豊竹呂太夫改め十一代目豊竹若太夫襲名披露 国立劇場5月文楽公演上演中

すべての写真(16)を見る

5月9日(木)から、東京・シアター1010で『5月文楽公演』が上演されている。

これまで多くの伝統芸能公演を制作、上演してきた国立劇場だが、現在は再整備期間中。それでも、伝統芸能の振興のため、都内各劇場にて主催公演を続けている。本作は、昨年12月に国立劇場主催公演の新たな一歩を踏み出した足立区・北千住のシアター1010(センジュ)にて再び開催する文楽公演で、文楽を代表する大名跡「豊竹若太夫」が57年ぶりに復活。豊竹呂太夫改め十一代目豊竹若太夫襲名披露となる。初代は18世紀初めに竹本座とともに今日の文楽の礎を築いた豊竹座の祖として活躍し、このたび襲名披露する十一代目は、昭和前期に豪快な語り口で知られた十代目の孫で、現代を代表する太夫のひとり。初代が初演し、十代目も襲名披露狂言とした『和田合戦女舞鶴(わだがっせんおんなまいづる)』に挑む。

襲名披露は『寿柱立万歳(ことぶきはしらだてまんざい)』で幕開き。大正4(1915)年10月、御霊文楽座初演『仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)』八段目「道行旅路の嫁入(みちゆきたびじのよめいり)」に挿入された引き抜きの場面として初演された。家屋を建てる際に初めて柱を立てる儀式である“柱立”を題材とした常磐津『乗合船恵方万歳(のりあいぶねえほうまんざい)』を義太夫節に移した作品で、太夫と才三が、門口で小鼓と扇を手に柱立を披露し、家々の繁栄を祈りつつ、賑やかに舞う。襲名披露公演の幕開きにふさわしくおめでたい一幕だ。

『寿柱立万歳』より左から)才三:吉田文昇、太夫:吉田簑太郎提供:国立劇場(撮影:田口真佐美)

続いて、「豊竹呂太夫改め十一代目豊竹若太夫襲名披露口上」で、新・若太夫を中心にゆかりの技芸員が舞台に並び、お客様にご挨拶の口上を述べる。

「豊竹呂太夫改め十一代目豊竹若太夫襲名披露口上」より前列左から)豊竹呂勢太夫、竹本三輪太夫、竹本錣太夫、豊竹呂太夫改め豊竹若太夫、竹澤團七、桐竹勘十郎、竹本千歳太夫後列左から)竹本小住太夫、豊竹芳穂太夫、豊竹希太夫、豊竹亘太夫、豊竹薫太夫提供:国立劇場(撮影:田口真佐美)

襲名披露狂言『和田合戦女舞鶴』市若初陣の段は、元文元(1736)年3月に大坂豊竹座で初演された時代物浄瑠璃。作者は、後に三大名作と呼ばれる『菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)』『義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)』『仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)』の合作者のひとりで、『一谷嫰軍記(いちのたにふたばぐんき)』の執筆半ばで逝去した並木宗輔(千柳)だ。鎌倉幕府三代将軍・源実朝の時代に起こった、北条氏が和田氏を滅ぼした和田合戦の勃発を、未然に防ごうと働く人々の悲劇を描く五段の物語で、「市若初陣の段」は三段目に当たる。名高い女武者の板額は、主君の忘れ形見の命を助け、夫の意図を悟り、初陣に手柄を立てたい息子・市若丸の望みをかなえるために苦悩する。ひとりの女性として選択を迫られる板額の姿、そして晴れて手柄を挙げた市若丸を称えて人々が見送る場面が聴きどころ・みどころとなる。外題の女舞鶴は、和田合戦で門破りをして勇名をとどろかせた朝比奈義秀を女性に置き換えたことを示している(舞鶴は朝比奈の紋)。

『和田合戦女舞鶴』市若初陣の段より左から)妻板額:桐竹勘十郎、市若丸:桐竹紋吉提供:国立劇場(撮影:田口真佐美)
『和田合戦女舞鶴』市若初陣の段より左から)浅利与市:吉田玉志、妻板額:桐竹勘十郎、市若丸:桐竹紋吉提供:国立劇場(撮影:田口真佐美)

初代若太夫が初演し、十代目が襲名披露狂言に選んだ代々の若太夫ゆかりの演目に、十一代目が新たな生命を与える。

幕引きは、『近頃河原の達引 (ちかごろかわらのたてひき)』。「堀川猿廻しの段」「道行涙の編笠」が上演されるが、「道行涙の編笠」は実に34年ぶりの上演となる。自分を陥れようとした武士を殺めてしまった伝兵衛、恋仲の伝兵衛を案じるおしゅん、ふたりが心中することを恐れるおしゅんの母や兄・与次郎。京・堀川の貧家で、心温まる家族の思いやりや恋慕の情が交錯する。おしゅんの切々としたクドキ、おしゅん伝兵衛の門出の祝いに奏でられる猿廻しの曲と、印象的な場面が続く。「道行涙の編笠」では、おしゅんと伝兵衛のふたりが手を取り合って死出の旅立ちをする。美しくも哀切な調べも聞きどころだ。

『近頃河原の達引』堀川猿廻しの段より左から)娘おしゅん:豊松清十郎 、猿廻し与次郎:吉田玉助、井筒屋伝兵衛:吉田一輔提供:国立劇場(撮影:田口真佐美)
『近頃河原の達引』堀川猿廻しの段より左から)猿廻し与次郎:吉田玉助、娘おしゅん:豊松清十郎、井筒屋伝兵衛:吉田一輔提供:国立劇場(撮影:田口真佐美)
『近頃河原の達引』道行涙の編笠より左から)娘おしゅん:豊松清十郎、井筒屋伝兵衛:吉田一輔提供:国立劇場(撮影:田口真佐美)

公演は2024年5月27日(月)まで、東京・シアター1010(足立区文化芸術劇場)にて上演。令和元(2019)年以来の二部制となっており、Aプロで襲名披露公演、Bプロでは時代物の名作『ひらかな盛衰記(ひらがなせいすいき)』が本格上演となっている。

『ひらかな盛衰記』義仲館の段より手前左から)巴御前:吉田簑紫郎、木曾義仲:吉田玉勢後ろ左から)駒若君:吉田簑太郎、山吹御前:吉田勘彌提供:国立劇場(撮影:小川知子)
『ひらかな盛衰記』楊枝屋の段より左から)鎌田隼人:吉田玉佳、腰元お筆:吉田和生、駒若君:吉田簑太郎、山吹御前:吉田勘彌提供:国立劇場(撮影:小川知子)
『ひらかな盛衰記』大津宿屋の段より左から)船頭権四郎:吉田玉也、倅槌松:吉田玉彦、女房およし:桐竹勘壽、腰元お筆:吉田和生、駒若君:吉田簑太郎、山吹御前:吉田勘彌、鎌田隼人:吉田玉佳提供:国立劇場(撮影:小川知子)
『ひらかな盛衰記』笹引の段より腰元お筆:吉田和生提供:国立劇場(撮影:小川知子)
『ひらかな盛衰記』松右衛門内の段より左から)女房およし:桐竹勘壽、腰元お筆:吉田和生、船頭権四郎:吉田玉也提供:国立劇場(撮影:小川知子)
『ひらかな盛衰記』逆櫓の段より樋口次郎兼光:吉田玉男提供:国立劇場(撮影:小川知子)

<公演情報>
令和6年5月文楽公演

■Aプロ
『寿柱立万歳』

豊竹呂太夫改め十一代目豊竹若太夫襲名披露口上

襲名披露狂言『和田合戦女舞鶴』
市若初陣の段

『近頃河原の達引 』
堀川猿廻しの段
道行涙の編笠

■Bプロ
『ひらかな盛衰記』
義仲館の段
楊枝屋の段
大津宿屋の段
笹引の段
松右衛門内の段
逆櫓の段

2024年5月9日(木)〜5月27日(月)
会場:東京・シアター1010(足立区文化芸術劇場)
※15日(水)休演

チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2409333

公式サイト:
https://www.ntj.jac.go.jp/schedule/kokuritsu_s/2024/6511.html

令和6年4月・5月文楽特設サイト:
https://www.ntj.jac.go.jp/kokuritsu/2024/bunraku_45.html

すべての写真(16)を見る

© ぴあ株式会社