時はフェイントを入れたりして、ゲームの作り方が凄くうまいんだなと思いました」

先達たちのプレーに強さの訳を見い出し、その一挙手一投足を目に焼き付けながら、いつか同じステージに立つその日を、彼女は思い描いたのかもしれない。

齋藤を筆頭に、現在17歳~18歳の世代には、日本テニスの未来を担うと目される若手が、キラ星のごとく名を連ねる。昨年9月の全米オープンジュニアでは、直前に棄権したクロスリー真優も含め、齋藤、小池愛菜、そして石井さやかの4人がシングルス・トップ8シードを占めた。
一方で“おとな”のランキングに目を向けると、単トップ100にいるのは、29歳の日比野菜緒ひとり。22歳の内島萌夏の急成長や、産休から復帰した大坂の好調など明るいニュースはあるものの、その灯を受け継ぐ次世代の台頭が望まれる機運があった。

それだけに、齋藤たちに向けられる関係者の視線は、熱を帯びる。それら周囲の期待を、当人は重圧に感じているだろうか——?

その問いを率直に向けると、彼女はいつものようにこちらの目をしっかり見返し、こう言った。

「フレンチの予選には出たかったけれど、それは周りがどうとかではなく、単純に自分が出たかったから。周りからのプレッシャーは特に感じないです。(小池)愛菜ちゃんや、(石井)さやかちゃんもいるので……みんなとは仲は良いですが、ライバルというか、お互い高め合える関係。1人で行くより、みんなで競い合いながら上に行けた方が、自分としてはうれしいです」

「みんなのことは12歳の頃から知っているし、そういう小さい頃から競ってきた人たちと一緒にトップ100に入れたら、結構すごいことだなと思うんですよ」

だから……と自身の言葉を受け、彼女は明るい声で言った。

「みんなで強くなれたら、テニス界も盛り上がるかと思います。理想は高いけど、メリットだらけかなって!」

取材・文●内田暁

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