【社説】シンガポール首相 中立的外交で地域貢献を

分断と対立を深める世界で中立的な立場を堅持し、アジアの平和と安定に積極的な貢献をしてほしい。

アジア屈指の経済国シンガポールを20年にわたって率いたリー・シェンロン首相(72)が退任し、4代目首相にローレンス・ウォン前副首相兼財務相(51)が就任した。

シンガポールは1965年にマレーシアから分離独立した。建国から90年まで首相を務めた故リー・クアンユー氏(シェンロン氏の父)が敷いた成長と秩序を優先する強権体制下で発展を遂げた。

人口約600万人で面積が東京23区ほどの小国ながら、2022年の国民1人当たりの国内総生産(GDP)は約8万3千ドル(約1300万円)に上る。日本の2倍を優に超え、アジアで首位だ。

東南アジアの金融や貿易の中心国へ成長したが、近年は逆風下にある。

その一因は米中対立だ。報復の連鎖による関税引き上げと輸出入制限措置が、世界貿易の減少や物流コストの上昇を招き、貿易立国に大打撃となっている。中国の経済減速の影響も受ける。

経済が成熟し、成長も鈍化傾向だ。00年代の平均成長率が5・9%だったのに対し、23年は1・1%にとどまる。

国家の成長期は少子高齢化で曲がり角を迎えた。国民は物価高にも苦しんでいる。元官僚で経済政策通として知られるウォン新首相の手腕が早速試される。

国内では、一党支配を続ける与党人民行動党(PAP)の権威主義的な姿勢への反発とともに、民主化拡大を願う世論の圧力が強まっている。

PAPは与党に有利な選挙制度を取り入れている。それでも20年の総選挙の得票率は約61%で、前回15年から8ポイント以上落ち込んだ。内政の改革に力を入れる必要があろう。

日本とは経済的な結びつきが強く、02年に経済連携協定(EPA)を締結している。ともに環太平洋連携協定(TPP)の加盟国である。

新首相には自由貿易の推進に向けたリーダーシップを発揮してもらいたい。

インド太平洋地域の経済繁栄と平和を目指し、日本が提唱した「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」でも有力なパートナーである。

シンガポールは太平洋とインド洋を結ぶ海上交通の要衝マラッカ海峡に面し、貿易だけでなく、安全保障面でも関係の重要性が高まる。

国民の7割は中華系で中国とのつながりが深いが、東・南シナ海で中国が試みる力による現状変更には反対している。安全保障面では米国とも協力関係にある。

ウォン氏は外交経験に乏しく、上級相として閣内にとどまるリー・シェンロン氏の協力が必要になるとみられる。

これまで米中のいずれにも肩入れしない外交で国際社会の信頼を得てきた。東南アジア結束の核として、安定した外交の継続を求めたい。

© 株式会社西日本新聞社