『ミッシング』に刻まれた石原さとみの役者としての“覚悟” 希望と絶望の狭間で何を思う?

リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、石原さとみと同世代の宮川が『ミッシング』をプッシュします。

『ヒメアノ~ル』『犬猿』『愛しのアイリーン』『空白』『神は見返りを求める』など、近年コンスタントに映画を撮り続け、人間の暗部をえぐってきた𠮷田恵輔監督。約2年ぶりの新作となる『ミッシング』は、失踪した娘を探し続ける母親・沙織里とその周囲の人々を描いたリアリティ溢れる作品だ。

𠮷田恵輔監督の作品はどれも文句なしに面白いが、どの作品も観たあとになんとも言えない悶々とした気持ちにさせられる。そういう意味では、『ミッシング』はこれまでの𠮷田恵輔作品の中でも最もそれに当てはまる作品だ。

石原さとみ演じる主人公・沙織里は、娘が失踪してから3カ月経った今でも、懸命に探し続けている。いつか見つかるかもしれないという希望と、もう二度と帰ってこないかもしれないという絶望。その狭間で揺れ動きながらも、そのわずかな希望を頼りに日々を生きる沙織里。夫の豊(青木崇高)とはその温度差が徐々に生じていき、夫婦喧嘩に発展してしまう。唯一取材を続けてくれる地元テレビ局の記者・砂田(中村倫也)だけが頼りだが、ネット上での誹謗中傷や、娘の失踪に深く関わる弟・圭吾(森優作)の行動によって、次第に心を失っていく……。

そんな沙織里に説得力を持たせているのが、自身も母となった石原さとみ。7年前に「監督の作品に出たい」と𠮷田監督に直談判し、その3年後に与えられたのがこの『ミッシング』の脚本だったという。最初に脚本を読んだときは相当ショックを受けたようだが、芸歴20年を超える石原さとみにとっても、𠮷田恵輔監督の現場は今までに経験したことのないもので、全てが学びだったとインタビューで語ってくれた(※近日公開予定)。『ミッシング』には、そんな石原さとみの役者としての覚悟が刻まれている。

けっして気軽に観れるような作品ではないが、希望と絶望、人間の善意と悪意の紙一重さを改めて知る上でも、そして今の日本社会を考える上でも、『ミッシング』は重要な一作だ。

(文=宮川翔)

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