『虎に翼』朝ドラとして異例の“契約結婚” 寅子&優三の新婚生活に戦争の影が射す

その手があったか。寅子(伊藤沙莉)が社会的地位を得るための結婚相手に、優三(仲野太賀)を選択。寅子だけでなく、はる(石田ゆり子)も思わず舌を巻く。『虎に翼』(NHK総合)第35話では、寅子が優三と結婚し、佐田寅子となった。

その結婚の形は朝ドラとしては異例のものであり、『あさイチ』(NHK総合)の“朝ドラ受け”で博多華丸が例えていたように『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)の契約結婚に近いところがある(ちなみに、『逃げ恥』でも2人を見守っていたのは石田ゆり子)。寅子が求めているのは、弁護士として立派に認められるための社会的地位。書生として本当の家族のように猪爪家で暮らしてきた独り身の優三以上に、適任な人物はいないだろう。あまりに近すぎる存在に、はるも直言(岡部たかし)も目から鱗。すでに両親が他界している優三にとっても、猪爪家の家族になれること自体がこれ以上にないうまみだった。

婚約を機に、寅子は初めての弁護依頼を引き受けることができ、初の法服を着て、初めての法廷に立った。自分のため、去って行った仲間たちのために、やっとここまで辿り着いたのだと、香淑(ハ・ヨンス)、涼子(桜井ユキ)、梅子(平岩紙)たちとの涙と笑顔の日々が寅子の脳裏にじんわりと蘇る。「結婚には愛が必要なのか」という寅子からの問いに、よね(土居志央梨)は「結婚自体がくだらないと思う」と答えた。さらに「逃げ道を手に入れると人間、弱くなるもんだぞ」とも。不器用ながら、変わらず厳しいことを言ってくれるよねのような存在も必要である。

「わ・か・あ・て・い・た」と相変わらずな直道(上川周作)を含めた家族写真の撮影が終わり、新婚初夜。20cmほど離して敷いた布団の上にそれぞれ寅子と優三が正座をしている。形式的とは言え、2人はすでに夫婦だ。緊張と期待と不安。そんな空気を察し優三は「トラちゃんには指一本触れたりしないから」と布団を被るが、続けて「まあ僕はずっと好きだったんだけどね、トラちゃんが」とボソッととんでもない爆弾発言をかます。一瞬、受け流しそうになるものの、ギラリとした目つきで頭をフル回転させる寅子。布団から飛び起きて聞き返すが、すでに優三はいびきをかいて寝ている。緊張時の腹痛といい、こうしたコントノリを重要、もしくはシリアスなシーンにこそサラッとインサートしてくるのが『虎に翼』であり、そしてそこには必ず仲野太賀という存在がある。

優三は高等試験に合格できなかった時点で、寅子に思いを告げることはないと思っていた。しかし、直言から寅子のお見合いの話を聞き、優三は誰でもいいならと当たって砕けろの思いから、飛び出した猪爪家にもう一度戻ってくる決断をした。確かに、寅子から「それは優三さんも社会的地位がほしいと?」と聞かれた優三はかなり困惑していたように見える。「独り身でいる風当たりの強さは男女共に同じ」とは答えたものの、そこには心の奥底に秘めていた寅子への恋心があったのだろう。とは言っても、優三は寅子に見返りを求めることはせず、今まで通り“書生の優三さん”として接してくれて構わないと寅子に頭を下げる。優三の思いと驚くほどに寝つきが良すぎる、ということを知りながら、寅子と優三の結婚生活が幕を開けた。

その翌月、日本は真珠湾を攻撃し、アメリカやイギリスと開戦。昭和16年12月には日中戦争から太平洋戦争へと突き進んでいく。寅子にとっての幸せが高まっていく一方で、世の中では戦争が日々の生活に影を落とし始めていた。
(文=リアルサウンド編集部)

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