「こっちに来そ!」「雨がプル」地域の人たちと一緒に作る「ふるさと言葉の紙芝居」静岡市の山間地・井川地区の方言継承へ

言語学の専門家によりますと、静岡県の方言を大まかに分けると、西部・中部・東部。そして、井川方言の4つに分類できるということです。貴重な方言を残すために、元来の井川の言葉で語る紙芝居づくりが始まりました。

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静岡市街地から車で2時間かかる井川地区です。井川の方言を研究する言語学者・谷口ジョイ教授です。

<静岡理工科大学情報学部 谷口ジョイ教授>
Q.井川の方言は、どのくらいピンチですか?
「非常に深刻な危機にあると思います。継承が途絶えている状況です。セリフの部分だけ井川方言にして、子どもたちにも理解してもらえる形で」

紙芝居の主人公は、三十人力の逸話が残る井川の英雄「てしゃまんく」です。紙芝居のセリフの原案は、谷口教授が考えています。これを井川で生まれ育った人にチェックしてもらいます。

<遠藤弘子さん(84)>
「『こっちに来そ!』って言う。『来るな!』って意味」
Q.来てほしい、みたいな感じがするけど?
「『来そよ!』『来そ!』とも言う。井川では、動詞に「そ」を付けることで、禁止の意味を表します」

井川独特の発音もあります。

<遠藤弘子さん(84)>
「行くことを「『パシル』って言うだよ。走ることじゃないの。行こう!パシラザー!って」

<野路毅彦アナウンサー>
「レッツゴーは、パシラザーですか!」

<静岡理工科大学情報学部 谷口ジョイ教授>
「ハヒフヘホで始まる、井川の主に動詞なんですけど、パピプペポになる」

<遠藤弘子さん(84)>
「雨がプル。雨がプッて来たで洗濯もんとりこまにゃー。言ってること分かる?」

全国的に見ても、なかなか他にない特徴を持つ井川の言葉を、谷口教授が調査し始めたきっかけは、何だったのでしょう。

元々は海外に出向いて、バイリンガルの子どもたちがどのように読み書きを覚えるのか研究していましたが、コロナ禍で渡航はあきらめざるを得なくなりました。

<静岡理工科大学情報学部 谷口ジョイ教授>
「県外にも行けなくなって悩んだ。あなた『井川から一番近くに住んでいる言語学者だから』と言われた。実際来てみたら、とても遠かった(笑)」

今回の紙芝居の主人公・てしゃまんく。「てしゃまんくは、ただ怪力だったわけではない」という男性が現れました。

<望月篤さん(87)>
「頭良くて。荷棒(にんぼう)を使って一人で上げたと」

荷棒とは、荷物を運ぶ時の杖であり、他にも大事な役割がありました。

<静岡理工科大学情報学部 谷口ジョイ教授>
「本物の荷棒すごい!」

<望月正人さん>
「座っちゃったら、立ち上がれないもんで。こうしたら肩も楽だし。腰も楽。」

<野路毅彦アナウンサー>
「休憩するための、つっかい棒!」

<望月正人さん>
「そうです」

地域にすっかりなじんだ言語学者と、井川で生まれ育った人たちが一緒になって作り上げるふるさと言葉の紙芝居。2024年秋頃の完成を目指しています。

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