【5月18日付編集日記】脇役でも

 突然、パソコンや携帯電話が固まり、保存していたデータが消えてしまう苦い経験をお持ちの方は少なくないだろう。バックアップを取っておけばよかったと悔やんでも後の祭りだ。アルバムやメモなどが残っていれば、救われた気がする

 ▼ひとたび災害が起きると多くの貴重なデータが失われかねない。行政機関などでは、インターネットを通じ外部に保存するクラウドの導入が進むが、個人や中小企業の対策は遅れている

 ▼奈良・平安時代に集落があった、福島市の西久保遺跡から出土した木簡の実物を見た。「鎮兵(ちんぺい)」の文字が素人目にもうっすらと確認できた。蝦夷(えみし)討伐で派遣された朝廷側の兵士の死亡が多いことに関し、遺跡周辺の地域の対応に落ち度はない旨を伝えたものとされている

 ▼遺跡からは地元の有力者を表す「郡司」の文字が書かれた木簡も見つかっている。郡境を出入りする国司などをもてなす場に、信夫郡(現福島市)の郡司が来られないことを伝える内容だったとみられる。小さな木片がかつての人々の営みを雄弁に語りかける

 ▼デジタル技術なしに成り立たない社会は危うさものぞかせる。時を超えた邂逅(かいこう)に、脇役でも存在感を放つアナログの未来を思い描く。

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