「保育園の洗礼」呼び出し対応は「全て母親」が3割超。月10日以上仕事ができなかったケースも


5月に入り、「保育園の洗礼」という言葉がX上で広がった。

保育園に入園したばかりの子どもは、頻繁に風邪をひいたり、胃腸炎にかかったりするが、親はその度に保育園から電話を受け、迎えに行く必要がある。

頻繁に休みや早退を繰り返すことになり、一部企業ではその分の業務が同僚に押し寄せ、ハフポスト日本版がこれまで報じてきた「子持ち様問題」に発展する。

職場復帰して早々に訪れる「保育園の洗礼」。ワーキングペアレンツはどのような課題を抱えているのか。そして、どのように対策しているのか。

共働き子育て世帯向け転職サービス「withwork」を運営するXTalent(東京)は5月16日、保育園の呼び出しの実態に関するアンケート結果を公開した

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「早退や欠勤を白い目で見られる」

アンケート調査は2024年4月19日〜5月6日、インターネット上で実施し、子育てに携わる親ら222人が回答した。

XTalentによると、子どもが保育園に入園後、早退や休みを繰り返すことは親のキャリアにも大きな影響を及ぼすことがあり、withworkの利用者の中にも「呼び出しによる早退や欠勤に対し、職場で白い目で見られてしまう」といった理由で転職を検討する人もいる。

今回のアンケート調査では、入園半年以内に5割弱の親が1カ月に5回以上フルで仕事ができず、呼び出しの対応はすべて母親が担っている割合が3割を超すことも明らかになった。

お迎えの分担「母10割:父0割」が最多

調査ではまず、保育園からの呼び出しにより、「入園して3カ月〜半年以内で、1カ月あたりフルで仕事ができない日はどのくらいあったか」と聞いた。

すると、「0〜4日」が53.6%で最多だった。「5〜9日」も34.2%で、「10日以上」と答えた人も12.2%いた。つまり、1カ月あたり5日以上フルで仕事ができなかった人は46.4%に上ることが明らかになった。

XTalentは、「保育園から呼び出しを受けると、当日だけでなく翌日以降も子どもの看護や登園制限などで出社ができない。在宅勤務でも十分に仕事をすることは難しい」としている。

また、祖父母などのサポートを受けていない人に対し、「父母間のお迎えの分担割合について」を尋ねたところ、「母10割:父0割」が32.2%で最多だった。

続いて、「母9割:父1割」が18.1%、「母8割:父2割」が13.4%、「母5割:父5割」が11.4%などで、保育園からの呼び出しは母親側の負担が大きいことが判明した。

「呼び出し回数が減り始めた年齢」については、「2歳」が36%と最も多く、「3歳」が31.5%、「1歳」が17.6%、「特に変化なし」が14.9%と続いた。

「急な呼び出しへの対応策として取り組んで良かったこと」は、「事前に上司や同僚の理解を得ておく」が74.8%で最多。次は「家族内で役割分担を決めておく」の47.3%で、その後は「融通がききそうな部署へ異動する」の32.0%、「親族にサポートをお願いする」の29.3%などと続いた。

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共働き子育て世帯からの声

このアンケート結果を詳しくまとめた「【調査レポート】保育園からの突然の呼び出し」によると、共働き子育て世代からは次のような声が寄せられたという。

「復職日に呼び出しがかかり、社内挨拶も業務キャッチアップもできなかった」

「入園から数カ月は毎月10日ほどしか登園できなかった」

「家族全員体調が悪く、近くに親族や頼れる人もいない中で子どもの面倒を見なければならなかった」

「熱が下がらず辛そうな子どもに、仕事に行けない焦りで100%の優しさで接することができなかった」

「夫婦ともに勤務を抜けることが難しく、夫婦喧嘩に発展した。どちらが迎えに行くのかと、なすりつけ合いになる」

「働きたいのに、時短、早退・欠勤が多いためにやる気がないと思われる」

「直属の上司は両親に娘を預けられる環境で、毎日の食事作りも両親がしていた。しかし、私が呼び出しで早退しようとすると、上司から『そんなに親族が近くにいるんだから誰か頼れないの?あまり多いと困るんだけど』と言われた」

「仕事の繁忙期にたびたび呼び出しがあり、会社の上司に『いいかげんにしてください』と言われた」

「子育ては女性」という無意識の偏見

今回のアンケート調査でも、子どもの入園直後は必ずと言っていいほど早退や呼び出しに対応しなければならない。そうなると、早退や呼び出しがあっても対応できる企業の制度設計や職場の理解が重要になってくる。

しかし、依然として「共働き子育て」を想定した職場運営に至っていない企業も多く、子育て中の社員の業務が同僚に押し寄せ、「子持ち様」という言葉が子育て世帯に向けた皮肉として生まれた。

ハフポスト日本版が4月、相模女子大学大学院の白河桃子特任教授(人的資源管理)に取材したところ、子育て中の社員とそのほかの同僚の間に溝ができてしまう問題が顕著になったのは2010年から。

3歳までの子どもを養育する労働者の時短勤務利用が事業主に義務化され、出産後も仕事を継続する女性が増えたが、10年以前の制度設計から変わっていない企業では、職場の同僚がインセンティブをもらえるわけでもなく一方的に業務を負担している。

また、すべての呼び出しに母親だけが対応している割合が3割超という実態が明らかになったが、これは妻が働く企業の負担にもつながってしまう。夫側の企業が妻側の企業に「フリーライド」(タダノリ)していることと一緒だ。

白河さんはハフポストの取材に、「『子育ては女性の役割だ』という根強いアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)がいまだにある。女性だけが家事・育児を負担する時代から、夫婦2人でキャリアを築いていく時代に変わってきた。制度設計も同時に変わっていかなければならない」と話していた。

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