「箱根駅伝強豪」青学で挫折→岡山大歯学部に編入→陸上部を創部初“出雲駅伝”に 24歳・国立大で「ハイシャ復活」の物語

大学三大駅伝、すべて答えられますか?
「箱根駅伝」
「全日本大学駅伝」
「出雲駅伝」

…いずれも、全国的にも高いレベルにある大学しか出場権を獲得できない、選手たちにとってはあこがれの舞台です。このうちの1つ、10月に開催される出雲駅伝の予選会を突破し、史上初の出場を決めた「国立大学の陸上部」が岡山にあります。

創部75年で初 出雲駅伝への出場権を獲得…なぜ?

夢舞台への出場を叶えたのは、岡山大学陸上競技部です。去年、出雲駅伝の予選会となる中国四国学生駅伝で準優勝。創部75年の歴史の中で初めて出雲駅伝への出場権を勝ち取りました。

5000メートルの自己ベストを、1分半以上更新した選手もいます。彼らの躍進の理由は?そこにはあの駅伝強豪校から訪れたキーマンの存在と部員たちの心の変化がありました。

「おはようございます!」

部員数100人を超える、岡山大学陸上部です。長距離パートの選手は週に4回、岡山県総合グラウンドなどで練習をしています。

(石鍋颯一さん)
「腹斜筋を鍛えたいんでしっかり腹斜筋で上半身を上げる」

欠かすことのできないあるトレーニング方法があるといいます。

(石鍋颯一さん)
「青トレですね」「青学のときにやったものを取り入れて…」

今年の箱根駅伝で優勝をした強豪校・青山学院大学で行われている体幹トレーニング、通称「青トレ」です。指導しているのは、元・青山学院大学陸上部の石鍋颯一さん。青学を卒業後、岡山大学にやってきました。

乗り越えられなかった「青学陸上部」内での壁

(石鍋颯一さん)
「4年間着たユニフォームです」
「いい思い出もありますけど、悔いが残ったんで最後…」

中学・高校と陸上部で活躍し、駅伝を走りたいと青学の門を叩いた石鍋さん。しかし、全国のトップランナーが集まる中で、メンバー争いに苦しみました。

(石鍋颯一さん)
「試合とか練習とかみんなライバル」
「すごく激しい競争だった」

それでも、地道に練習を重ね5000メートルで14分8秒をマーク。青学では20番前後、中堅大学であれば箱根駅伝にも出られるレベルにまで成長しました。しかし、ラストチャンスとなる4年生の夏、アキレス腱を痛め、走ることができなくなりました。

(石鍋颯一さん)
「もちろん時間をかければ治るぐらいのけがではあったんですけど、4年目なんで時間がない。悩んでマネージャーになった」
「走ることを期待して、周囲は青学に送り出してくれていたんで」
「卒業前に走るのをやめる気後れがあった」

この冬、青学は箱根駅伝で優勝。しかし歓喜の瞬間、石鍋さんはマネージャーとして迎えました。

卒業後は歯科医である父親の後を継ぐため岡山大学歯学部へ。もう、走るつもりはありませんでした。

悩んでいた岡山大学陸上部 タイム上がらず「何のためにやっているんだろう」

一方、岡大の陸上部はある課題を抱えていました。

(長距離パート 福永伸之介リーダー)
「毎週グラウンド使用料として払っているお金も自分で稼がないといけないので」「アルバイト4つやってます」

週4回の部活に、勉強やアルバイト。互いに自主練習の内容を共有するなど励ましあいながら取り組んできましたが、なかなかタイムは伸びませんでした。

そこに追い打ちをかけたのは新型コロナ。思うように部活動ができなくなり、2020年の出雲駅伝の予選会では1位のチームに10分以上の差をつけられ惨敗でした。

(岡山大学大学院2年 旭隼佑さん)
「何のために練習をしているんだろう」
「何のためにやっているんだろうって」

その岡山大学に、青学で挫折した石鍋さんが現れた

チーム全体のモチベーションが下がる中、岡大の陸上部員の頭に浮かんだのが石鍋さんの存在でした。

(石鍋颯一さん)
「1回見学だけでもどうですかって連絡をくれて」
「正直陸上はもういいかなって思っていたんですけど、見てみると結構みんないい走りをしているのにタイムが出ていない」
「もうちょっと練習したら強くなるんじゃないかな」
「ここでやってみたいなと思った」

青学での経験を活かせるかもしれない。そして、自分ももう一度駅伝に挑戦したい。。。石鍋さんは陸上部に入部、選手として再び走り始めました。

「青トレ」と出会った岡山大学 そして練習の質が変わった

まず着手したのが「練習メニューの見直し」です。青学時代に教わった「青トレ」を取り入れ、走る量も増やす一方で、最も大切にしたのはただ「頑張る」のではなく、練習の意図を理解した上で取り組むこと。

(石鍋颯一さん)
「レースで余裕を持てるように、フォームをコントロールしながら1000メートルを走る」

そのうえで、例えば、1キロを速いペースで4本走るのか。それとも、少し遅いペースで5本走るのか。個々の目的に応じた練習メニューを設定するようにしたのです。

(部員)
「1キロのペースを2分55秒にしたら速いですかね」

(石鍋颯一さん)
「出場は1万メートルだもんね」
「去年は旭くんは1キロ3分3秒くらいでやっているんよ」
「だから1キロ3分で」

(岡山大学大学院2年 旭隼佑さん)
「今まではずっと月曜はこの練習、水曜日はこの練習みたいな感じで繰り返しだった」
「今は精神面でも内容面でも質が高くなった」

「勉強の方がかなりおろそかに…」
「そんなことない!」
「合間もずっと勉強してる」

そして創部75年で初の出雲駅伝へ

勉強やアルバイトと両立させながら多くの選手が自己ベストを大幅に更新。去年11月の出雲駅伝の予選会を突破したのです。

(岡山大学大学院2年 旭隼佑さん)
「あの光景はいまでもフラッシュバックするくらい」

「夢なのか現実なのか…」

「人生で最高に嬉しかった瞬間ですね」

(石鍋颯一さん)
「1回完全に途絶えた夢だった」
「時間かけて夢が叶った」
「ハイシャ復活だねって言われました」

「歯医者」と「敗者」。やっと叶えた夢舞台、出場するだけでは終わらせたくない。岡山大学のプライドをかけ走り続けています。

(スタジオ)
ー岡大は更なる強化に取り組むため、クラウドファンディングを行っているそうです。部員はそれぞれアルバイトで頑張っていますが、遠征費や合宿の費用にあてる資金繰りはかなり厳しいそうです。

クラウドファンディングは来月(6月)17日まで受け付けているということです。

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