【社説】選挙演説の妨害事件 民主主義の基盤どう守る

 選挙中の候補者たちや支持者の行動が別の陣営に露骨に妨害され、大迷惑を被る。4月の衆院東京15区補選で起きた想定外の事態を巡り、警視庁の強制捜査が急展開した。

 容疑は公選法違反(自由妨害)である。補選に候補者を立て、最下位に終わった政治団体「つばさの党」の関係先を家宅捜索したのに続いて、きのう団体の代表や落選した幹事長ら3人を逮捕した。

 自由妨害容疑の逮捕は戦後の国政選挙でも異例であり、警視庁はめったに置かない特別捜査本部で臨む。確かに、選挙の街頭活動のありように関わる重大な問題である。

 一連の捜査は妥当だろう。複数の陣営から被害届が出ていたが、直接の容疑は告示日に小池百合子東京都知事も参加した無所属候補の街頭演説を、共謀して大音量で妨害したことだ。電話ボックスに登って拡声器で大声を上げるなど、異常としか思えない行為だった。さらに警視庁は他陣営の選挙カーを車で追いかけ、大声を上げるなどした行為についても自由妨害容疑で立件を検討するようだ。

 選挙活動が邪魔された陣営はもちろん、話を聞きたいと集まった有権者も被害者と言えよう。この政治団体の側は家宅捜索後も表現の自由を盾に、妨害ではないと主張していたが、政治参加の権利まで侵害し、公正な選挙を揺るがす悪質な行為だと言わざるを得ない。さらに自分たちの過激な行為を動画投稿サイトで堂々と配信していた。

 社会通念上の非難は当然としても4年以下の懲役・禁錮か、100万円以下の罰金を科す自由妨害罪に当たるかどうかは、厳密に考えるべきだろう。最高裁の判例では演説などへの妨害について「聴衆が聴き取ることを不可能または困難ならしめる所為」と定義しているが、違法の線引きは実のところ難しい。その場その場の恣意(しい)的な解釈などは当然、許されない。

 そもそも選挙活動への公権力の介入は極力控えるべきである。今回の事態でも警視庁の姿勢は慎重であり、選挙期間中は警告にとどめた。ただ6月20日に都知事選が告示され、同じ団体はまた候補者を立て、似たような行動をすると予想されていた。それを封じる政治的思惑で身柄を拘束したと言われないためにも、冷静かつ客観的な公選法違反の立証が求められよう。

 少なくとも、この事件を先例に今後の選挙活動、聴衆の行動の萎縮や制限につながることがあってはならない。

 例えば演説へのやじは今回の妨害とは別物である。2019年の参院選では札幌市での街頭演説で当時の安倍晋三首相にやじを飛ばし、警察に排除された女性に関しては札幌地裁、高裁の判決が表現の自由の侵害と認めている。

 補選を通じて業を煮やした与野党の一部からは、規制や罰則の強化などの法改正を求める声がある。現行法でも対応できるのではないか。民主主義の基盤である選挙の自由、有権者の権利を守ることを大前提に考えれば、決して拙速かつ安易に進めていい話ではない。

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