日本での馬車と牛車の普及について

馬車と牛車、似ているように思える2つの乗り物ですが、実は日本では明治時代になるまで馬車が普及していなかったのをご存知でしょうか?今回の記事では、馬車と牛車の用途や普及には歴史的にどのような違いがあったのかをまとめました。

それぞれの特徴や違い

馬車と牛車は、いずれも車輪の付いた乗り物を動物に曳かせる移動手段です。では日本において馬車と牛車の文化的背景にはどのような違いがあったのでしょうか?

騎馬文化はあったが馬車は普及せず

使役動物としての馬の歴史は長く、日本においても馬によって移動の利便性などが向上したと考えられています。皆さんも、武士が馬に乗っている姿は時代劇や歴史の教科書などで見たことがあるはずです。

一方で、平安時代・江戸時代などに馬車が使用されていたというイメージはないのではないでしょうか?さらに時代をさかのぼって古墳時代をみても、馬に乗っている人をかたどった埴輪が発見されていますが、馬車らしき埴輪は見つかっていません。

実際に、日本で馬車が使用されたのは主に西洋の文化を積極的に取り込んだ明治・大正時代だったといわれています。なお、その馬車も庶民にとっては敷居が高く、長距離を移動する手段としては同時期に発達した鉄道のほうが一般的だったようです。

牛車は貴族のステイタスだった?

馬車は主に近代になってから使用されたのに対して、牛車は奈良・平安時代を中心とする古い時代に使用されていました。現在も京都で行われる「時代まつり」などでは平安時代の装束をまとった人々とともに牛車を見ることができます。

ところで、実際に見てみると分かるのですが牛車は決して早い乗り物ではありません。現代の観光牛車について調べると時速2.6kmほどのようなので、もし昔の牛車も同じくらいであれば成人の歩行速度よりも遅いということになります。

一方、馬車は牛車よりは速く、二頭立ての馬車であれば時速4~10kmほどといわれています。さらに頭数を増やせば、人間が歩くよりもかなり速く移動することができるでしょう。

比較すれば馬車のほうが利便性は高そうですが、それでも牛車が広く貴族の間で使用されたのはなぜなのでしょうか?

実は、絢爛な牛車でゆっくりと侍従とともに路地を進んでいくことは貴族にとって「身分・権威を周囲に示す行為」であったという説があります。

牛車の装飾は官職などにより細かく定められていたようなので、御簾で牛車に乗っている人自体が見えなかったとしても「誰の牛車なのか」「どれほど権威があるのか」を示すことはできたのでしょう。

馬車が日本で普及しなかった理由

使用された時代や役割にはいくつかの違いがある馬車と牛車。では、利便性も高い馬車が日本ではあまり普及しなかったのはなぜなのでしょうか?

朝鮮半島経由での騎馬文化伝来

世界中では古くから馬が移動手段として使用され、特に迅速な移動が必要となる戦争では馬が使用されてきました。古代のヨーロッパとアジアを比較すると、傾向としてヨーロッパでは戦車が広く使用され、一方でアジアでは騎馬での移動が多かったようです。

このような文化的差異がある中で、日本には朝鮮半島から馬が輸入されたと言われています。そのため、日本では戦においても移動手段としても、戦車(馬車)ではなく騎馬が一般的であったと考えられます。

日本の路面事情

今回の記事でも、牛車は非常にゆっくりで、一方の馬車は人よりも早く移動ができるという「スピードの違い」に触れました。しかし、速い乗り物にはデメリットもあります。

みなさんは馬車や牛車を考える際に、道路が平らに整備されている状況を思い浮かべるかもしれません。しかし、昔の日本は都の中心から少し離れれば道らしい道はあまりなかったのだとか。

さらに、牛車の車輪は木でできているので、現在のタイヤのように弾力はありません。そのため、ゆっくりの牛車ですら「初めて乗る人は戸惑うほど揺れた」といいます。

これが、馬のスピードだったらどうでしょうか?おそらく、とても人が乗っていられるレベルの揺れではないのでは・・・?と想像できますね。

さらに、雨量が多い気候帯のため、一度雨が降れば道はかなりぬかるんだようです。こうした環境では、車輪の付いた乗り物を曳くよりも騎馬での移動が便利ですね。

馬車に乗ってみたい人へ

さまざまな理由から日本では普及が進まなかった馬車。しかし、馬に曳かれてのんびりと移動するのも、乗馬とはまた違う良さがあります。最後に、馬車に乗ってみたい!と思ったらどのような場所で乗ることができるのかまとめました。

大きな牧場やテーマパーク

体験型の牧場や屋外型のテーマパークの中には敷地内で馬車の運行を行っているところもあります。例えば、北海道にあるノーザンホースパークは馬とのふれあい体験の一つとして観光馬車の運行を行っています。ノーザンホースパークは競走馬生産牧場であるノーザンファームが母体となっているまさに馬のテーマパーク。馬好きなら、北海道に行った際にはぜひ寄ってみたいですね。

競馬場

東京・京都などの競馬場では、競馬だけでなく馬に親しんでもらおうという取り組みを行っています。その一環として、休日やイベント期間中に馬車の運行をしている場合もあるので、要チェックですね!

競馬場に行ったことがないと「ちょっと怖い場所かな?」というイメージがあるかもしれませんが、最近では若い女性やファミリー層を取り込もうという方針でさまざまな企画も行われています。馬車をきっかけに行ってみたら、競馬場のイメージが変わるかもしれませんね。

その他

上記のほかに、温泉街・観光地などでも馬車に乗れる場合があります。例えば、温泉で有名な湯布市にも辻馬車があるほか、富士山のふもとである富士吉田市などでも馬車に乗ることができますよ。

ちなみに、馬車は大きな馬が曳いていることが多いですが、富士吉田市では珍しい木曽馬の馬車に乗るチャンスも。小さな体で力強く馬車を曳く姿は、かわいらしくも頼もしくて癒されます。

まとめ

日本では意外と普及が進まなかった馬車。牛車との比較などを通して、日本では普及しにくかった背景なども考えてみましたがいかがだったでしょうか?もし国内で馬車に乗る機会があったら、曳いている馬の品種などにも着目して楽しんでみてくださいね!

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