“体感140キロ超”でも…剛腕小学生の球は「遅いです」 全国3冠への抜かりなき準備

大阪・新家スターズの練習の様子【写真:高橋幸司】

2023年全日本学童大会優勝…大阪・新家スターズの強さは“本拠地開拓”から始まる

“全国3冠”の強さの秘訣は、豊富な練習量と入念な対策にある。大阪・泉南市の学童野球チーム「新家スターズ」は昨年、“小学生の甲子園”「全日本学童軟式野球大会マクドナルド・トーナメント」で初優勝を果たし、さらに「高野山旗全国学童軟式野球大会」「くら寿司トーナメントポップアスリートカップ」でも頂点に立った。チームを率いて17年目の千代松剛史監督は、「試合をたくさんして、課題を持ち帰って練習する、その積み重ねでやってきました」と語る。

大阪市内から南へ電車で約1時間、和歌山県にほど近い新家(しんげ)の駅に降り立ち、さらに車で10分ほど高台に上ったところに、新家スターズの専用グラウンドがある。公式戦ができるほどの広さがあり、夕方5時から約3時間の平日練習(火・水・木曜)も可能にするLED照明、さらに投球マシンが複数台据えられた建屋もグラウンド横には備わっている。

さすがは日本一チームの練習環境と思わされるが、「ここまで来るのには10年くらいかかったんですよ」と、千代松監督は地道な道のりを思い返す。1979年創設の老舗チームの練習は、元々は地元の新家小学校のグラウンドや近隣のグラウンドを借りて行ってきたが、あるとき、草木が生い茂っていたこの場所にチーム関係者が目をつけた。

「梛木(均)さんという方が、『グラウンドにできないか』って言うんです。背丈ぐらいの木や草がボウボウに生えていたので『どうにもならへんでしょ』と思っていたんですが、そこから、土地を所有している社長さんを探して交渉して、ほぼ1人で切り開いてくれたんです。防球ネットもゴルフ場で使わなくなったものとかを集めて、ありがたいことに、ほとんどお金はかからなかったんですよ」

打撃練習場として使う壁のない建屋も、よく見ると屋根はソーラーパネル。土地の所有者が建てたその下を使わせてもらうことで、雨天時の練習にも困らなくなった。2019年の台風でグラウンドが大きな被害を受けたときにも、復旧の手助けをしてくれたといい、「社長さんに感謝、梛木さんに感謝ですね」と指揮官はしみじみと語る。

昨年の全日本学童大会を制した新家スターズ【写真:加治屋友輝】

OB大学生に投げてもらい“目慣らし”…逸材に食らいつき日本一に突き進む

自分たちの“本拠地”ができたことの一番の効果は、練習量を確保できるようになったことだ。「特に子どもたちはバッティングが好きでしょう。打てる量も増えるから、ますます野球が好きになっていくんですよ」。

そしてもう1つの大きな効果は、練習試合を存分に組めるようになったこと。冬場は徹底した打撃練習などで基礎を培い、シーズンに入れば週末は実戦を積み、平日は試合で得た反省や課題改善に取り組むサイクルが出来上がった。次第に強豪ぞろいの大阪を勝ち上がって全国の舞台を踏むようになり、2015年、2019年には全国スポーツ少年団交流大会で優勝。全日本学童でも2022年にベスト4、そして昨年は初Vと、着実に上昇曲線を描いていった。

取材に訪れた日も、5・6年生約25人が集い、週末の試合に向けた準備に余念がなかった。「相手投手の身長が高くて、球速が100キロ出ることがわかっているので、OBの中学生が来て投げてもらっています」。相手を想定しての徹底的な準備・対策が、新家スターズの強さを生む秘訣だ。

そんな“徹底対策”が実った好例が、昨年の全日本学童の準決勝、東京・レッドサンズ戦。相手エースは、球速120キロ台の剛速球を誇る逸材左腕・藤森一生投手(現・駿台学園中)。千代松監督と二人三脚でチームを運営する吉野谷幸太コーチが、秘話を明かす。

「スポ少で初優勝した時のキャプテン(鎌田城太郎さん、市和歌山高で2021年選抜出場)が、ちょうど大学の夏休みで大会に帯同してくれていたので、相手が藤森くんと決まった直後と試合当日の朝と、バンバン投げてもらって“目慣らし”をしたんです。試合中に選手たちに『どうや』と聞くと、『城太郎先輩より遅いです。いけます』となりました」

同年末のNPB12球団ジュニアトーナメントでも巨人ジュニアの一員として活躍する藤森投手は、2番手で登板したこの試合で、衝撃の最速124キロをマーク。「(マウンド・本塁間)16メートルで124キロなんて、体感的には140キロを超えているでしょう。それでも簡単に三振せず、全員で食らいついていましたね」(吉野谷コーチ)。前年阻まれた4強の鬼門を突破したチームは、初優勝へと突き進んだ。

「負けるくらいの相手じゃないと、選手たちも成長がわかりません。強いチームと試合をして、反省点やミスした部分、相手の凄かった部分を持ち帰って、徹底して練習をやる。その積み重ねです」と千代松監督。今年の全日本学童は前年優勝枠での出場が決まっている。夏の大一番に向けて、高台の”本拠地”で抜かりなく腕を撫している。(高橋幸司 / Koji Takahashi)

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