“官能的で、恐ろしいほどまでの美しさ” 英国ロイヤル・オペラ『リゴレット』 今観るべき3つの理由

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まさに待望の来日! よく知られた作品だが、この度はその決定版を鑑賞できる機会と断言したい。理由は3つ。まず、指揮のアントニオ・パッパーノが絶対の自信をもって今回の来日公演に選び、タクトを振ることである。

イングランド生まれのイタリア人、英国ロイヤル・オペラを音楽監督として22年にわたり率いてきたその音楽性は、長年オペラにとどまらずオーケストラやピアノ演奏にも遺憾なく発揮されている。とにかくこの人の指揮は何を演奏させても、誰と共演しても人を飽きさせない。彼の音楽における洗練された熱量とドラマの推進力は頭抜けている。

道化の父リゴレットと純情な娘ジルダ、好色なマントヴァ公が織りなす愛と苦悩と悲劇……。ヴェルディ自身がドラマと音楽の融合を目指して完成させた傑作を、作曲者の意図どおりに表現できる最高にして最適のマエストロのひとりがパッパーノだろう。音楽づくりが「官能的で、恐ろしいほどまでの美しさ」とロンドンで評された今回の『リゴレット』が待ち遠しい。

続いての理由は舞台に大注目! コロナ禍が明けた直後のロイヤル・オペラを連日満員にし、ロンドンの聴衆から絶賛を浴びたのが今回のオリヴァー・ミアーズの演出である。登場人物の設定や衣装、物語の進行が視覚的にもまことに説得力に富み、スリリングに展開してゆく。

例えばマントヴァ公爵は、美術品と女性のコレクターという設定で、カラヴァッジョやティツィアーノの名画が舞台装置のモチーフとして次々と置き換わっていく……。ジルダが誘拐された後には、不気味な裸の人形が残されて残酷さを際立たせる……。(このインパクトは相当凄い!)登場人物たちは歴史と現代の間を自由に行き来するがごとく自由で美しきファッションに身を包む……。物語が宮廷と言う男社会で展開するため、それを表すために英国風「男性倶楽部」を彷彿とさせる空間設定……等々、客席を大人のファンタジーに誘ってくれる。これって博物館や美術館の国イギリスゆえのブリティッシュな贅沢だろう。

そして最後は何と言っても歌手たち。ズバリ、ジルダ役のネイディーン・シエラとマントヴァ公のハビエル・カマレナは夢の組み合わせだ。1988年生まれのシエラは「リゴレット」のジルダと「ランメルモールのルチア」のルチアで今最高の歌い手と言われ、すでにスカラ座、パリのオペラ座、メトロポリタン歌劇場で圧倒的評価を獲得している。それは「悲劇のお嬢様」を歌わせたら右に出る者なしのソプラノ。その可憐な歌唱に惚れ込むこと間違いない。

さらにパヴァロッティ、フローレスに次ぐ存在と言われるテノールのカマレナの輝ける高音で有名アリア「あれかこれか」「女心の歌」が聴けるのも一生ものの経験になるはず。ジルダとの二重唱やリゴレット含めた第3幕の四重唱「美しく愛らしい乙女よ」も格別の味わいになるだろう。

この『リゴレット』、観れば一生の宝、観なけりゃ一生の後悔ものです。

文:朝岡聡

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