理路騒然?

 言い間違いの事例集「言いまつがい」(新潮文庫)を気晴らしに開いては、いつも噴き出す。例えば「むっつ」と「6個」がごっちゃになって「むっこください」。「3交代制で働いています」と言うはずが「参勤交代で働いています」…▲褒めたつもりで「君の言い分は理路騒然(・・)としているね」という例もあるが、今は笑うに笑えない。「賃上げに加えて定額減税を行い、物価上昇を上回る所得を必ず実現します」。岸田文雄首相は先ごろ、こう断言した。理路整然のようにも思える▲大方の人には「ああ、そういえば…」という話だろう。6月以降、1人当たり所得税と住民税の計4万円が減額され、納税者と配偶者、子ども1人の世帯ならば計12万円になる▲これを皮切りに、減税が続くわけではない。物価高や円安がとどまる気配はなく、電気代やガス代の補助もじきに終わる。1年きりの減税にどれほど効果があるだろう▲生活を「先行き不透明」の暗雲が覆ういま、減税分が「使う」よりも「ためる」に回されてもおかしくない。理にかなった「整然」よりも、整理のつかない「雑然」や、混沌(こんとん)とした「騒然」の方が似つかわしい▲言い間違いをもう一つ。「逆転の発想」を「逆走の発展」。国民の期待の逆をいくような一策の先に、発展はあるのかどうか。(徹)

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