2023年の高水温の影響が今も残っている「陸奥湾ホタテ」。いつもの年であれば今が水揚げの最盛期ですが、今シーズンはまだ水揚げができていない漁師もいます。苦境に立つホタテ漁の現場を取材しました。
青森市奥内のホタテ漁師、中村久雄さん(69)です。ホタテ漁に従事して50年以上になるベテラン漁師ですが、2024年はこれまでに経験したことのない異常な状況だといいます。
【ホタテ漁師 中村久雄さん】
「稚貝を採取するにはしたんだけれども、高水温で平年の1割あるかないかという感じで。50年ぐらいこの養殖に携わってるんだけれども、まず初めてですね、こういう状況は」
陸奥湾のホタテ漁は、例年4月から主力の半成貝の水揚げが始まります。いつもであれば、大型連休の前後にピークを迎えるホタテの水揚げ。
5月半ばを過ぎた今も、中村さんの水揚げ量はゼロのままです。
【ホタテ漁師 中村久雄さん】
「(例年なら)この時期出荷が始まってるんだけど、この辺では1軒か2軒は出荷している人もいるけど、まだほとんど出荷できない状態で」
4月以降、何度かホタテを出荷したという若手のホタテ漁師も、水揚げできる量の少なさに困惑しています。
【若手漁業者】
「本当は4月から漁が始まっているんですけれど、難しいところがあってまだ出せていないですね、貝が少ないんで」
【若手漁業者】
「例年やっている出荷は全然やれていない状況で、まだまだ(ホタテを)出せない状況なので、6月とかにならないと収入源がない状態なので、そういう感じですかね」
水揚げができないことで、日々の生活や今後の運転資金にも影を落としています。
【ホタテ漁師 中村久雄さん】
「出荷しないとお金にならないしね。まあその辺大変ですよね。当然船の支払いとかそういうものもあるし、皆さんそうでしょうけどね」
中村さんは、ホタテの成長を待って、6月まで出荷を見合わせることにしています。
【ホタテ漁師 中村久雄さん】
「母貝用に若干残しながら、何とかこれを切り抜けていかなくちゃなと思っていました」
水揚げ量の少なさは数字にも表れています。2023年の調査で、稚貝のへい死率が9割に達した青森市漁協。
2022年までは、4月1カ月間の水揚げ量は、2000トンを超えていましたが、2023年は十分な稚貝を確保できない採苗不振により、およそ200トンに減少。2024年はわずか8トンと激減しました。
青森市漁協の澤田組合長は、過去に大打撃を受けた2010年の被害とは比べ物にならないと話します。
【青森市漁協 澤田繁悦組合長】
「あれよりもっとひどい、平成22年(2010年)よりももっとひどい。あの時は1回きりで次の年からまた良くなったが、去年も今年も(2年連続で)ダブルパンチだから」
澤田組合長は、困窮する漁業者への共済金が早期に支払われるよう、国に働きかけているといいます。
【青森市漁協 澤田繁悦組合長】
「ホタテ共済については、来年の3月でなければ支払われないのだけれども、国にも働きかけて半成貝の漁は7月になれば終わってしまうので、そこを1カ月でも2カ月でも早く面倒をみてくださいと、国には頼んでいる。実現すれば皆助かるな」
こうした状況の中、将来的にも大きな影響が懸念されるとして、地元自治体の青森市では、漁業者への支援策を講じています。
【青森市水産振興センター 柳谷勝司所長】
「市では、漁業者の負担を少しでも軽減してホタテの産地が守られるよう、漁業者が負担する『ほたて特定養殖共済掛金』への支援や、生産資材購入費への支援など、漁業者への継続的な支援を図っています」
このほか、市税の減免や徴収の猶予といった生活支援も行うこととしています。
【青森市水産振興センター 柳谷勝司所長】
「今後も、ホタテの生産状況を随時把握しながら関係機関と協力して、漁業者が安心して継続的にホタテ養殖に取り組める環境を整えていければと思っています」
高水温の影響が尾引く陸奥湾のホタテ養殖。厳しい状況はまだ続きそうです。