米NFLスター選手、女性の大事な役割は「主婦」と卒業式でスピーチ 批判浴びる

アメリカンフットボールの米プロリーグ(NFL)のスター選手が、米大学の卒業式で人工妊娠中絶の権利を問題視し、女子学生らに向かって人生で最も重要な役割の一つは「主婦」だと述べ、批判にさらされている。解雇を求める嘆願書には16万人近くが署名している。

この選手は、スーパーボウルで3度の優勝を経験している、カンザスシティ・チーフスのハリソン・バトカー氏(28)。

同氏は今月11日、カンザス州のキリスト教カトリック系の私立大学ベネディクティン・カレッジの卒業式で20分間スピーチを行った。

バトカー氏は、女子学生らは「最も極悪非道なうそ」をつかれてきたとし、次のように述べた。

「あなたたちの中には、世界でキャリアを積んで成功する人もいるだろう。しかし、あえて推測すれば、あなたたちの大多数は、結婚と、この世に送り出すであろう子どもを最も楽しみにしているのではないか」

バトカー氏はまた、妻イザベル氏について、その人生は「妻そして母親として天職を生き始めた」ときから「本当に始まった」と演説。妻は「すべての肩書の中で最も重要なものの一つ」を受け入れているとし、それは「主婦」だと述べた。

スピーチでは、人工妊娠中絶の権利やLGBTQ(性的少数者)の誇りを掲げるプライド・マーチを非難する場面もあった。さらに、体外受精(IVF)、代理出産、「退廃的な文化的価値観」、「危険なジェンダー・イデオロギー」、「ダイヴァーシティー(多様性)と平等、インクルージョン(包括性)の専横」を批判した。

バトカー氏は、「私たちの国は、カトリックの信仰を公然と誇りをもって明確にしながらも(中略)罪のない赤ちゃんの殺害を声高に支持している人物に率いられている」と、ジョー・バイデン大統領を引き合いに出して自説を展開した。

バトカー氏は2017年からチーフスのキッカーとしてプレーしている。2022年には62ヤードのフィールドゴールを決め、チーフスの記録を更新した。2020年にはチーフスの50年ぶりのスーパーボウル制覇に貢献した。

スピーチへの反応

NFLは今回のスピーチについて、バトカー氏が「個人的な立場で」したものだとし、「彼の見解はNFLのものではない」と距離を置いた。

チーフスは、バトカー氏の発言について反応していない。

性的少数者の擁護団体GLAADは、バトカー氏のスピーチについて、「アメリカ人とひどくかけ離れている」と批判した。

ソーシャルメディアでも、バトカー氏とに対する非難する声が上がった。

チーフスの元チアリーダーのステファニー・ヒルズ氏もTikTokで、「スピーチで最もよかったのは『自分のレーンにとどまれ』と10回以上言ったことだった。兄弟よ、自分自身の忠告を聞け」とコメントした。

一方、多くの保守派の人々がバトカー氏の発言を称賛している。また、熱烈なリベラル派である俳優ウーピー・ゴールドバーグ氏は、バトカー氏にも自身の意見を表明する権利があると擁護した。

ゴールドバーグ氏はテレビ番組の中で、「それが彼の信念であり、受け入れているものだ」と語った。

「私にはそれを信じる必要も、受け入れる必要もない」

チーフスのクォーターバックのパトリック・マホームズ氏はラジオ番組で、バトカー氏はチームメートとあまり話をしないと述べた。

「正直言って、ハリソン(バトカー氏)とは1年中話さない。彼の好きなようにやらせている」

バトカー氏への「さらし行為」を捜査へ

こうしたなか、ミズーリ州の検察当局は、カンザスシティー自治体のソーシャルメディアアカウントが、バトカー氏に対する「さらし行為」を行った疑惑について捜査を行うと発表した。

同自治体が運営するX(旧ツイッター)公式アカウントは15日、バトカー氏一家が住んでいる地域を投稿した。この投稿は約2時間で削除された。

アンドリュー・ベイリー州司法長官は、この投稿がミズーリ州人権法に違反し、「宗教的信条をあえて表明した」バトカー氏を標的にしたものかを捜査すると述べた。

カンザスシティーのクイントン・ルーカス市長は、投稿は「明らかに不適切だった」と謝罪している。

(英語記事 Harrison Butker 'homemaker' speech sparks backlash

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