中川晃教が「無意識ながら多大な影響を受けている」大物歌手、“歌は語るように、セリフは歌うように”を体現する存在

中川晃教 撮影/三浦龍司

中川晃教は2001年、自身が作詞作曲をした「I WILL GET YOUR KISS」でシンガーソングライターとしてデビューし、同年の日本有線大賞では新人賞を獲得した。また’02年に『モーツァルト!』でミュージカルに初主演すると、文化庁芸術祭賞・演劇部門新人賞や読売演劇大賞・優秀男優賞など様々な賞で受賞を重ね、その後も数々のミュージカル作品に出演し、トップランナーとなった。彼にとって、その生き方が影響を与えることとなった変化「THE CHANGE」とは、いったいなんだったのだろうか。【第1回/全5回】

舞台の上で華々しく歌い、演じ、踊る迫力満点の様子とは違い、飾らず自然体のままインタビューに応えてくれた中川さん。その眼差しは常にまっすぐ相手を見つめ、時に熱い情熱の光をやどしている。

これまで中川さんは数々のミュージカルに出演し、それぞれの作品で高い評価を受けてきた。’02年、日本初演となるミュージカル『モーツァルト!』の主役に抜擢されると、そのパフォーマンスは高く評価され、一躍その名を世に知らしめることとなった。

その後も’04年には劇団☆新感線による初の本格的ロックミュージカル『SHIROH』、’07年には日本版として初舞台化されたロックオペラ『Tommy』など、数々の話題作に出演。今では日本の舞台になくてはならない存在となっている。

そんな中川さんがミュージカルデビューを果たしてから15年の歳月を経て挑んだ作品が『ジャージー・ボーイズ』だ。 1960年代に活躍したコーラスグループ「フォー・シーズンズ」の成功と苦難を描いた本作で、中川さんは主役となるフランキー・ヴァリ役を務めた。

「僕が演じたフランキー・ヴァリは“天使の歌声”といわれるほどの美声を持つ伝説的なミュージシャンです。実をいうと、この役を通して往年のヒット曲を歌うことは、自分自身の中にある“ミュージカル以外の歌手としての感覚”をもう一度呼び起こすきっかけとなってくれました。

というのも、この作品に出会うまでミュージカル以外で歌うことが減ってきてしまっていて、その感覚を忘れてしまいそうな自分がいたんです。それだけ自分の重心がほとんどミュージカルにあったということなんですが」

シンガーソングライター、俳優の両方で活躍してきて良かったこと

もともと中川さんはシンガーソングライターとしてデビューし、ミュージシャンとして活動していた。しかしデビューの翌年に出演した『モーツァルト!』での活躍により、ミュージカルへのオファーが次から次へと舞い込んだのだ。中川さんは続ける。

「ですからこの『ジャージー・ボーイズ』に出合って、“ミュージカルをやってきて良かった”と思ったのと同時に“音楽もやってきて良かった”と心の底から思いました。どちらもやってきたからこそこの作品に出会えたわけですし、おかげさまで素敵な賞までいただくこともできました」

この作品で中川さんは、第24回読売演劇大賞・最優秀男優賞、並びに第42回菊田一夫演劇賞・演劇賞を受賞するという快挙を成し遂げた。さらに今作は熱狂的な人気を獲得し、3度に渡って再演されるなど、中川さんにとって近年の代表作となっている。

そんな中川さんにとって、音楽家としての影響を与えたミュージシャンについて聞いてみると、ある大物歌手の名前があがった。

「美空ひばりさんの楽曲には無意識ながら多大な影響を受けていると思いますね。物心ついたころには母親の影響で聞いていましたので。ひばりさんは涙をこぼしながらも声を詰まらせずに歌えるんですが、初めて観た時にはとてもビックリしました。

あれって歌の中にお芝居の要素がしっかりと入っているということだと思うんですよね。“歌は語るように、セリフは歌うように”という言葉がありますが、ひばりさんはまさにそれを体現されているんだと思います」

中川さんの圧倒的な歌唱力、そして“歌”と“お芝居”を見事に融合させる技術の高さには、昭和を代表する伝説的な歌手からの影響があるようだ。

「音楽でここまで来ることができたのかな」

シンガーソングライターとして、またミュージカル俳優として、長年にわたり第一線で活躍してきた中川さんは、今後に向けてどのような目標を持っているのだろうか。

中川晃教 撮影/三浦龍司

「原点回帰じゃないですけれども、やっぱり僕は音楽でここまで来ることができたのかなと思っているので、これからは音楽活動にも力を入れていきたいんですよね。

じつは『ジャージー・ボーイズ』で共演したメンバーと、JBBというコーラスグループを結成して、昨年デビューさせていただいたんです。今年も全国ツアーをやらせていただくことになっていますので、是非こちらの活動にも力をいれていきたいですね」

ミュージカルの世界を駆け抜けてきた中川さんがたどり着いた“音楽への回帰”、そしてそれを象徴するJBBの活動は、中川さんにとって新しいステージへ進むための変化「THE CHANGE」となっていくことだろう。

なかがわ・あきのり
1982年11月5日生まれ、宮城県仙台市出身。’01年「I WILL GET YOUR KISS」でシンガーソングライターとしてデビューすると、同年の日本有線大賞で新人賞を獲得。また’02年に『モーツァルト!』でミュージカルに初主演すると大反響を呼び、以後はミュージカルを中心に様々な舞台で活躍。7月15日に開催される公演『ミュージカルは最強です!2024』では、昨年に引き続きコントにも挑戦する。

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