【川崎と鳥栖の試合でスコアを動かしたものとは(1)】警戒していたクロスからの連続失点、それぞれの1点目が与えた影響……「負けた試合はいろんな要因が絡み合う」からこそ

サガン鳥栖の横山歩夢のJ1初ゴールがチームに勢いをもたらした 撮影:中地拓也

試合後のピッチは、サガン鳥栖のユニフォームを着たサポーターらに開放されていた。抽選で当たったのだろうか、記念写真を撮る人、持ってきたボールを蹴る人など、それぞれが思い思いの時間を笑顔で過ごしていた。

もちろん、勝利試合の直後だったことも大きい。川井健太監督がこのチームを率いて初めての連勝を手にしただけでなく、それを祝うかのように5つものゴールを決めたのだ。

5-2。そのピッチの上で、川崎フロンターレはサガン鳥栖とのアウェイゲームで次々と失点を喫した。最初のものは26分で、最後のものは75分。ハーフタイムを挟んではいるが、49分で5失点を許したことになる。

とはいえ、最初から鳥栖が試合を支配していたわけではない。鬼木達監督が「立ち上がりのボールの動かし方も含めて、非常にスムーズさはありました」と攻撃面での手応えを振り返るように、そんな感触の中で得たCKから高井幸大が先制点を奪う。先にスコアを動かしたことで、川崎は気持ち的に楽に試合を進められるかと思われた。前半13分のことである。

しかし、26分、37分、44分と立て続けに失点。2点差とされたことで、難しいゲームとしてしまう。それでも前半アディショナルタイムに家長昭博が1点差に迫るゴールを決めたことで後半の立て直しに期待が浮かんだが、その立ち上がりにサガン鳥栖が追加点を奪う。鳥栖に心を折られながら時間を過ごすこととなった。

■「1点目は同点に追いついただけ」

試合後に瀬川祐輔が「負けた試合はいろんな要因が絡み合って負けてしまう」と話すように、敗因はけっして一つではない。さまざまな要素が絡み合うことで、敗れる。

しかし、指揮官や選手が揃って口にしたのは、警戒していた点で失点したということだ。虚を突かれたわけではないという。実際、鬼木達監督は「事前に危ないところというかチームとして共有していた中でやられています」と説明し、選手の口からも「準備していた部分でやられた」という言葉が出ている。

また、それぞれの1点目が与えた影響もあったかもしれない。先述したように先制したのは川崎で、「やっている中で何かいけるなっていう感覚はあって、その中でセットプレーで1点取れた」という感覚がピッチに立つ選手の中にあったという。そして、「このままいけそうだな」という気持ちも生まれたようだ。

一方のサガン鳥栖のゴールを決めたのは横山歩夢で、貴重な同点弾がJ1初ゴールになった。その横山はゴールを決めたことで、「素直に嬉しいですし、ほっとしました」と率直な気持ちを明かしたうえで、「1点目は同点に追いついただけだったので、もう1点、もう2点取りたかった」と、そのゴールが前への意識をより強くさせたと説明する。

そして、「先制されている中で追いついたので、チームとして勢いに乗った」と自らのゴールがチームに勢いをもたらしたと感じたという。

■勢いの面で対照的だった両チーム

その横山歩夢はJ1初ゴールを決めた直後に、2ゴール目も決めている。どちらもクロスに合わせたものだが、けっして川崎フロンターレ対策ではなかったと明かす。

「2点ともクロスからの得点ですけど、クロスからのフィニッシュっていうのは練習からやってるので、川崎戦だからっていうわけではなくて、1年、本当に去年からやってますけど、来た時からからずっと言われていることをやってました」

鳥栖にしてみれば継続していたクロス攻撃がここで実り、川崎にしてみればその警戒していたクロス攻撃から同点弾と逆転弾を許した。鳥栖としては勢いに乗りやすい状況で、川崎としては勢いをそがれやすい状況だった。

すでに5失点している中でなんとか点数を取りたいと強い気持ちで後半33分からピッチに入った瀬川祐輔は、試合の多くをベンチから見ていて、「頭の中でしっかり準備してきた中でやられてしまったので、チームとしても徐々に歯車が狂っていってしまう要因の一つだった」と分析しているが、まさにそのようなメンタルだったのかもしれない。

鬼木監督もそれを感じていたようで、「どんな状況でも諦めない、もっともっとタフなメンタルを作ることがやっぱり重要なこと」とその強さを求めていた。

(取材・文/中地拓也)

(後編へ続く)

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