「ゴールから逆算してシンプルに攻めることも必要」玉田圭司監督が“技巧派集団”昌平に新たな風を吹かせる「違ったスタイルを作っていければ」

近年では森保ジャパン招集経験のある松本泰志(広島)、大岩ジャパンに呼ばれた小見洋太(新潟)らを輩出している昌平高校。その指揮官となって3か月が経過した元日本代表FWの玉田圭司監督は目下、選手たちと真摯に向き合い、レベルアップに勤しんでいる。

現在、同校には約120人のサッカー部員がいるが、彼が担当しているのは、トップチームの24人。FCラヴィーダを率いる村松明人コーチら13人のスタッフと協力しながら、少しでも円滑にチームをマネジメントし、効果的なトレーニングができるように日々、工夫を凝らしているという。

「今は高円宮杯プレミアリーグがあるので、週末の試合に向けての調整がメインです。平日の練習は授業後からですけど、僕自身は空いている時間にプレミアに参戦している他のチームの動画を見たり、チャンピオンズリーグやプレミアリーグの動画を見て、最新のトレンドを取り入れることを心がけています。

世界のトップクラブの戦いを見ていると、ボール保持の仕方や立ち位置に工夫が見られますし、受け手と出し手に加えて3人目・4人目の動きがないと崩せないというのも痛感します。

あとは90分間の使い方ですね。後半、疲れてきた時にうまく“サボる”ことも大事。僕も40代まで現役を続けましたけど、良い意味でサボる時間も作りながら、上げる時は一気に上げるというメリハリを大事にしていた。そういうところも選手たちには求めていきたいと思っています」と、玉田監督は元プロらしい言い回しで指導のポイントを語っていた。

ユース年代はこれから猛暑の環境下での戦いを余儀なくされる。玉田監督が習志野高校の選手だった頃に比べると、プレミアリーグなどはナイトマッチも増えたものの、やはりフィジカルベースが高くないと頂点は狙えない。

そこで昌平では、毎週頭にトレーナーと相談しながら、素走りや体幹強化も取り入れている。「技巧派揃いでボール回しを重視するチーム」というイメージの強かった昌平に新たな風がもたらされつつあると言っていいかもしれない。

「僕はゴールから逆算してシンプルに攻めることも必要だと考えています。ビルドアップやボール回しは勝つための1つの手段なので、そこにこだわり過ぎてはいけない。やっぱり点を取った方が勝つのがサッカー。そういう考え方を、今年はより強く植え付けようとしています」と玉田監督は強調する。

5月11日の柏レイソルU-18戦を見ても、シンプルに縦に蹴り出したり、奪ったら手数をかけずにゴールまでボールを運ぶような攻撃も随所に見られた。そこにショートパスやドリブルなど昌平らしい長所を組み合わせ、柔軟に戦い方を変化させられれば、より勝てる確率は上がる。新指揮官はそんな柔軟性や対応力も選手たちに身に付けさせたいと考えているのだ。

「今の昌平はトップに入るチソ(鄭志錫)というターゲットマンにボールが入らないと、難しい状況に陥るケースが少なくない。どの試合でもそういった苦境に直面します。しかも、1回リズムを失うと、なかなか流れを取り戻せずに、防戦一方になってしまう。その課題をいかにしてクリアさせるべきかを、僕自身も真剣に模索しています。

チソを最前線に置かない形にトライするのも一案ですね。右フォワードの(山口)豪太やインサイドハーフに入っている長(璃喜)をゼロトップ気味に配置して、違ったスタイルを作っていくことができれば、チームの幅も広がるのかなと思っています」

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玉田監督が戦い方の幅を広げようとしているのも、「対戦相手や戦況に応じて臨機応変に変わっていけるのが本物の良い選手」という考え方があるから。実際、彼自身も23年のプロキャリアの中で様々な役割を担い、変化していった。

習志野高校から柏レイソル入りした若手時代は左ウイングが主戦場で、左45度からのドリブルシュートで一世を風靡していたが、岡田武史監督が率いる日本代表やセレッソ大阪時代は1トップでプレー。他の環境では2トップの一角に陣取ったり、トップ下に近いポジションに入るなど、指揮官の要求に最大限に応えていたのだ。

「僕自身は現役時代、それぞれの監督から『ああしろ、こうしろ』と具体的な指示を受けたことはほとんどなかった。『あまり引いてくるな』『前に張っていろ』といったザックリしたことは言われましたけど、自分なりに必要だと思えば、少し中間的な位置に下がってボールを受けたり、チームを円滑に動かすようなことはやっていました。

昌平の選手たちは育成年代だから、いろんな役割やポジションにトライして、考えながらプレーすることが大事なんです。そういうなかでも自分のストロングを出すことを忘れてほしくない。やっぱり武器のある選手は強いですし、チームが勝つためにも必要なこと。自分も長年、そう考えながら取り組んできました」

藤島崇之前監督も「玉田のプロ経験は他の人にはないものだし、非常に説得力がある。それを可能な限り、選手に伝えてほしい。『生きる教材』が目の前にいるんだから、何も聞かないのはもったいないし、もっといろいろ質問してほしいですね」と熱望する。

残念ながら、今の昌平には「玉田さん、代表の頃はどうだったんですか?」といった質問を真正面からぶつけてくるタイプがほとんどいないというが、指揮官は彼らが自発的にアクションを起こしてくれるのを辛抱強く待つ構えだ。

「プレミア制覇とか選手権優勝とか、そういう目標は設けていませんが、とにかく選手たち個人個人を成長させたいというのが今、僕が一番願っていること。個々が伸びれば、試合内容も良くなるし、結果は自ずとついてくる。そうなるように、トライ&エラーを続けていきます」と玉田監督は新たな決意を口にした。

「玉田のような元日本代表経験者が高体連の監督になってくれたのは前向きな要素。彼が良い刺激を与えてくれると思います」と大津高校の平岡和徳・テクニカルアドバイザーも期待を寄せていた。ここから彼らがどのような軌跡を辿るのかを注視していきたい。

※第2回終了(全3回)

取材・文●元川悦子(フリーライター)

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