平瀬ほづみ ~ KADOKAWAから書籍化!Webライターから転身した備後在住の作家

選ばれた一部の人だけが小説を書ける、というのは昔の話。今は、ごく普通の人でも地方に住んでいても、作家になる夢を叶えられます。

2024年5月1日に角川ビーンズ文庫から発売された『この手を離さない 孤独になった令嬢とワケあり軍人の偽装結婚』の作家、平瀬ほづみ(ひらせ ほずみ)さんは備後地域在住。Webライターとして活躍するなかで身につけた技術をすべて注ぎ込んで書いた小説が大人気となり、作家に転身した経歴の持ち主です。

平瀬さんがどのようにしてチャンスをつかんできたのか、その軌跡を追いました。

2024年5月『この手を離さない』発売

2024年5月1日、角川ビーンズ文庫から『この手を離さない 孤独になった令嬢とワケあり軍人の偽装結婚』が発売されました。

角川ビーンズ文庫は、女性向けライトノベルレーベルです。

書店に並ぶ『この手を離さない』

2024年5月3日 啓文社ポートプラザ店で撮影

こちらは啓文社ポートプラザ店
「女性向けラノベ 新刊コーナー」で『この手を離さない 孤独になった令嬢とワケあり軍人の偽装結婚』が平積みになっています。

2024年5月3日 啓文社ポートプラザ店で撮影

レジからほど近いこのコーナーに他の多くの作品も並ぶなか、真ん中の目立つ場所に置いてありますので、ぜひ手に取ってみてください。
備後地域の啓文社では、ポートプラザ店以外にもコア福山西店、コア神辺店に入荷があります

物語のあらすじ

幼い日、初恋の人と生き別れた事故を受け「結婚しない」ことを決めた令嬢・セシア。

育ててくれた祖父が不審な形で亡くなり、強欲な叔父が怪しいと疑うも証拠はない。

祖父の遺言によるとセシアが遺産を相続する条件は「一か月以内の結婚」。

そんなセシアの前にルイと名乗る軍人が現れる。

初恋の人の面影がある彼は、ある目的からセシアに偽装結婚を提案するが――。

かりそめの結婚で二人は再び出会う。偽装夫婦ロマンス。

突然の祖父の死、幼い日の記憶と目の前にいる偽装結婚の夫、そして叔父の反撃など、さまざまなエピソードが盛り込まれた『この手を離さない 孤独になった令嬢とワケあり軍人の偽装結婚』。
女の子が頑張る物語が大好き」と語る平瀬さんが紡ぐ物語らしく、自らの手で未来を切り拓くヒロインの活躍に引き込まれます。とくに、タイトルにもなっている「手を離さない」シーンはハラハラドキドキ。手に汗握ります。

ヒロインと共に窮地(きゅうち)を乗り越え、胸を躍らせながら、偽装結婚のゆくえを見届けてください。

書誌情報

この手を離さない 孤独になった令嬢とワケあり軍人の偽装結婚』(角川ビーンズ文庫)

著/平瀬ほづみ

イラスト/ねぎしきょうこ

ISBN コード : 9784041149133

KADOKAWAの大型コンテストに入賞

この作品は、コンテストでの入賞がきっかけで書籍化されました。

KADOKAWAが運営している小説投稿サイト「魔法のiらんど(まほうのあいらんど)」。
「魔法のiらんど大賞」はKADOKAWAの複数のレーベルが選考に参加する、大型のコンテストです。小説やコミック原作の応募作品のなかから大賞や各部門の部門賞が選ばれ、入賞作品はKADOKAWAからの書籍化が検討されます。

2022年9月に応募を締め切った「魔法のiらんど大賞2022」小説大賞には、1,228もの作品が集まりました。
2023年3月、厳正な選考の末、大賞1作品・部門賞4作品・特別賞10作品が発表され、「この手を離さない」は、恋愛ファンタジー部門の特別賞に輝きました。その後、打ち合わせや改稿作業に約1年の時間をかけ、ついに発売となったのです。

2024年5月3日 啓文社ポートプラザ店で撮影

書籍ができるまでの流れ

コンテストの入賞作品は、次のような流れで書籍になって書店に並びます。

  • 打ち合わせ
  • 作家の改稿作業・入稿
  • ゲラの確認・赤入れ作業
  • イラスト・カバーデザインの確認
  • 校了

打ち合わせ

改稿やイラストのイメージなどを、担当編集者と作家とで相談します。
地方在住の作家の場合、打ち合わせの多くは電話やメールです。

作家の改稿作業・入稿

数回の改稿を経て、仕上がった原稿を印刷所に入稿します。
読者がてに取りやすいよう、Web掲載時から作品タイトルが変わったり、エピソードを加筆したりすることも。

ゲラ(校正用の印刷物)ができると、校正作業(印刷物の誤りや不具合をチェックする作業)をします。

ゲラの確認・赤入れ作業

実際のゲラの表紙

校正者や編集者からの指摘が入ったゲラが、作家の自宅に届きます。
作家はそれを確認し、赤入れ作業(赤字で文章に修正指示を書き入れること)をして、編集部に返送します。

イラスト・カバーデザインの確認

内容に間違いがないかを確認します。

校了

2024年5月3日 啓文社ポートプラザ店で撮影

確認作業がすべて終わったら、印刷が始まります。見本の書籍ができあがり、最終確認。こうしてできあがった書籍は、本の卸(取次店)経由で全国の書店へと運ばれ店頭に並べられるのです。

平瀬さんがどのようにして作家となったのか、その経緯を聞きました。

作家 平瀬ほづみさんにインタビュー

備後地域在住の作家、平瀬ほづみさんは「ライトノベルや小説投稿サイトの作品は、ずっと読むだけだったんです」と語ります。作家になるまでには、どのような物語があったのでしょうか。

SEOを駆使して書いた小説がバズった

一般企業を退職した後、在宅でできるWebライターの仕事に就いた平瀬さん。
クラウドソーシングが始まったばかりで、在宅ワークが今ほど一般的ではなかった頃からWebライターのキャリアをスタートさせた平瀬さんは、さまざまな記事を執筆しました。

そのキャリアを見込まれ、後進の育成にも力を注ぐなど、忙しい日々を送っていました。
しかしあるとき契約していた仕事が終了し、ぽっかりと空いた時間ができたのです。

小説投稿サイトの作品を「読んで」楽しむ日々

──もともと小説を書いていたのですか。

平瀬(敬称略)──

短いものは書いたことがありましたが、長編の恋愛小説をきちんと最後まで書いたことは一度もありませんでした
小説を読むのは子どもの頃から好きで、さまざまな小説を読んできました。

Webライターとして日頃読んでいた多くの記事のなかにも、もちろん興味深いものはありました。しかし、物語の世界に没入し、ワクワクしながら先を読み進められるのは、小説ならでは。ライターの仕事の合間によく読んでいたのが、小説投稿サイトの作品です。

それでも私にとって小説は読むものであって、自分で書くものではありませんでした

ある日突然、小説のヒロインが話しかけてきた

──そのように考えていた平瀬さんが、なぜ長編小説を書くことになったのですか。

平瀬──

ある日突然、ヒロインが頭のなかで話しかけてきたんです。そして、ずっと喋っている。

聞いてもいない身の上話を勝手にされるので、うるさくて困っていました。でも意外と長い身の上話で、これをまとめたらお話になるなぁと。だからこの物語に関しては、自分で書いたというより、向こうから勝手にやってきたという感覚が強いです。

ちょうどいつもより長めのお休みをいただいて、少し時間がありました。この時間を利用して小説に挑戦してみようかなと思いたち、3週間で18万字の小説を書き上げました

一番多かった日は、1日に2万字くらい書いています。

──1日に2万字?!私は3,000字の記事に3日くらいかかることもあります。すごいスピードですね。

平瀬──

調べながら書くWebライティングと、自分のなかにある物語を表に出していく小説とでは書き方が違うというのもありますが、ヒロインが「書いて書いて」と主張していたのが大きいかもしれませんね。

でも、これだけ書けたのは、やはり私がWebライターとしての経験があったからだと思います。

小説投稿サイトの過去作品をチェック

──Webライターとしての経験とは?

平瀬──

Webで読まれる記事にするためには、読者が知りたいことを書くのが鉄則です。

SEO(検索エンジン最適化)といって、読者が何かを検索したときに上位に表示されるようにする技術がありますね。物語の大筋はヒロインが語ってくれましたが、詳細は不明。そこで、物語としての体裁を整えるために、Webライターとして身につけていたSEOの知識を、小説に応用したんです。

──えっ、SEOを小説に応用とは、どういうことですか。

平瀬──

小説投稿サイトには多くの作品が集まるので、日間、週間、累計など、いろいろなランキングが存在します。ですからまず、そうしたランキングをチェックして、読者さんの満足度の高い作品に共通するものを洗い出しました。そうすると、そのときのトレンド、人気の作品に共通するものが見えてきたんですね。
それを参考にしながら、設定を作りました

SEO記事でいうメインキーワードとサブキーワードに当たる要素を選定して、物語のなかに盛り込んでいったわけです。
何しろ今まで小説を書いたことがないので、小説の定石を知りません。Webライティングと同じやり方で書けば、今読まれているタイプの小説の形にもなるし、読んでくださる人に満足してもらえる作品にできるのでは、と思ったんです。

──すごい。思ってもいなかった視点です。

投稿した小説がランキング1位に

平瀬──

そうして一気に書き上げた小説を、新聞の連載小説のように少しずつ区切って、小説投稿サイトに投稿していきました。

今まで創作物を人に見せたことがなかったので、完成してから投稿するまで数日悩みました。しかし、無名の新人の処女作なんて誰も読まないだろう、連載終了時に5人くらいが追いかけてくれていたら十分だ、と思って投稿ボタンを押します。

そうしたら、ブックマークがみるみる増えていったんです。

とうとう日間総合ランキング1位になったときには、うろたえてライターの友人に「ねえどうしよう、こんなことになっちゃっているんだけど」と相談しました。

──お友達は何と?

平瀬──

えーすごいじゃん!おめでとう!すごい!」と純粋に喜んで応援してくれて。それでようやく実感が湧きました。ライターとしての知識があったおかげで、私の物語が多くの読者さんに届いたことがうれしかったですね。

読者さんからは、私の文章は読みやすい、わかりやすい、といってもらえます。これも、私が長年ライターとして、読みやすい文章を心がけていたからでしょう。以前は途中で諦めてしまった長編の小説を書けたのも、仕事を通して執筆に慣れていたことが大きく影響していると思います。

──ライターとして身につけてきたことをすべて注ぎこんで書いた小説が、バズを生んだわけですね。そして、これが編集者さんの目に留まったと。

平瀬──

はい。編集者さんから書籍化のオファーが来たときには、驚いたのなんのって。「大変たいへん、どうしよう」と、ずっとオロオロし続けていたことを覚えています。

──やはり本になるというのは特別ですね。

平瀬──

その小説は何度も改稿を重ねて、本にしていただきました。今回の作品とは別名義なのでここではお伝えできませんが、私にとって初めての書籍であり、大切な、思い入れのある物語です。

魔法のiらんど大賞に応募

そしていよいよ、「この手を離さない」が生まれます。

2024年5月3日 啓文社ポートプラザ店で撮影

半年かけて書いた21万字の大作

──魔法のiらんど大賞とは、平瀬さんにとってどのような賞なのですか。

平瀬──

投稿サイトでは多くのコンテストがおこなわれています。魔法のiらんど大賞は、KADOKAWAさんがおこなっている大きなコンテストのひとつ、という認識でした。
このコンテストに入賞すると、KADOKAWAさんから書籍化される可能性があります。KADOKAWAさんといえば大手です。狭き門だよなあと思いました。

そのとき手元には、半年かけて書いた21万字の小説がありました。私にとって3作目の長編です。ちょうど魔法のiらんど大賞の応募条件を満たしていました。
それで、狭き門とはいえ応募しないことには始まらないと、エントリーを決めたのです。

──21万字!最初の作品よりも、さらに長いんですね。一番大変だったのは、どのようなことですか。

平瀬──

応募するときに、500字のあらすじを書かなくてはいけなかったことですね。21万字を500字で説明するのは、なかなか難しかったです。

──ああ、500字の短さは私も痛感しています。21万字を500字。それは厳しいですね。

平瀬──

2022年9月末が応募の締切でした。私がエントリーした恋愛ファンタジー部門の応募総数は248作品。
その後、予選に通過したと連絡があり、次に44作品に絞られた最終候補のひとつになったと知らされました。
そして、2023年3月、発表された最終選考の結果のなかに、私の名前があったのです

画像提供:角川ビーンズ文庫

──どのような気持ちでしたか。

平瀬──

絶叫しました。隣の部屋にいた家族があわてて駆けつけたほどです。

書籍化に向けて

──入賞して書籍化に向けての動きが始まるわけですが、21万字は相当な分量ですよね。

平瀬──

実は、女性向けライトノベルを一冊の文庫の形で出版するにあたり、ボリュームも重要なんですね。結果として、この作品は文章を減らし14万字まで削ることになったんです。

──21万字を14万字に?どうやって3分の1も削るんですか。

平瀬──

元の話にあったエピソードやキャラクターも大きく削って、ほぼ全編書き直しました。

A4で14ページにわたる、作品のプロット。平瀬さんはプロットだけで5回書き直した

──半年かけて書いた話を全編書き直し……。すごい世界です。

平瀬──

そこからさらに何回か改稿しました。

──……本を作るって、大変な作業なのですね。

平瀬──

そうですね。大変ですが、楽しいです。

──できあがった本を手にして、いかがですか。

平瀬──

うれしいです。受賞からの書籍化は夢だったので、夢がまたひとつ叶いました。

この作品は、異世界が舞台ですが魔法も妖精も出てきません。一組の男女が夫婦になるまでの物語をつづりました。
ライトノベルを手に取ったことがないかたや、久しぶりに手に取るかたにも読んでもらえたらと思います。

次作も構想中!地元作家の活躍に期待

2024年5月3日 啓文社ポートプラザ店で撮影

憧れの出版社から本を出すという大きな夢を叶えた平瀬ほづみさん。次の作品も構想中だそうです。

次はキャラ文芸にも挑戦してみたいです」と、熱く意欲を語ってくれました。

小説を読む時間は、違う世界のなかで心が自在に飛び回り旅をする時間です。
これからも、ヒロインが元気いっぱいに活躍する物語で読者の胸を熱くさせ、新しい世界の旅を楽しませてほしいと願っています。

取材協力

  • 内容確認:角川ビーンズ文庫
  • 店舗撮影:啓文社ポートプラザ店

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