GDPを200兆円プラスにすることも可能に!? 日本が生き残るために大規模で長期的な資本投下が必要な〈二つの分野〉とは?【投資家が解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

日本がキャピタリズムで生き残る分野について、思想家で投資家の山口揚平氏は「ロボティクス」と「医療改革」と言います。本稿では、山口氏の著書『3つの世界 キャピタリズム、ヴァーチャリズム、シェアリズムで賢く生き抜くための生存戦略』(プレジデント社)より一部抜粋して、大規模で長期的な資本投下を必要とする分野について解説いただきます。

生き残るのは「ロボティクス」と「医療改革」

日本がキャピタリズムで生き残る分野とは、大規模で長期的な資本投下を必要とする分野、すなわち「ロボティクス」と「医療改革」である。ロボティクスはGDPを引き上げ、医療改革は社会保障コストを引き下げる。

ロボティクス

車を含めたロボティクス技術の導入は変わらぬ速度で進む。ロボティクスとは、ロボット工学の一分野であり、ロボットの構想、設計、製造、運用、保険などのファイナンスなどを対象とするものである。

日本の産業史を振り返ると、過去50年間は自動車産業がその中心であり続けた。自動車産業のサプライチェーンは長い。企画・設計から部品作り、板金でシャーシを作る工場もある。部品を組み立て製造し、販売、アフターケアもする。そのうえ、保険や金融もつけることができる。長いサプライチェーンの中で、日本人は滞りなくバケツリレーを続けてきた。

この一連の連携こそ日本人の得意分野であり、他国が簡単には真似できない強みである。サプライチェーンが長い産業だからこそ、中卒や高卒も含む多様な雇用を生み出してきた。自動車の部品工、カーディーラー、トヨタ本社の企画職……産業に携わる職種を挙げたらキリがない。つまり自動車産業は、日本国民を吸収するプラットフォームとして機能してきたのだ。

ところが、自動車自体がコモディティ化してしまったため、今後は産業自体が厳しくなる。自動車業界をアップデートする産業として期待されるのがロボティクスの分野だ。

ロボティクスも自動車と同様、バケツリレーに似たシステムで動く。そのため、エリートから非エリートまで、多種多様なバックグラウンドを持つ人材に雇用を供給できる。それでいて、産業は未成熟の発展段階にある。

ロボティクスが活用される具体的なシーンとしては、ビルや高速道路などのメンテナンス、警備や介護の分野があるだろう。あるいは、宇宙開発は世界の億万長者がこぞって参入する領域である。日本でもispace などが数百億円を集めるが、世界では兆単位でお金が集まっている。まさにレベルが違う。これは地球規模ビジネスとなる。

さらに先の未来を考えると、ロボティクスが絡まない産業のほうがむしろ少なくなる。少子高齢化の進む先進国の社会のあちこちで膨大な数のロボットが働く。AIやIoT、あるいは保険や金融、はたまた板金工場や設計アルゴリズム/ネットワークなど、無数の機能を統合することが求められるこれらの産業は、日本人が得意な分野である。

GAFAM(Google・Amazon・Facebook・Apple・Microsoft)のような企業を日本から生み出すことを目指すよりも、日本人に最適な産業に注力するべきだ。その意味で、ロボティクスは日本人にとっても相性が良く、市場規模も大きい有望な産業だ。

今後、ロボティクス産業が日本の輸出の一角を占めることに期待したい。

医療改革

医療改革は、日本が真っ先に取り掛からなければならない分野である。この領域は研究開発に莫大な時間とお金がかかるので、資本集約で勝敗が決する。この分野に取り組むことは、医療介護費用として年間約60兆円かかっているコストを削減することを意味する。

一口に「医療」と言っても、その範囲は先端医療や未病、あるいはアフターケア、ゲノム解析など多岐にわたる。そのため、医療システムが指すのは電子カルテや保険制度、あるいは医師会の扱いや、総合病院と町医者を包含する複合的なシステムのことだ。

日本は高齢化が進行し、医療システムに膨大なコストがかかっている。もちろん医療システム自体を輸入することがあっても、日本人としてこの改革に参加する意義も大きい。

イメージとしては、国として売り上げを立てるのはロボティクスであり、国のコストを下げるのが医療システム改革である。それぞれの売り上げとコストが100兆円ずつだとすれば、国として200兆円のGDPをプラスにすることが可能であると考えている。

揺らぐ行政の存在感と地域コミュニティの再興

今後キャピタリズムの中で伸張が予想される分野に加え、最後に社会システム全体の行く末についても考えを巡らせておきたい。

前提として、この国を一つの単位で捉えることはすでに限界を迎えている。今後はそれぞれの地域コミュニティに分割し、「マルチコミュニティ」の観点から捉え直す視点が重要となる。

現在の政治システムは過渡期にあり、地方交付税や国庫支出金は底をついている。そのため、今後はそれぞれの地域コミュニティに自立が求められる。自分たちで地方債を発行し、外交してもいいだろう。各地域が民主主義を達成し、社会インフラを作り、そこで暮らす人々の幸福度を高めてゆく。

地域コミュニティの社会インフラを作る仕事を「コミュニティオプティマイザー」と呼ぶが、今後その役割の重要性が増してゆくはずだ。それと並行して、従来の中央集権的な政府や行政の存在感は薄らいでゆき、将来はなくなってゆくことすら推測できる。

地域コミュニティのインフラは次の4つに分かれてゆく。

1つ目は財政で、2つ目は保険をはじめとする健康管理システム。3つ目に法律(条例)と、4つ目に教育がある。これらの基礎インフラがコミュニティごとに変わってゆくはずだ。実際、今でも健康管理システムや教育システムは大学を中心として変化している。現状、財政と法律は自立できていないが、財政に関しては、今後、各地域コミュニティが藩札のような形で紙幣を発行し、自立してゆく可能性がある。法律も、アメリカでは州法として分かれて施行されている。日本でも同様に、地域ごとにこうしたインフラが分かれて管理されるようになる。

これらのインフラは今まで国家が一元的に担っていた部分であるが、今後地方が自立を果たしてゆく中で、一部の無秩序なエリアが生まれてしまうことは不可避だろう。長い目で見れば、そうしたエリアはいずれ滅びてゆくと思われる。

日本の人口は、今後1億2330万人から半分以下の6000万人へ減少すると見込まれている。都市国家を中心とした連邦国家へ移り変わらなければ立ち行かなくなるだろう。

たとえば、イギリスで特急電車に乗った場合、駅を出てから10分もすると、羊しかいない田園風景が眼前に広がる。そうかと思えば、またしばらくすると建物群が現れ、次の都市に到着する。日本の場合はどうだろうか。新幹線に乗っても、連なった住宅の風景がどこまでも続く。しかし、こうした光景にも早晩変化が訪れる。

各地域コミュニティが自立するためには、独自のインフラや産業を持ち、海外と取引を行い、貿易によって地域が潤ってゆく必要がある。その過程で、起業家や若者たちは暮らしやすく働きやすい場所へ移住し、その地域にコミットすることで、改革が生じることが想定される。

こうした未来へ向けた変化へのスピード感や洗練度は、各都市ですでにまったく異なる様相を呈している。

その違いを生むのは、都市ごとの危機感の強さである。都市ごとの病院システムや移動手段としての交通インフラを比較したとき、改革がまったく進んでいないエリアもあれば、急激に進化を遂げている都市もある。日本でも県単位で見ると、神奈川県としてはそれほど進んでいないが、横浜や鎌倉のように、一部の市で先進的に改革が試みられている場合もある。

漂白化された世界で「個性」を取り戻そう

キャピタリズムによって大量のエネルギーを投下しながら、大量に同じ製品を作り、それを世界へ供給する仕組みによって、各地の歴史や文化、個別性、文脈といった人文的要素が世界から洗い流されてしまった。世界のどこに行っても、誰もが同じものを同じように享受するようになった(マクドナルド、iPhone、Netflixなど)。

そんな世界は、なるほど便利である。効率的である。しかし、これは人類の生存にとって危機である。なぜなら人類とは、社会性と個性という相対する二つの要素を掛け合わせて「分業」したからこそ発展してきた種族だからである。資本主義のエネルギーによって個性が漂白されたことで人類は強みを一つ失い、片手をもがれた状態である。

人類は「個性」を取り戻さなければならない。その「個性」から発露する「創造性」を持って新しい世界を作ってゆく必要がある。それが資本主義によって漂白された匿名世界をひっくり返すパワーとなるからだ。そのために私たちができることは何だろうか。キャピタリズムの勝者となること? あるいは……。

山口 揚平

ブルー・マーリン・パートナーズ株式会社

代表取締役

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