【コラム・天風録】広島大150年

 社会学者の吉見俊哉さんの本にこんな一節がある。「大学は、人と人、人と知識の出会いを持続的に媒介する」。ふと思い出したのは先週末、ある光景を神奈川・湘南海岸で見たからだ。40~60代の広島大OB3人が海沿いの道を自転車で突き進んでいた▲関東在住の卒業生でつくるサイクリング部の初の活動だった。40キロ走った後の食事会は人数が増え、自己紹介もそこそこに3時間近く談笑した。「定年後も集まる仲間になれれば」と提案者。輪が広がり続けるといい▲大学は年の差を超えて人を結ぶ器かもしれない。その一つだろう広島大が、前身校の創立から150年を迎えた。記念して今夜マツダスタジアムであるカープ戦に学生や教職員250人が集う。大学カラーの緑のTシャツ姿で内野席の一角を占める▲広島大も、折り返しの75年前は苦労したようだ。新制大学としての開学資金の3分の1は広島県費、残りは寄付や宝くじ販売で何とか賄った。県民に支えられたからこそ長い歴史を築けた点は、カープ球団とも重なる▲どの大学も近年は国主導の改革にせかされているように見える。人のつながりを促し、地域と共にあるという原点は守り続けてほしい。

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