バイオものづくりに有望な微生物の遺伝子組み換え効率、約5.7万倍に向上 名大ら

長浜バイオ大学と名古屋大学は10日、バイオものづくりの基盤微生物として有望なTol5株(Acinetobacter属細菌Tol5株)の遺伝子組み換えの効率を、約5.7万倍に高めることに成功したと発表した。

バイオものづくりは化学物質の生産に微生物の力を借りる。そのため、CO2の排出量が少なくてすみ、「持続可能なものづくり」として、世界的に大きく注目されている。

今回開発されたTol 5変異株は、このようなバイオものづくりの基盤微生物として広く活用されることが期待される。

■バイオものづくりとは? 我々人類は古来より化学物質の生産に微生物の力を借りてきた。たとえば、酒、味噌、醤油等の発酵食品の製造等だ。

しかし現代のバイオものづくりにおいては、微生物の力をそのまま借りているわけでない。たとえば、インスリン製剤の製造では、大腸菌にヒトのインスリンをつくる遺伝子を組み込んで、大腸菌にヒトのインスリンをつくらせている。

従来、バイオものづくりの基盤微生物としては、大腸菌が使われてきた。だが現在、医療品、素材、燃料、化学品等多様な分野での利用を想定して、大腸菌では生存できないような多様な環境でも増殖でき、大腸菌では生産できないようなより複雑な化合物を生産できる新しい基盤微生物が求められている。

Tol5株は、高い有機溶媒耐性・多様な物質変換能力・生産物質の回収の容易性等、バイオものづくりの基盤微生物として非常に優れた特徴を持っている。しかしその一方で、遺伝子の組み換えが難しいという難点があった。

■Tol5株の遺伝子組み換えの効率を約5.7万倍に向上 まず研究グループは、Tol5株の遺伝子の組み換えが難しい原因が、Tol5株の外来DNAに対する防御機構(制限装飾系)にあることを突き止めた。

そこで遺伝子を破壊し、この防御機構で重要な働きをする2つの酵素(制限酵素)をつくれなくしたところ、Tol5株における遺伝子組み換えの効率が約5.7万倍に高まった。

なおこの防御機構は、多くの微生物に共通しており、今回の研究グループが採用したアプローチは他の微生物にも応用可能だという。

研究グループによれば、今後遺伝子組み換えがしやすくなったTol5変異株は、バイオものづくりの基盤微生物として、広く活用されることが期待されるという。

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