【遺産トラブル実例】親を介護した分は無視され、さらに使い込みの疑いまでかけられて…

相続の状況はさまざまですが、遺産トラブルの原因は、どの家庭にもありそう。何が悪かったのか、どうすればよかったのか、曽根恵子さんに伺いました。

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お話を伺ったのは
曽根恵子さん

そね・けいこ●相続実務士。一般社団法人相続実務協会代表理事。㈱夢相続代表取締役。
㈱PHP研究所勤務後、1987年、不動産会社を設立、相続コーディネート業務を開始。日本初の相続実務士として約1万5000件の相続相談に対処。「家族の絆と財産を守るほほえみ相続」をサポート。
『いちばんわかりやすい相続・贈与の本'23~'24版』(成美堂出版)の他、相続関連の著書は78冊を数える。

CASE① 遺産の分配の仕方をめぐってバトル‼️

【実例】
援助を受けた兄と半々は納得いかない!

父は10年前に他界。母が亡くなって兄と私が相続人になりました。兄は大学時代に留学費用を出してもらい、家を買うときも、かなり援助してもらっている。なのに「財産は半分ずつ分ければいいよね」と当然のように言い、「以前の援助は考慮なし?」と聞くと、「そんな昔のこと」と拒否。納得できません!

「特別受益」を認めるか どうかは兄次第の面も

お兄さんだけ援助してもらったのであれば、確かに納得はいかないですよね。遺産分割の話し合いで、親からもらった留学の費用、住宅購入の資金援助を「特別受益」として考慮し、分割してほしいと主張することはできます。ただ妹からそれを言われると、兄のほうは面白くないし、 「今さら、何を言う」とかえって特別受益を認めない場合も多いのです。

遺産分割の話し合いでお兄さんが認めず、解決の糸口が見つからない場合は、家庭裁判所での調停になる可能性が高い。調停で「特別受益」と認めてもらうには、援助の時期と金額を妹さんが示さなければなりません。とはいえ何十年も前の領収書や、親が兄の口座に振り込んだことのわかる通帳などを提示するのは、たいていは困難です。結局、特別受益が認められない場合も多いのです。

何より調停までいくと感情的なぶつかり合いになるので、きょうだい関係の修復は難しくなり、絶縁になることも珍しくありません。

援助については、親自身が生きているうちに対処しておくべきでした。親は遺言書で、「兄にはこれだけの援助をしたので、相続のときはこの分を加えて、2分の1ずつに分けるように」とか「兄にはこれだけ、妹にはこれだけ相続させる」と具体的な金額をきちんと書いておく。または、兄への援助と同じくらいの額を妹にも贈与しておく。

相続の際、これまでの親からの待遇の差をめぐって、ずっと我慢していたことが爆発し、一気に表に出てくるケースはたくさんあります。一見、仲がよさそうに見えるきょうだいでも、親がいなくなると歯止めがきかず、けんかになる。

相続トラブルを防ぐのは親の責任、と思います。

「特別受益」とは?

相続人の中に亡くなった人(被相続人)から遺贈を受けたり、生前贈与を受けたりした人がいた場合、この受けた利益を特別受益という。特別受益を考えずに法定相続分で財産を分けると不公平が生じるため、法律では特別受益を「相続財産の前渡し」と考えて、相続財産に加えたうえで分割し、特別受益者の相続分から差し引く。

特別受益の対象となる生前贈与は、結婚や独立開業などの際の資金援助、多大な学費、住宅取得時の資金援助など。たとえば相続人が子AとBの2人で、遺産が4000万円。Aは1000万円の住宅資金援助を受けていたとすると、4000万円+1000万円を法定相続分の2分の1ずつで分ける。受け取る額は、Aは2500万円から1000万円を差し引き1500万円、Bは2500万円となる。

CASE② 親の介護をしても遺産分割には無関係!?

【実例】
介護の分は無視され、使い込みを疑われて

遠くに住む兄も姉も、口を出すだけで何もせず、母の介護は私ひとりで頑張ったのに、「遺産は3等分しよう」と言われました。さらに、私が預かっていた母の通帳を見て、私が自分のためにも使ったのでは、と疑うようなことまで言われ大げんかに。介護で頑張った分、多くもらうのは間違ってますか?

介護の分を多くもらうには遺言書を書いてもらう必要が

きょうだい間で介護負担の差がある場合も、トラブルが起きやすいですね。まず、介護を担当した人に対して感謝や配慮のないことが多い。感謝の言葉どころか、親と同居して世話をしていた場合、「家賃がかからなくて得している」とか、「生活費も出してもらっていたんじゃないの?」と言われることも。そんなことを言われれば余計、「特別の寄与」を主張したくなりますね。

介護をひとりで担っていたのは、本当に大変だったと思います。ですが寄与分には明確な基準がなく、残念ながら親の介護をした人の「特別の寄与」は認められないことも多いのです。認められたとしても、とても少ない金額です。

やはりこの場合も、トラブルを防ぐためには、親に「世話をしてくれた○○に、これだけの財産を相続させる」と寄与分を認める遺言書を書いてもらっておけばよかったですね。遺言書があれば、親の意思が優先されますから。

親の預金について疑われるのは心外ですが、事前に親の財産について兄、姉と情報を共有しておく必要がありました。介護については親が元気なうちに、どうしてほしいか親の意向を確認しておくことが大事。介護が始まったら、それに沿って、きょうだいで役割分担をします。親の通帳を預かることになったら、その時点でどのくらい預金があるか、きょうだいで確認を。その後も何にどれくらい使ったかを記録しておいて定期的に見せるようにしましょう。手間はかかりますが、トラブル防止のためです。

また離れて暮らしているきょうだいには介護の細かいことはわからず、親は元気で手間もかからない、と思う人もいるので、通院のつき添いや病状などについてもメモしておき、介護の状況も報告、共有を。

「特別の寄与」とは?

相続人の中に亡くなった人(被相続人)の事業を手助けしたり、介護や看護に努めたりして、被相続人の財産の維持や増加に特別の貢献をした人(特別寄与者)がいれば、その人は他の相続人より多く相続できる制度がある。プラスでもらえる財産を「寄与分」という。

ただし親と同居して介護に努めてきたとしても、通常の世話や介護では特別の寄与とは認められない。報酬をもらっていた場合も対象外。寄与分は相続人同士の話し合いで決める。どのくらい寄与したかについては客観的な証拠が必要。

※この記事は「ゆうゆう」2024年6月号(主婦の友社)の内容をWEB掲載のために再編集しています。

取材・文/田﨑佳子

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