【インタビュー】ONCE、自然体で多彩な活動を続ける杉本雄治の今と未来

2023年夏に始動した杉本雄治のソロプロジェクト「ONCE」の活動が好調だ。作詞作曲、アレンジとプロデュース能力をフルに発揮した1stアルバム『ONLY LIVE ONCE』に続き、大阪と東京のビルボードライブで収録したライブアルバム『ONLY LIVE ONCE in Billboard Live』では、頼れるメンバーを揃えてバンド編成での可能性を追求。5月15日に配信リリースされるニューシングル「夢でもし逢えたら」も、ライブ映えするリズミックでポップな曲に仕上がっている。ピアノトリオの魅力を極めたWEAVERの解散からおよそ1年半を経て、現在はONCEとして、サポートミュージシャンとして、楽曲提供やミュージカルの作曲など、自然体で多彩な活動を続ける杉本雄治。彼は今何を考え、何処へ向かうのか、あらためてその心の内を聞いてみた。

■自分の音楽を表現したいということでONCEをやっているので■そういった意味ではONCEはまだまだ無名の新人なんです(笑)

――ONCEが始動してからおよそ1年弱。どうですか、ここまでの1年を振り返ると。

杉本雄治(以下、杉本):あっという間でした。この1年は、求められるのならそれに全部応えたいし、それと同時に、今まで自分からやってこなかったことを積極的にやれたらいいなと思っていたので、いろんな現場でのサポートをやらせてもらったり、舞台の音楽を作ったり、ちょっとパフォーマーとしても出演させてもらったり、そういう1年でしたね。

――色々と得るものは多かったですか。

杉本:そうですね。人に求められることはすごく好きですし、そこで自分の実力を出せることが生きがいになっていたと思うのと同時に、でもやっぱり自分はまだ、自分で作って自分で表現したいものがあるということを、より強く感じられた1年だったので。その1年を経て、2024年はもうちょっと自分の作品を、去年よりは出して、ライブも1本でも多くできるような1年にしたいなという気持ちが強くなったなと思います。

――2023年9月にリリースした1stアルバム『ONLY LIVE ONCE』は、今振り返るとどんな思いがありますか。スタート地点というか。

杉本:あの作品を作っている中でも葛藤はあって、(制作の)前半は「一人でどこまでやれるのか」ということにこだわっていた部分が間違いなく強くて、アレンジも全部自分でやって、でも結果的にはいろいろな人の力を借りることで、1が10に、10が100に広がっていくんだなということを実感できました。一人にこだわったおかげで、人と作るありがたさをより感じることができたので、そういうものを見つめ直す作品になったんじゃないかなと思います。

▲『ONLY LIVE ONCE』
――ソロプロジェクトならではの自由さとか、想像力の広がりを、すごく感じられる作品だと思いました。打ち込みでリズムを作ってみたり、新しいサウンドの冒険もいっぱいありましたし。

杉本:今までも、ちょっと変わった変拍子が好きだったりしましたが、そういうこともやりつつ、ライブで映えするような…最初はライブも一人でやりたいという思いがあったので、ただ弾き語りをするのではなくて、「一人でこんなことできるんだ」ということに自分自身もチャレンジしたかったですし、ファンの人たちに対しても「杉本、一人でこんなことやっちゃうんだ」みたいに、ライブを受け取ってもらえたら嬉しいなと思っていたので。曲の作り方としては、ループさせる部分がすごく多くて、ライブでもリアルタイムでリズムをループさせて音を積み上げていくという、ちょっと実験的なことを最初のツアーではやっていました。

――確かに、ピアニストのソロというイメージを、良い意味で裏切るような展開だったと思います。

杉本:今までの武器もしっかりと残しつつ、新しいアプローチをしたということですね。バンドだったらやれなかったなと思うことを、ちゃんとこの作品にも詰めることができたと思っています。

――そして2024年に入って、ビルボードライブ大阪と、東京で、バンド編成のライブをやりましたよね。あれはどんな経験でしたか。

杉本:最初のツアーが「一人でどこまでできるか」という実験的なライブだったので、初めてバンド編成でやってみて、さっきお話したように、人と作ることで生まれるもの、一人では生まれないものがこんなにあるんだなということを、あらためて痛感させられた内容になりました。

――そのライブを収録したのが、4月に出たライブアルバム『ONLY LIVE ONCE in Billboard Live』。これはぜひ聴き比べてほしいんですが、曲は同じでも全然グルーヴが違いますね。1stアルバムの音源とは。

杉本:もうまったく別物ですし、ビルボードライブではバイオリンを入れたり、音源にはない音も色々入れてアレンジをしたので、そういった部分でもアプローチが全然変わって、すごく面白いサウンドになったんじゃないかなと思います。

▲『ONLY LIVE ONCE in Billboard Live』
――自分の名義でのバンド編成というのは初めてのスタイルでしたけど、やってみてどうでしたか。

杉本:そこで言うと、ビルボードライブのメンバーは気心が知れている方たちを選んだので。最初の構想としては、ビルボードという場所で、バチバチのサポートミュージシャンを入れてやるのも面白いかな?とも思ったんですけど、それとは別に、今回ビルボードは初めてということもあって、もちろん演奏を届けたいんですけど、ONCEの楽曲は温かみがあって温度感のある楽曲が多いので、そういうものがしっかり伝わるライブにしたいという思いもあったので。僕が変に気を張って、ストイックなライブをするのではなくて、 MCも含めて温かい場所にできたらいいなという思いがあったので、結果、このメンバーでやれてすごくよかったなと思います。

――ギターの阪井一生(flumpool)、ドラムの神宮司治(レミオロメン)、このあたりは旧知の仲といいますか。

杉本:一生さんには、MCでも活躍していただきました(笑)。「スギの曲なんか弾けへんわ」とか、口では言うんですけど、一番ミスタッチも少ないですし、ちゃんとやってくれる…とか言うと先輩に失礼ですけど(笑)。やっぱりプロだなと思いました。治さんとは、コロナ前にイベントで一緒にやらせてもらったことがあったんですけど、すごく歌心があるというか、ドラマーには二通りあると思っていて、うまいのは前提として、すごいリズムが良くてグルーヴィーな人と、歌に寄り添ってくれる人がいて、治さんは後者だと思っています。歌っていて、こっちが盛り上がってくると、一緒にドラムがどんどん盛り上がってくれるので、すごくやりやすいと思いながらやっていました。

――バイオリンの雨宮麻未子、ベースの月川玲、ふたりの演奏も新鮮でした。

杉本:雨宮さんとはずっと一緒にやらせてもらっているので、ぴったりでした。「みんなバイオリンばっかり見てるなぁ」と思いながら歌っていましたけど(笑)。基本的に、アレンジで「こうしてほしい」みたいなことはこっちから投げていて、特に雨宮さんには譜面通り、僕がアレンジしたものを渡してやっていたんですけど、ONCEではそれぞれの自由に任せたというか、「ここは誰々が目立つ場所にしたい」ぐらいな伝え方でやってみて、自分が思った以上の面白いフレーズを持ってきてくれるので、そこも今までとは違いましたね。たぶん、その前のツアーで一人でやって疲れたからだと思うんですけど(笑)、良い意味で人に委ねられて、いいテンション感でやれたかなと思います。月川さんも、めちゃめちゃ良いベースを弾いてくれましたね。さっき、一生さんがちゃんと弾いてくれたと言っちゃいましたけど、月川さんはそれ以上に、一番後輩だからというのもあるかもしれないですけど、先輩組はスタジオに入ってとりあえず音を出しながら感覚掴んでいこう、という感じで挑んでいたんですけど、月川さんは自分が弾くフレーズを最初から固めてきてくれたので。そういった部分でもすごい頼りがいがありましたし、見た目は可愛いんですけど、熱いものを中に秘めているなというものを感じました。

――良いバンドですね。

杉本:本当にビルボードは、このメンバーでずっとやりたいと思えるようなメンバーでした。絶対というわけではないので、ライブハウスではまた違うメンバーでやるかもしれないですけど、ビルボードは特別感を持って、ずっとこのメンバーでやるのも面白いと思うし、そこはやっぱりソロならではの、いろいろな見せ方をしていきたいなと思っています。

――ONCEには、ビルボードライブのように、アダルトなイメージもあれば、ライブハウスのように、ハジけるイメージもあると。

杉本:「ONCEは絶対これ」というものはなくて。ただビルボードは自分にとって、長年やってくる中で、自分に似合った場所だなということを感じていましたし、それはグランドピアノがあるとか、そういう理由もあるんですけど、そういった意味で大事にしたい場所ですし。でもONCEはチャレンジしていく場所でもあるので…正直、ONCEを始める前というのは、もっと力を抜いて気楽に、杉本雄治として音楽を続けられたらいいなと思っている部分もあったんですけど、やっぱり自分の音楽で表現したいということでONCEを作って、やっているので。そういった意味では、ONCEはまだまだ無名の新人というか(笑)。そういうつもりでいるので、これを大きくしていきたいなという気持ちを持って、今はやっていますね。

■闇にある感情を解き放ってくれるのが音楽だと思っているので■「夢でもし逢えたら」はその差が如実に出ている楽曲になった

――聴く音楽とか、変わってきました? この1、2年で。

杉本:そんな変わらないかな。昔から幅広く、という感じだったので、そんなに変わっていないかもしれないです。でもONCEの方向性というか、目指すものとしては、自由に音楽を楽しんでいる部分をより伝えたい場所だなと思っているので、海外だったらジェイコブ・コリアーとか、ああいうアーティストがすごく憧れなので、そこはすごく聴いていたりしますね。

――やはり洋楽メインですか?

杉本:そうですね。日本の音楽も聴くようにはしているんですけど、やっぱ今の日本は音数が多いというか、情報量の多い音楽が多数派だと思っていて、僕はそことは違う方向でやりたいというか、ブームに乗りたい感じは別にないので。あまりそこは意識せずやりたいなと思っています。

――機材の進化とかは?

杉本:サポートのお仕事もすごく増えているので、先月、鍵盤を買いました。今まではピアノがほとんどだったので、音色の良いステージピアノとシンセぐらいだったんですけど、いろんな音を求められるようになってきて、初めてワークステーション系のシンセを買いました。基本はPCで、プラグインで作った音をライブではシーケンスで出して、みたいな。

――マニピュレーターの役割もやるわけですね。なるほど。

杉本:あと、最近、森 大翔くんのサポートをやらせてもらっているんですけど、彼の中でギターでハモるのが流行りらしく、「1曲の中にギター何本入ってんねん」っていうぐらいなので。ありがたいことに、ギターも弾かせてもらっています。

――大変だけど楽しそう。ちなみに森 大翔さんって、10歳以上年下ですよね。どういう感じなんですか、一緒にやっていて。

杉本:保護者ですね(笑)。でもめちゃめちゃ刺激をもらっています。サポートは、もちろんどんな現場でも刺激をもらえるんですけど、森くんみたいに若いアーティストは特に、感性も全然違いますし、吸収力も違うし、言ったこともどんどん吸収して、それをやってのけてみせちゃうので、一緒にいて楽しいですね。キラキラしてるし、自分もこうだったのかな?とか思ったり(笑)。

――デビューの時にお会いした印象は、まさにそんな感じでしたよ。今もそうですけど。でも音楽って、それがあるからいいですよね。年齢を飛び越えられるから。

杉本:やっぱりそういう瞬間を見れてるのがすごい幸せだなと思うし、これからもしっかりやらせていただきたいです。

――ONCEの話に戻って、ニューシングル「夢でもし逢えたら」の話をしましょう。この曲は、さっきお話したビルボードライブで初披露した曲で、曲調は明るくアップテンポで、でも歌詞のテーマとしてはかなりシリアスな思いも込めているとう話を聞いています。もともと、どんな感じで作っていった曲ですか。

杉本:曲自体は、2023年に初めて一人のツアーをやった上で、ライブで熱量を持てる曲だったり、バンド感を出せる曲が欲しいなという部分で、素材というか元ネタみたいなものは以前からあったものだったんですけど、「この曲、ONCEでやりたいな」と思って引っ張ってきた感じですね。歌詞は、今言ってもらった通り、根源にあるのはすごく暗いところというか、喪失感みたいなものから生まれているんですけど、基本的に僕の曲は、わりとそういう曲が多いというのは自分でも思っているんですよ。光の当たらない闇にある感情を、外に解き放ってくれるようなものが音楽だなと僕は思っているので。特に今回は、その差が如実に出ている楽曲になったので、根源にあるものは今までとそんなに変わらないのかな?とは、自分の中では思っています。

▲「夢でもし逢えたら」
――喪失感、ですか。

杉本:そうですね。この曲の元ネタができたタイミングが、3年ぐらい前になるのかな。コロナ禍のタイミングで、みなさんの生活も大変な時代でもありましたし、自分自身も大切な人を失ったりだとか、バンドも止まってという、いろいろなことがありました。自分の中で色々考える中で…もちろんそこと向き合って、悲しい思いをちゃんと引きずって生きていくことも大切だと思いつつ、でもその人だったり、ものだったりと、過ごした時間の中で間違いなく自分を明るくしてくれた、前向きにしてくれたものはたくさんあって。それさえも思い出させてくれるような音楽が、自分の中で欲しいなという気持ちがあったので、それをこの曲に乗せたらいいなと思って作りました。

――この歌詞をマイナー調のバラードに乗せたら、全然違う感触になるだろうし、この明るくリズミックな曲調と歌詞の組み合わせに意味があるんだと思います。

杉本:ライブの中でも、その痛みだったり喪失感だったり、持っているものはそれぞれ違っていても、それを共有して、最終的には笑顔になって明日に向かえるような、そういう曲になればいいなという思いがありました。

――歌詞の中の「君」というのは、いろんなものを指している言葉ですか。

杉本:そうです。聴いてくださる方の、それぞれの「君」に当てはめてもらえたらいいなと思いますね。

――希望の歌ですよね。振り返った過去は悲しいかもしれないけど、目線は明らかに明日へ向いている。

杉本:そうですね。だから(歌詞の)一番、二番では、まだどこか自分の中で葛藤はありつつ、でも曲の中で前に向かって進んでもらえたらなという思いです。

――杉本さんらしい良い歌詞だと思います。ONCEになってから、積極的に歌詞を書くようになりましたけど、その点はどうですか。「もう全然書ける!」という感じですか。

杉本:いや、まだ苦手ですよ(笑)。苦手ですけど、やっぱり書くことによって気付かされるものは間違いなくあるし、自分の中にある思いを整理してくれる部分があるので、今は歌詞を書く時間が、苦しいっちゃあ苦しいですけど、それを書いたからこそ進めた部分もあったし、「次はもうちょっとこうしたいな」というものが見えてくるので。これからも自分で書いていきたいと思いつつ、でもさっきお話しした通り、やっぱ自分一人では生まれないものが、人との繋がりの中で生まれるということを再確認できたので、曲を作ることだったり、歌詞を書くこともそうなんですけど、今は別に自分一人でやることにこだわっていなくて。今後のONCEのスタンスとして、いろいろな人と創作して、そこで生まれる科学反応を楽しんでいきたいという部分があります。本当にいかようにもなれる場所だなと思っています。

――あらためて、この「夢でもし逢えたら」。どんな人たちに、どんなふうに届くといいと思っていますか。

杉本:ビルボードでもやったんですけど、やっぱりライブでやれるのが今は一番の楽しみなので。今月も対バンイベントがあるので(5月24日@下北沢シャングリラ<MEME SOUNDS vol.1>。対バンはFIVE NEW OLD)、ライブでぜひ聴いてほしいです。

――楽しみです。そのあと、今年の後半は、どんなふうに活動していく予定がありますか。

杉本:早く曲を書いて、アルバムを出して、ツアーをするのが目標です。頑張ります。

――次の作品はこうなりそうとか、なんとなく方向性は見えていますか。

杉本:最初のアルバムの時よりは、自由度が増してるというか。イメージしているものはあるので、できるんじゃないかと思います。

――サポートもたくさんやりつつ、ONCEとしての活動もしっかりやっていく。今、間違いなく、バンド時代よりも忙しいですよね。

杉本:忙しいです(笑)。でも結局、一つのことをガーッとやっていると周りが見えなくなって、行き詰まっちゃったりするんですけど。そこは良い意味で、気分転換と言ったら失礼ですけど、気持ちを切り替えてやれる場所がほかにあるので、それはすごくありがたいなと思います。

――ONCEとして、杉本雄治として、今後の多彩な活動に期待しています。

杉本:ありがとうございます。ミュージカル(*音楽を担当するミュージカル『無伴奏ソナタ-The Musical』/7・8月に東京と大阪で公演)もあるので、そちらもぜひチェックしてください。

取材・文:宮本英夫
ヘアメイク:Kaco(ADDICT_CASE)

リリース情報

20024年第1弾シングル「夢でもし逢えたら」

作詞・作曲・編曲:ONCE
2024.5.15 Digital Release
ST/DL:https://a-sketch-inc.lnk.to/ONCE_yumedemoshiaetara

ライブ・イベント情報

<ONCE 2MAN LIVE「MEME SOUNDS vol.1」>
2024年5月24日(金)
下北沢シャングリラ
open 18:15 / start 19:00
\5,500(税込) / スタンディング
w/ FIVE NEW OLD

<-VARIT. 20th Anniversary->
KOBE Goodies Collection
Birthday Special
2024年7月23日(火)
神戸VARIT.
open 18:30 / start 19:00
\4,400(税込) (+1drink \600)
w/ The Songbards

リリース情報

『ONLY LIVE ONCE in Billboard Live』

2024.04.17 Digital Release
1. Stay With Me(at Billboard Live TOKYO 2024)
2. ツキニウタウ(at Billboard Live TOKYO 2024)
3. Woman "Wの悲劇"より(at Billboard Live TOKYO 2024)
4. Squall(at Billboard Live TOKYO 2024)
5. Amazing Grace(at Billboard Live TOKYO 2024)
6. Dusk(at Billboard Live TOKYO 2024)
7. 愛とか恋とか(at Billboard Live TOKYO 2024)
8. 記憶(at Billboard Live TOKYO 2024)

『ONLY LIVE ONCE』

2023.09.13 Release
1. Crossroad
2. Stay With Me
3. 愛とか恋とか
4. Squall
5. Amazing Grace
6. Dusk
7. 記憶

関連リンク

◆杉本雄治/ONCE オフィシャルサイト
◆杉本雄治/ONCE オフィシャルTwitter
◆杉本雄治/ONCE オフィシャルInstagram
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