もてぎで開幕を迎えるFIMトライアル世界選手権。世界を知る”フジガス“藤波貴久が語る監督業「レースに出る方が、めちゃくちゃ楽です」

 モビリティリゾートもてぎで5月18、19日に開幕を迎える2024FIMトライアル世界選手権。17年連続でチャンピオンを獲得する絶対王者トニー・ボウと加入3年目のガブリエル・マルセリの2名体制で挑むレプソル・ホンダ・チームの藤波貴久監督が今季の意気込みを語った。

 2024年はモビリティリゾートもてぎの日本GPで開幕するトライアル世界選手権。絶対王者のボウと期待の若手マルセリを擁するレプソル・ホンダ・チームを率いるのは、かつて世界で名を馳せた“フジガス”こと藤波貴久監督だ。

 1996年トライアル世界選手権にデビューし、2004年には日本人として初めてトライアル世界選手権のチャンピオンを獲得した藤波は、2021年をもって26年の現役生活に終止符を打ち、2022年シーズンからレプソル・ホンダ・チームの監督に就任。今年で3年目のシーズンを迎える。

 勝手知ったるモビリティリゾートもてぎでの日本グランプリを前に、ライダーとは違ったチームを率いる監督業の楽しさを語った。

「いろんな面白さはありますね。(ライダーたちが)成績を出してくれるというのがまずひとつです。当然ライダーの頑張りがありますが、やっぱり自分が指示をして自分のトレーニング方法に従ってくれて、その方法が合ってるからこそ、優勝したりとか成績上がる。自分の中でこれはちょっとやった甲斐があるなって自分の中で楽しんでいます」

「性格が違うので、ふたりともやり方は違います。その性格を読み解くのも楽しい」

藤波貴久監督とトニー・ボウ、ガブリエル・マルセリの布陣は3年目を迎える

「トニー(ボウ)は昔から知っていますが、とにかくやっぱり調子がいいといろんなところ行き過ぎるんですよ。攻め過ぎるんです。それで怪我をする。しょっちゅう怪我をしてたんですよ。やっぱり36、37と年齢を重ねてきている時に、体の故障は致命的なんです」

「なので最近は調子はいいんだけれども、攻める角度は違う。もう本当に危ないところだけを一生懸命やっていたので、そこじゃなくって、ソーシャルメディアとかでで見せろと。みんなが『わっ!』と驚くようなことを、調子がいいときにすればいいじゃんと言っています」

「調子が良いときに、前タイヤだけで後ろに下がっていくとか、みんなが『お!』と驚くようなこと集中してさせると、自分の魅力をみんなに見てもらえる部分もありますし、怪我も少なくなってきています」と18年連続チャンピオンを目指す絶対王者について語る藤波監督。

アウトドア・インドア合わせて34度のチャンピオンを獲得するトニー・ボウ

■マルセリの成長に期待する藤波監督

 監督就任と同時にチームに加入したマルセリについては、「すごい頑固なんですよ。あんなにニコニコして、みんなに笑顔を振り撒くのに頑固なんです。元々彼とはライバルで、『僕を倒してレプソル・チームに入りたい』というところがあったんです。すごい僕にライバル心があったんですよ」

「なので僕が辞めてレプソルのライダーに入って、一生懸命に僕は彼を育てようとしているのに、なかなか聞き入れてくれない。なので誠意を伝えて、本当に好きな彼女を落とすわけじゃないですけど、それぐらいずっと『俺はお前を育てたいんだからね』という感じを伝えていきました」と信頼関係構築の難しさを語る。

「もう本当にそれの方が大変でしたね。『僕を育てたいんだ』と思わせるように、練習とかでもみんなには教えないような秘密を教えたりとかね。(信頼関係が築けたと思えたのは)昨年の中盤ぐらいすかね。1年目は全然ダメでした」

「トニーには何もしなくても勝てるというところがあったんですが、僕が逆にマルセリにずっと教えているとトニーはトニーでに拗ねるんですよ。『藤波ずっとマルセリのとこ行っていない?』というふうに思われるので、それはそれでこっちもケアしないといけないし、難しいです。メンタルコントロールですね」

「それぞれ性格が違いますが、仲は良いです。お互いを同じ土俵で走ってはいるけど、他のモータースポーツみたいに同じ時間には走らないので、当たったりとか、そういうバチバチ感はないんですよね。自分が失敗しなければ、いいだけなんです。失敗するから減点が加算されて、順位がどんどん落ちていく。誰かが悪いとか、誰かが失敗を起こすとかではなく自分との戦い。そこはライダーたちみんな仲のいい秘訣なのかなと思いますね」

「ふたりは本当にライバルですけど、仲は良いですよ。(シーズン終盤に)チャンピオンを争うとそうはならないと思いますけど……。今まだトニーがやっぱりちょっと上にいて、ガブリもトニーが先輩だという感じがあるけれども、これがやっぱりガブリがもっと上がってくるとケアの仕方が変わってきますよね」と語る藤波監督。マネージング業務の難しさはそのチャンピオン争いにあると感じているようだ。

監督業の楽しさを語る藤波貴久監督

「両方がチャンピオン争いをしている時は、どっちも勝ってほしいじゃないですか。トニーは20年間勝って40勝というのが僕とトニーの目標なんです。でも、僕とマルセリとの目標は、まず1勝。どれだけ早くトニーを倒せるかというのが目標なんです」

「矛盾するんですよね。マルセリは、まだそこまでにはなっていない。でも、絶対に来る。次期チャンピオンにはなると思います」

「僕は、年齢が衰えた時にどれだけ伸ばせられるかというところを自分自身が経験してるので、トニーに対してアドバイスができます。これからトニーが落ちてくる時が絶対に来る。まだずっと登っていますけど、そのスピードはマルセリより絶対に角度が違います。マルセリはぐっ!ときていて、差が縮まっているのがわかるんですよ」と藤波監督。レプソル・ホンダ・チームの世代交代は近づいていると感じているようだ。

「今年、来年ですね。マルセリは本当に一歩一歩進むタイプ。1回優勝するとたぶん落ちないぐらい後退しないライダーなんですよね。そのぶんぐんっ!と来ないんですけど……」

「もてぎの前のスペイン選手権では、最終セクションまでマルセリ、リードしてたんですよ。そこで失敗をしてトニーに優勝を捧げたみたいな感じになってしまいました。やっぱり弱さがまだあるんですよ」

「レベル的には、開幕戦からマルセリが来てもおかしくないとは思います。ただトニーの自信とか、今までのその積み重ねた引き出しがすごいあるので……。(マネージャーの腕の見せ所?)そうですね。今年の中盤ぐらい。夏休み前には、マルセリに優勝してもらいたいですね。楽しみです」とマルセリの成長を期待する。

トニー・ボウとガブリエル・マルセリの2台体制で挑むレプソル・ホンダ・チーム

■現役時代にやりたかったルーティン

 母国で迎える開幕戦。現役時代と同じくプレッシャーを藤波監督は感じている。

「一年一年、どのライダーも進化していて、その進化が見られるのがこの開幕戦でもある。僕にとっても母国グランプリで、すごく大切ですし、それ以上にやっぱり開幕戦でプレッシャーもあります。ライダーたちがどういう走りをするのか、ノンストップルールからストップルールに変更になって、本当に忙しい週末になると思いますね」

「今、成績を出そうとすごい良い感じで両ライダー来ています。でも、ここで表彰台に乗れないとか、何か自分たちが思ってるライティングにならなかったら全部崩れてしまう。そうなった時に、第2戦に向けてどういうふうに立て直さないといけないかとか、そこは心配ですね」

「いつもだったら、もてぎに直接入るのですが、開幕戦で、日本グランプリでもあるので、いろいろなルーティンを変えたくないというのが僕の中でありました。いつもグランプリ前は、水曜日ぐらいまで練習するんですよ。それから移動して、レースという感じなので、そのルーティンを日本だからと変えたくなかった。HRCさんにもお願いをして、マシンを余分に2台送ってもらって、火曜日、水曜日はトライアル場で練習をして、週末に挑んでもらいます」

「やっぱり日本だから特別じゃないですか。時差ボケもあったり、こういう取材もいろいろあって、いつもと違う感じでレースが始まる。だからこそ、練習をして、いつものルーティンに戻ってもらいたい。僕がライダーの時にしたかったんですよ。それを監督となった今、実現している感じです。」

「監督より自分がレースに出る方が、めちゃくちゃ楽ですよ。みんなあれはどうやってすんの、どういうルール?とか聞いてくるんで、全部を把握しておかないといけない。わからないとは言えないじゃないですか。だから、今までよりも勉強しています。ルールブックなんかほとんど読んだこともなく監督に聞いていたので……(笑)」

「目標の立て方が、僕がチャンピオンを獲るぞという目標から、チャンピオンを育てるぞ、チャンピオンを継続させるぞという目標に変わっている。向き合い方は選手時代と違いますが、本当に楽しんでいますよ」

 今週末、モビリティリゾートもてぎで開幕を迎えるFIMトライアル世界選手権。藤波監督率いるレプソル・ホンダ・チームがどんなスタートダッシュを見せるのか注目だ。

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