政権政党を目指す維新の会と官邸の「普通」でなかった過去を振り返る

23年春の統一地方選で躍進した日本維新の会だが、このところ逆風にあえいでいる。今年4月の衆議院議員補欠選挙でも公認候補の落選が続き、馬場伸幸代表は「関西以外で勝つのは厳しい」とコメントした。そんな維新の会を発足以来、観察し続けてきた作家・適菜収氏が整理した、橋下徹が政界入りするきっかけを作った菅義偉との関係について。

※本記事は、適菜収:著『維新観察記 -彼らは第三の選択肢なのか-』(ワニブックスPLUS新書:刊)より一部を抜粋編集したものです。

橋下徹の政界入りを促した菅義偉

橋下が政界入りするきっかけを作った一人が、菅義偉であることは知られている。橋下と菅の関係は、2007年11月の大阪市長選挙の際からと言われている。福田康夫政権で選挙対策副委員長をしていた菅のもとに、大阪の地元議員らが「橋下徹を市長選に出したい」と要望に訪れた。

菅はこう語っている。

橋下徹と松井一郎という政治家は捨て身で政治を行っていますから、二人を信頼しています。そもそも橋下さんを紹介されたのは、大阪の国会・市会議員の人たちからなんです。当時、選対副委員長であった私から橋下さんの市長選挙への出馬を説得してほしいということだったんです。(『SAPIO』2015年10月号)

菅は橋下とホテルで直接会って市長選出馬を説得したが、このときは橋下がタレント
活動などを理由に固辞している。その後しばらくして、橋下は約2か月後の大阪府知事選へ立候補をしたいと言ってきたという。

結局、菅が担ぎ出す形で橋下が府知事選に出馬し、自民党の支援を受けて当選してい
る。菅が2020年9月に自民党の総裁に決まったときは、菅と維新との距離があまりに近いことから、メディアも菅を「維新寄りの総裁誕生」とはっきり書いていた。

以下は2020年9月14日の日本経済新聞の記事の抜粋。少し長いが、的確にまとまっているので引用しておく。

自民党の新総裁に14日に選出された菅義偉官房長官は、2025年国際博覧会(大阪・関西万博)の誘致などを通じ、大阪維新の会の松井一郎代表(当時大阪市長)と親しいとされる。菅氏は11月1日に住民投票が実施される予定の「大阪都構想」にも理解を示す。都構想に反対する自民大阪府連は「維新寄り」の総裁誕生に警戒感を強めている。

「安倍政権を7年8か月支えたナンバー2が政権運営するということで、大阪と国が連携しながら成長を目指していきたい」。維新代表代行の吉村洋文府知事は14日、新総裁の誕生を歓迎した。菅氏と松井氏の関係は、2009年に維新前代表の橋下徹氏が自民、公明両党の支援で府知事選に初当選したときに遡る。

菅氏は自民の選挙対策副委員長で、府議だった松井氏と協力。第二次安倍晋三内閣発足後は、安倍氏、菅氏、橋下氏、松井氏の四者の会食が年末の恒例行事となった。大阪・関西万博の誘致やカジノを含む統合型リゾート(IR)の制度化などでも官邸は大阪府・市に協力。府幹部は「菅氏は官房長官として万博誘致に尽力してくれた。今後も予算確保などで優先的に考えてくれるのではないか」と期待する。

市関係者によると、19年のG20大阪サミットでは事前調整に行き詰まった松井氏が菅氏に直接電話し、解決に至ったケースがあったという。

都構想も菅氏との因縁が深い。菅氏は12年、野党だった自民の「大都市問題に関する検討プロジェクトチーム」の座長を務め、東京都以外の大都市が特別区を設置できるようにする大都市地域特別区設置法の成立を推進した。今月3日の会見でも「二重行政の解消を図ろうとするものと認識している」と都構想に前向きな発言をしている。

仮に住民投票で賛成多数となれば、維新が目指す「大阪都」への名称変更は法改正などが必要で、政権の協力が不可欠だ。維新幹部は「菅総裁は維新にとって強力な後ろ盾となるはず」と話す。

要するに、維新と官邸はズブズブの関係だった。だから、当時は橋下の閣僚起用の可能性すら取りざたされた。

その点について、テレビ番組のキャスターから質問された菅は「仮定の話には答えないとしながら、橋下の大阪府知事時代に自民党として“支援”した経緯や、菅の総務相時代に橋下や松井がしてきたことを“改革”として評価し、橋下氏は改革の一つの道筋をつけてきた」と持ち上げた。

電話一本ですべて大阪の問題を解決できた

この手の連中は根のところで深くつながっている。橋下は安倍晋三とも深くつながっていた。

安倍は情報弱者であるネトウヨなどに配慮しつつ、新自由主義路線により、国家機能の解体を進めてきたが、維新はその補完勢力、先兵として動いてきた。連中はそれを隠しもしなくなってきた。

橋下は2021年12月30日放送の『爆笑! 2022年こうなる宣言』に出演した際、視聴者からの「松井さんは菅さんと仲良かったけど、岸田さんになってどうなるの?」という質問に対し、「菅さんのときのような、電話一本ですべて大阪の問題を解決できるような関係ではないですよね」と発言。さらには、

ぼくが大阪維新の会を立ち上げる前、まだ民主党政権のとき、菅さんは野党の一議員だったんですけど、東京から週に1回ぐらい(後にツイッターで月1回に訂正)松井さんに会いに来てたんですよ。「時間ない? コーヒーでも飲もう」って。そのとき、松井さんは大阪府知事で。そうしたら安倍政権が誕生して、菅さんが官房長官になったわけですよ。

すると、松井さんのところに電話がかかってきて「官房長官になるから、大阪にそんなに行けなくなるから、最後に挨拶に行く」って、官房長官就任の直前にまたコーヒーを飲んで帰って行って。それぐらいの関係なんで、大阪の改革を安倍さんも菅さんもすごく評価してくれてましたから、カジノとかIRとか大阪万博、それからリニア。

国の力がなかったら動かないようなことを協力してくれて、JR大阪駅の北側のうめきた、あれも開発が進んでますけど、あれも安倍さんと菅さんの力を借りてお金を引き出したんですよ。(「スポニチアネックス」2021年12月30日)

安倍や菅がカネを引き出すのに協力していたことを、当事者が明言したわけだ。

ちなみに、松井と岸田の関係について、橋下は「岸田さんと松井さんはそこまでの関係はないです。でも、それが普通です。普通の政治家対政治家でやっていくと思う」(同前2021年12月30日)と語っている。要するに、維新と官邸の関係が「普通」でなかったことを認めているわけだ。

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