没後30年の英雄セナに現役ドライバーたちが語った思い…角田裕毅は「この人は明らかに違う」と感銘、ガスリーはアイドルの車を駆って感激

今週末、F1第6戦は欧州に移り、エミリア・ロマーニャ・グランプリがイタリア・イモラで開催される。

イモラといえば、F1史上において最大の悲劇ともいわれる、1994年サンマリノGPでのローランド・ラッツェンバーガー、そしてアイルトン・セナの壮絶な事故死の記憶は、30年経った今なお、世界中の多くの人々の脳裏から消えずに残っているようだ。

とりわけ、3度の世界王者であり、数々の伝説やドラマを創成したブラジルの天才ドライバーだった後者が、当時はエスケープゾーンのない超高速コーナーだったタンブレロに200キロ超のスピードで直進して34歳の命を散らしたことは、F1に大きな喪失感をもたらしたものである。

その抜きんでたドライビングテクニックとストイックな姿勢、勝利への強い執着心でF1界の永遠のレジェンド、そしてレガシーにもなっている彼の記憶が薄まることはなく、今回は30年目の節目ということもあり、再び各メディアから様々な形でこの不世出のドライバーに再び脚光が浴びせられている。

F1公式サイト『F1.com』もそのひとつで、メモリアルレースが行なわれる週末に向け、セナの雄姿を思い起こさせる動画を公開しているが、その中では現在この世界最高峰レースの舞台で戦う現役ドライバーたちが、「セナの存在は何を意味するのか?」についてコメントを残しているのが非常に興味深い。

現役ドライバーで、最もセナと結びつく存在といえば、常々彼のことを最大のアイドルであると公言してきたルイス・ハミルトン(メルセデス)だが、今回のビデオに登場したのは、カルロス・サインツ(フェラーリ)、フェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)、ピエール・ガスリー(アルピーヌ)、シャルル・ルクレール(フェラーリ)、角田裕毅(ビザ・キャッシュアップ・RB)、オスカー・ピアストリ(マクラーレン)、ヴァルテリ・ボッタス(ザウバー)、ケビン・マグヌッセン(ハース)である。

サインツ:「F1に登場した瞬間から、彼は他の誰とも違う存在だった。史上最高のF1ドライバーのひとりであり、何よりも、おそらく最もカリスマ的な存在だ」

アロンソ:「僕の世代にとって、彼はインスピレーションの源だった」

ガスリー:「スポーツ史上、最も象徴的で成功したドライバーのひとり。アイルトンは素晴らしいインスピレーションの源だ」

ルクレール:「セナは、僕にとって唯一無二のアイドルだ。彼は才能だけの人物ではなく、努力も組み合わさった結果、非常に特別な存在になった。彼が非常に才能豊かであったという事実は、とても刺激的だ」
角田:「セナがモナコを走っている時のオンボード映像を見ましたが、片手でドライブしていて……全てのコーナーを限界で攻めているのを見て、この人は明らかに違うと感じました」

ピアストリ:「セナは、非常にエキサイティングなスタイルを持っていた。その車のドライビングは非常にアグレッシブで、華やかでした。純粋なスピードにおいて、究極のドライバーだ」
ボッタス:「彼のレガシーは、今もなお人々のモチベーションとなっている」

マグヌッセン:「セナは常に、スポーツ界最大の伝説として崇められている。史上最高のレーシングドライバーだ」

現役ドライバーの中で1994年以前の生まれは、アロンソ(1981年)、ハミルトン(1985年)、ニコ・ヒュルケンベルク(1987年)、ダニエル・リカルド(1989年)、ボッタス(1989年)、セルジオ・ペレス(1990年)、マグヌッセン(1992年)の7人で、他のドライバーは生でそのパフォーマンスを目撃はしていない。

にもかかわらず、何人かの若いドライバーたちはセナをアイドル、目標としているが、なかでもガスリーはその代表格で、先日は英国シルバーストーンでセナがF1デビューイヤー(1984年)に駆った「トールマンTG183」をセナカラーのヘルメットをかぶって走行。当時の伝統的なHパターンのギアボックス、3ペダル、ハイテクなしながらもパワフルなF1マシンを味わった彼は、「一生忘れられない経験。全ての期待を上回るものだった」と感激を隠さなかった。

また彼は、今週末のレースでも、セナカラーの黄色いスペシャルヘルメットを着用することを発表。「今週末は、多くの理由で特別なものになるだろう。特に、伝説のセナの悲劇的な死から30年を経て、彼を偲ぶことになるからだ。ここで特別なセナのヘルメットを着用し、ブラジルの子供たちの教育を支援する『アイルトン・セナ財団』への資金集めのため、これをレース後にオークションに出品する予定だ」との声明を発表している(フランスのモータースポーツ専門サイト『NEXTGEN-AUTO』より)。

ちなみに角田は数年前、乗ってみたい車を訊かれた際に、「もし機会があるなら、今と全く音が違う、以前の車に乗ってみたいです。特に興味があるのは、アイルトン・セナが乗っていたマクラーレン。凄いパワーで信じられないような車だったと思います」と語っていたものである。

ラッツェンバーガーとともに、その死によってモータースポーツ界の安全強化に大きく寄与した偉人は、没後から30年経ってもなお、ファンだけでなく、後進たちにも強い影響力を与えているようだ。

構成●THE DIGEST編集部

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