「金を増やさないと…」 佐世保の70代男性 SNS型投資詐欺で被害 余生の不安と後悔に悶々

佐藤美紀から送られてきた写真。投資で利益が出ているかのように見えた=佐世保市内

 有名人になりすました交流サイト(SNS)型投資詐欺が県内でも増加している。長崎県佐世保市の調理師、江口新作(75)=仮名=は昨年秋、40万円の被害に遭った。「これだけ巧妙にやられたら、相手に『素晴らしい』のひと言」。乾いた笑いを浮かべるも、余生への不安とだまされた後悔で悶々(もんもん)としている。
 同市出身。東京の大学に進学し、都内の広告代理店に就職。1970年代、地元にUターンし、うどん店を開業した。「させぼ五番街ができる前は(佐世保)駅の近くで店を構え、とてももうかった」。2013年の五番街開業に伴い店を移転すると、経営が傾きだし約10年前、店を畳んだ。以降は各地の厨房(ちゅうぼう)を転々として食いつなぐ日々。「金を増やさないと、という焦りがあった」
 昨年10月14日、スマートフォン上に現れた投資関連のネット広告を開くと、交流サイト(SNS)のLINE(ライン)にページが飛び、一つのアカウントが現れた。名前は「Moritaku(森卓)」。プロフィル画像は、有名経済評論家の森永卓郎だ。わらにもすがる思いで「友達追加」をした。
 森卓は株について丁寧に解説してくれた。軽い雑談も交わすようになり、江口は次第に心を許すように。5日後、アシスタントの「佐藤美紀」というアカウントを紹介された。くしくも下の名前が、約40年前に亡くなった広告代理店時代の親友と同じ。「他人とは思えなかった」
 佐藤とも日常の何げない写真を送り合うようになり、信頼できると思った。投資について意見を共有するLINEグループに招待され、佐藤はこう切り出してきた。「現在の市場はインフレが深刻で、円安が進んでいる。株式に比べて金は、一定の価値保証性とリスク回避の属性があり、安全で迅速な投資商品だ」。江口は金投資を始めることに決めた。
 11月13日、指示された口座に15万円を入金。その後、佐藤から送られた架空の投資画面には「285ドルの利益が出ている」。江口の心は躍り立った。追加投資を求められ、同17日、別の金融機関の口座に25万円を振り込んだ。
 その後も、利益が順調に伸びているのが画面で分かった。「もうけを引き出したい」。12月14日、佐藤に相談すると対応が一変。「カスタマーサービスに連絡してほしい」「すべきことが山積みですぐに返事できない」。すべて突っぱねられた。不安に駆られて佐世保署に相談すると、詐欺だと分かった。
 「詐欺野郎が」。後日、森卓にラインで吐き捨てたが、返信も40万円も返ってこない。「どんなにいい話でも、簡単にネットでの投資話に乗らないで」。もうかると信じた2カ月余り。江口は揺れ動いた心境を吐き出すと、静かに視線を落とした。=文中敬称略=

SNS型詐欺の県内被害状況

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