ニコンF2フォトミック[ニコンの系譜] Vol.15

フォトミック形式の継承

ニコンF2になっても連動露出計を交換ファインダーに組み込むフォトミック形式は継承された。ニコンFのときには露出計のないアイレベルモデルが最初にあって、それに連動露出計をフォトミックの形で追加したのだったが、ニコンF2が出た1971年にはすでに連動露出計の内蔵は当たり前で、時代はエレクトロニクスの本格的な導入によってTTL-AEへと向かおうとしていた。従って最初からフォトミック付きのモデルがメインの機種として計画され、それから露出計を外したモデルとしてニコンF2アイレベルが出された形となった。ちょっとニュアンスは違うが、ニコマートFTとニコマートFSのような関係である。

その結果、雑誌広告やカタログなどセールスの道具もフォトミックのモデルが中心になっていた。

電池ケースの移動とレバースイッチ

ニコンF2のフォトミックファインダーの開発にあたって、最も大きな目標は小型化だった。ニコンフォトミックFTnで大幅な小型化を果たしたとはいえ、交換ファインダーとしてはまだまだバルキーで、全体としては頭でっかちの姿になってしまう。世間一般のTTL露出計内蔵の一眼レフと同等に扱ってもらうには、なお一層のコンパクト化が必要であった。

まず目を付けたのは露出計用の電池を収納する電池室である。ニコンFのフォトミックシリーズではフォトミックファインダーにH-D(MR9)タイプの水銀電池2個を収納していたが、これをボディ側に移し、接点を介してフォトミックファインダーに電源を供給するようにした。それに伴って電源スイッチもニコマートと同様にフィルム巻き上げレバーの準備角でオンオフする「レバースイッチ」に改められた。同時に水銀電池から、より電圧が高く低温特性のよい酸化銀電池G13(SR44)に変更した。酸化銀電池の採用は業界でも早い方だったが、その後水銀電池が公害問題のため使われなくなったことを考えると、先見の明があったといえる。

電池ケースはボディ底部に移され、使用電池は酸化銀電池に変更された

なお、四節リンクを用いた巧妙な連動機構はニコンフォトミックFTnのものを踏襲している。

ネームプレートの省略

小型化のためのもう一つの方策は、ネームプレートの省略である。ニコンフォトミックFTnではフォトミックファインダーを確実に固定するために、ボディ側にあるネームプレート(銘板)をフォトミック側の大型レバーで左右から抱えるような構造としたが、ニコンF2ではボディ側のネームプレートを取り去り、代わりにファインダー部固定用の2個のピンがネームプレートのあった場所に設けられている。フォトミックファインダー側にはこのピンを抱え込むようなレバーがあって、ファインダー側のシャッターダイヤル前方にある招き猫型のレバーで操作してロックを解除するのだ。ボディからネームプレートを取り去った代わりに、フォトミック以外のアイレベルファインダーやアクションファインダーなどの交換ファインダーには、新たにネームプレートが設けられた。要するにフォトミックファインダーのロックがネームプレートから小さなピンに変わったことで、その厚み分だけファインダーの前面を後退させて小型化することができたのだ。

ボディからはネームプレートが取り去られ、代わりにフォトミックファインダー固定用のピンが2個前面に設けられている。なお、ミラーボックス上面の左右に見えるのは、フォトミックファインダーに電源を供給するための接点
フォトミックファインダーを装着するとフォトミックファインダー固定用ピン(一つ上の写真)を、ファインダー側から出ている2個のレバーで左右から抱え込むようにして固定する。中央付近には絞り連動用のレバーが見える

なお、ボディ背面接眼部左横の着脱ピンで操作するロック機構もそのまま残っているので、フォトミックファインダーを取り外すにはこのボタンを押しながら側面の招き猫型レバーを操作することになる。ちょっと複雑な操作に感じられるが、慣れればそう面倒なものでもない。

興味深いのは、接眼部左横の着脱ピンの機構や寸法がニコンFのものと全く同じになっていることだ。そのためフォトミック以外のアイレベルファインダーとかアクションファインダーはニコンF用のものがニコンF2にも装着できるのだ。ただ、その組み合わせではファインダー側にもボディ側にもネームプレートがないので、前から見えるのは2個の固定用ピンのみでのっぺらぼうの異様な感じになってしまう。わざとその組み合わせにして面白がっているニコンユーザーもいるのだ。

ニコンF2のボディにはシルバーとブラックがあるが、フォトミックファインダーはブラックのみでシルバー仕上げのものはない。

アクセサリーシューとレディライト

ニコンFのときもそうだが、ニコンF2にも標準規格のアクセサリーシューは備えていない。もともとアクセサリーシューはレンジファインダーカメラで交換レンズ用の外付けファインダーを装着するためのものだから一眼レフには不要ということで、ニコン以外にも設けられていない機種が多かった。後年外付けファインダーの代わりにクリップオンタイプのフラッシュガンやストロボを装着する機会が多くなり、それに対応して一眼レフでもペンタの稜線部分にアクセサリーシューを設けた機種が登場し、ホットシューへと発展したという経緯がある。

ニコンFもF2も当初はデザイン的な要素もあって標準規格のアクセサリーシューを省略したのだが、代わりにフィルム巻き戻しノブのところに独自規格のアクセサリーシューを設け、フラッシュガンやミラーアップして使う交換レンズのファインダーを装着していた。シューの位置として巻き戻しノブのところを選択したのは、ペンタ部だとファインダー着脱のロック機構の強度の問題もあったのだろう。この独自規格のアクセサリーシューには最初からフラッシュ用の直結接点が備わっていて専用のフラッシュガンやストロボとコードレスで接続できたが、ニコンF2からはこれにレディライトのファインダー内表示用のメカが加わった。

正確にはアクセサリーシューにではなく、この独自規格のアクセサリーシューに装着された専用のストロボと交換ファインダー部の連携プレイだ。ニコンF2用のアイレベルファインダーやフォトミックファインダーには接眼部のすぐ上にレディライト用のネオンランプが設けられており、このネオンランプの接点ピンがファインダー左側面に突出しているのだ。一方で専用のストロボ(スピードライト)、例えばSB-2はF2のシューに装着する際にその脚の周囲にあるロックリングを回して固定するようになっており、そのときにレディライトの接点が飛び出してきてファインダー側の接点に接続する。こうしてレディライトのオンオフがファインダーを覗く目で視認できるようになっているのだ。

巻き戻しノブのところには独自規格のアクセサリーシューが設けられている。フォトミックファインダーの左側面に突き出たピンはストロボのレディライト用の接点で、専用のストロボを装着すると、ロックしたときにストロボの脚部から突き出してくる接点と接続されて、レディライトの点灯情報を接眼レンズの上に設けられたネオンランプに伝える

豊田堅二|プロフィール
1947年東京生まれ。30年余(株)ニコンに勤務し一眼レフの設計や電子画像関連の業務に従事した。その後日本大学芸術学部写真学科の非常勤講師として2021年まで教壇に立つ。現在の役職は日本写真学会 フェロー・監事、日本オプトメカトロニクス協会 協力委員、日本カメラ博物館「日本の歴史的カメラ」審査員。著書は「とよけん先生のカメラメカニズム講座(日本カメラ社)」、「ニコンファミリーの従姉妹たち(朝日ソノラマ)」など多数。

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