ローマ字で書かずに「李小龍」、ソウル近郊に「味の素フィールド西が丘」【日本と韓国を結ぶ漢字とサッカーと板橋と烏山】(1)

Kリーグ、城南一和対浦項戦入場券。ハングルだけなので日本人には分からない。提供/後藤健生

近年、アジアのサッカーは急速にレベルを上げている。そうした環境での切磋琢磨で、各国は成長していく。ライバル関係にある日本と韓国も、互いに高め合う仲間だ。蹴球放浪家・後藤健生が、両国をつなぐサッカーと文化についてつづる。

■「サッカリン」「マッカーサー」に思わず反応

最近は韓国の地下鉄や高速道路で地名がハングル、ローマ字だけでなく、漢字でも書いてあることが増えました。

漢字は、書き方を覚えるのは難しいのですが、覚えてしまえば読むときにはとても便利な文字です。ひと目見ただけで、すぐに何という文字か分かるのです。ローマ字やカナと違って、映像として脳に取り込まれるからでしょう。

もっとも、カナでもしょっちゅう目にする単語は映像化されているので、膨大な文字の中に浮き上がって見えてきます。たとえば、僕にとっては「サッカー」という文字列はそうした特別な単語の一つ。「サッカリン」とか「マッカーサー」とか、「マカッサル(インドネシアの都市)」という単語を見ても、思わず心が反応してしまいます。

ハングルは読み方を知らない人にとっては記号の羅列です。しかし、しょっちゅう目にしていると、次第にそれが文字に見えてきます。そして、「ソウル」とか「ハングク(韓国)」といった単語は、やはり映像化されて、一目で理解できるようになります。僕にとっては「チュック(蹴球)」という単語のハングル表記も、そうした映像化された文字列になっています。

■中国の「人名」や「地名」は漢字で表記すべし

でも、やっぱり漢字は便利。香港でバスに乗るときに、それを実感します。なにしろ、地名が漢字で書いてあって、読み方がローマ字で書いてあるのですから。

香港は中国人の社会。言語的には広東語の世界ですから、街中至る所に漢字が氾濫しています(今では、怪しげな「ひらがな」表記も出回っていますが……)。

韓国でも、香港でも(あるいは中国大陸でも)、ローマ字も広く使われています。外国人旅行客のためでもありますし、香港の場合、100年間も英国の直轄植民地だったので、英語教育が普及しているからです。だいいち、香港人は漢字2文字か3文字の中国式の名前のほかに、英語風のファーストネームを持っています。

たとえば、李小龍という香港人俳優は、世界的には「ブルース」という英語のファーストネームで知られています(「李小龍」というのは芸名で、本名は「李振藩」)。

ちなみに、「小龍」の発音は北京語か広東語かで違っていますし(もちろん、上海語でも、四川語でも、客家語でも全部発音は違います)、そのローマ字表記はいろいろあって複雑なことになります。

たとえば、香港のことを「Hong Kong」と書いてあればすぐに分かりますが、北京語で「Xianggang」と書いてあったら、それが香港のことだと分かる日本人はほとんどいないでしょう。

ですから、中国の人名や地名はカナ表記やローマ字表記にするよりも、漢字で書くべきなのです(漢字を見せれば、北京人でもすぐに理解できる)。

■韓国にも日本にもある「板橋」

さて、長~い前振りはこれで終わります。

最近は、韓国の駅名表示や高速道路の案内標識にも漢字表記が使われているという話に戻ります。

あるとき、現地の知り合いの車に乗って、ソウル市内の高速を走っていたとき、案内標識に「板橋」という地名を見つけました。

東京の方は、僕がなんで「板橋」に反応したのか分かりますよね。そう、東京にも「板橋」という地名があるからです。東京都板橋区……。江戸時代、江戸から北に向かう中山道の親宿(江戸を出る最初の宿場のこと)でした。味の素フィールド西が丘があるところです。

韓国の「板橋」は「パンキョ」と読みます。韓国の首都ソウル特別市の南東に接する城南(ソンナム)市盆唐(ブンタン)区にある街です。

城南は韓国の2部リーグ、Kリーグ2に所属する城南FCがあるソウルの近郊都市です。城南FCは、かつては「城南一和天馬」と呼ばれ、アジアクラブ選手権やACLで優勝したこともある強豪でした。スポンサーの「一和」は「統一教会」系の企業で、クラブのプログラムなどには最初のページに教祖である文鮮明(ムン・ソンミョン)総裁と韓鶴子(ハン・ハクジャ)夫妻の肖像がデカデカと掲げられていたものです(現在の城南FCは、統一教会とは関係がありません)。

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