焦点:笛吹けど踊らぬ中国の住宅開発融資、不動産不況は深刻

Clare Jim Xie Yu

[香港 14日 ロイター] - 中国の地方政府が今年初め、優良な住宅開発プロジェクトを記載した「ホワイトリスト」の作成を開始すると、資金繰りに窮していたデベロッパーの間では、ようやく金融機関による融資の「蛇口」が本格的に開かれるとの期待感が広がった。

ところが、4カ月が経過した今も、新規融資の合計規模は「しずく」程度に過ぎず、中国の住宅市場の先行きについて警戒感がなお極めて強いことが、銀行関係者やデベロッパーに対するロイターの取材で判明した。

中国政府はしきりに不動産セクターへの融資を促しているが、不良債権増加を恐れる銀行は、その意向を踏まえた融資を実行することには依然及び腰。マクロ経済全体を下支えする上で重要な不動産市場の信頼感を一層損なう形になっている。

複数の関係者に話を聞くと、新規融資が承認された時期も3月終盤以降で、数カ月前のホワイトリストのプログラム始動時点でデベロッパーに早速、新規融資が提供されると予想していた投資家らを驚かせた。

S&Pグローバル・レーティングスのマネジングディレクター、ローレンス・ルー氏は、より多くの新規融資承認を阻む一番の要因として、足元の不動産市場環境の低調さを挙げる。

「デベロッパーが資金を得るには、プロジェクトを用意する必要がある。問題は今、そのプロジェクトが債務返済に十分なキャッシュフローを生み出せるかどうかだ」と指摘した。

関係者によると、3月終盤以降で少なくとも民間デベロッパー6社が銀行からホワイトリスト案件について新規融資の承認を獲得した。

ただ、中国には未完成住戸の膨大な在庫があるだけに、新規融資は極めて不十分で「大海の一滴」にとどまる。今年3月にロイターは、ホワイトリストの対象プロジェクトに必要な資金は1兆5000億元(2075億1000万ドル)に上ると伝えた。

<個別事例>

中国の国内総生産(GDP)の2割を占め、依然として消費の足かせになっている不動産セクターを何とか上向かせようと、2022年から数々の政策措置が講じられたが、不発に終わっている。

その一環として打ち出された「ホワイトリスト」を通じた融資の働きかけも出足が鈍く、住戸完成に向けてデベロッパーへの新規融資承認を迅速化させるという政府の取り組みがいかに難しいかが読み取れる。

1月に打ち出されたホワイトリストの枠組みでは、地方政府が優良プロジェクトを選定し、国有銀行ないし民間銀行が積極的に融資することが奨励されている。

国有メディアの報道に基づくと、3月末までに銀行が承認した住宅プロジェクト向け融資の総額は720億ドル。ただ、デベロッパーや銀行関係者は、これらの承認案件の多くは既存融資の再開で、新規融資ではないとくぎを刺した。

アナリストの推計によると、中国全土で未完成の住戸は数千万戸に上る。一方、ホワイトリストの下での融資の規模や条件に関する公式のデータは存在しない。

上海に拠点を置くCIFIホールディングスが4月下旬に証券取引所に提出した書類で、安徽省蕪湖市のプロジェクトが初の新規融資承認対象となり、2000万ドル強が認められことが分かっている。

4月末時点でホワイトリストに記載された同社のプロジェクトは68件で、そのうち29件について既存融資の修正ないし新規融資の承認が得られ、年間で1億2000万元の利払い費を節約できるという。

金科地産はウィーチャット(微信)の公式アカウントで、4月末段階で83件のプロジェクトがホワイトリストに加えられたが、資金繰りが立ったのは6件だけだったと述べた。これらが既存融資か新規融資かは明らかにしていない。

<売れない住戸>

銀行から融資の承認をもらったデベロッパー6社のうちの1社は、せっかくの支援を受けないと決めた。

この会社の幹部はロイターに「融資には利払いが発生する以上、これは好ましくない取引だ。ホワイトリストのローンをいったん利用すれば(住戸を)完成させなければならない。だが、われわれはこの劣悪な市場で全ての住戸を売りさばけないので、費用だけが増えることになる」と打ち明けた。

ホワイトリストの下で実行される融資の資金は、当該プロジェクトを確実に完遂させるため特別の口座に振り込まれ、他の債務に流用することはできない。

一部の銀行関係者は、今後も当局者と協議し、幾つかのプロジェクトには瑕疵(かし)がある点などを説明した上で、ホワイトリスト関連の融資指令を保留し続ける考えだと話す。

ある銀行関係者は「銀行にとってこのような損失を生む事業を積極的に進めることは不可能だ。実行すれば不良債権急増という罰を受ける」と強調した。

中央政府と地方政府は、未完成住戸の在庫を解消するべくさまざまな政策を行っており、北京や深センなどの大都市は住宅購入に絡む各種規制も緩和している。

それでも5月の大型連休中の住宅販売戸数は1日当たり平均で前年比47%減少。4月全体でも前年比45%落ち込んでおり、需要喚起の面でも当局が直面するハードルは相当に高い。

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