佐藤琢磨、15回目のインディ500は雨に翻弄。「40%くらいしか走れていない」なか予選上位目指す

 第108回インディアナポリス500マイルレースのプラクティスは、これまでの四日間のうちほとんどを天候に翻弄されている。初日は朝のプラクティス開始から30分に満たないうちに雨で終わったかと思えば、二日目は2時間前倒しして始まっても途中で雨の中断が多く、雨予報のなかった三日目の木曜日でさえ、プラクティスの最後の時間を雨で遮られた。

■予選セッティングに専念も、無情の雨が続く

 レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング(RLL)から今年15回目のインディ500出場の佐藤琢磨も、その影響をもっとも受けたドライバーだと言えるかもしれない。

「今まで15年間で一番雨の影響を受けて走れなかったと思います。いつもの40%くらい?しか走れていないかも。しかも、4月にあったオープンテストも二日間あるのに15周ちょっとくらいしか走れなかった。ずっと雨の影響を受けてます」と琢磨は嘆く。

 スポット出場となるドライバーにとっては1周でも多く周回したいものだが、その期待はことごとく裏切られている。ましてや4月のオープンテストは、チームとして4台目のエントリーで、新しいクルーがどのように機能するか試さなくてはいけないのに、そのチャンスもなかった。

 プラクティス初日はわずかな時間だったがノートウではトップタイムとなり、全体でも3番手で終えた。しかし二日目は31周計測して17番手。快晴となった木曜日の三日目も、51周して23番手にとどまった。

記者会見の琢磨とボビー・レイホール

 全体的に琢磨の周回数が少ないのには理由があった。昨年RLLのチームはプラクティスの間迷走が続き、あろうことかエースのグラハム・レイホールがバンプアウト(予選落ち)するという憂き目にあった。あの悪夢は2度と見てはならない。RLLはそのためにあえて琢磨をチームに呼び戻したと言っても過言ではないだろう。そこには22年のデイル・コイン・レーシングや、昨年のチップ・ガナッシ・レーシングで経験したエッセンスが入ることも当然期待されている。

 琢磨はRLLの全体のスピード上げるために、予選のセッティングに専念することになった。プラクティス初日の3番手も、それが理由だったと言えるし、前の車の風の影響を受けないように、コースが空く瞬間を待っているから自ずと周回数も少なくなった。

「ここ数年は前からスタートしているクルマが優勝しているし、前からスタートしても集団のなかだとなかなか抜けない。だから予選で前のポジションを確保して、決勝で抜けるクルマにしたいんです」と琢磨。

「予選で速いクルマになれば、決勝に向けての方向性が見えてくる。でも予選ポジションが悪いクルマで決勝で上位に行くのは、今はほとんど無理。決勝のセッティングはグラハム・レイホールと他のチームメイトに任せて、僕が予選セッティングに専念します」

 だが気まぐれなインデイアナの空が、琢磨とRLLを揺さぶる事になる。

タイムアタック中の琢磨

■プラクティス後半でのさらなる逆境で見せた底力

 プラクティス三日目の早いうちに予選セッティング重視のプログラムを切り上げ、後半には決勝のセッティングでコースに戻る予定だったが、この日はリヌス・ルンドクヴィスト(チップ・ガナッシ・レーシング)とマーカス・エリクソン(アンドレッティ・グローバル)がウォールにヒットしたことで、コースは長い時間イエローで封鎖された。

 ようやく琢磨が決勝の仕様でコースに戻ろうとすると、今度は雨がパラパラ。コースはまたもやイエローで閉じられてしまった。琢磨はなんと、決勝のセッティングをほとんど試すことなくファストフライデイを迎えてしまったのだった。

 ファストフライデイはブーストも上がり、翌日の予選に向けてのシミュレーションとなる。そのため、ここで決勝のセッティングを試す時間はない。

 その金曜日さえ雨の予報もあったが、セッションは予定通り12時から始まった。だが琢磨の75号車は準備が遅れ、なかなかピットに姿を現さない。2時間近くかかってようやくコースに出る体制になったが、コースインした琢磨はすぐにペースを落としてピットへと戻ってきた。

 気にかかる点に修正を加えて再度コースに出たものの、琢磨は「何かおかしい」と訴えてマシンを降りた。ガレージに戻って確認すると、エアロパーツに問題があったようで、琢磨がマシンの不具合を訴えるのは当然のことだった。

 ようやく琢磨が本格的に走れるようになったのはプラクティスのセッションが残り3時間を切った頃だったろうか。琢磨は渾身のラップでベストタイム233.679マイルを叩き出してトップ10に食い込んで見せた。

タイムアタック中の琢磨

 予選のセッティングに専念はしていたが、ここまでタイムを出すのに時間がかかるというのは想定外だった。それでもチーム内のベストはもちろん、トップ10にも食い込み、ホンダ勢で3番手になったのは、インディ500マイスターの真骨頂だったと言えるだろう。そして総体的にシボレー勢の健闘が目立つ。

「今年のシボレー勢は速いですね。今日は予選のシミュレーションを何本もやるつもりだったんですが、いきなりマシンがおかしかったし、シミュレーションの最後の4周まできっちり走れていないんです」

「今のセッティングだと最後の4周目にタイヤが終わってしまうし、ダウンフォースを付けないといけないけど、付けたら全体のスピードも落ちるので、そこはデータを見ながらエンジニアのエディ(・ジョーンズ)と考えます。あとはドロー(抽選)でなんとか前の順番を引ければいいんだけど…。」

 その心配とは裏腹に、ドローで琢磨の予選アテンプト順は26番手となった。早い順番の方が良いとされているアテンプト順として、決して良い順番とは言えない。

 天候も運も、すべてインディ500の神様の手の内にある。条件はどのチーム、ドライバーにも平等だ。スポット参戦の琢磨はここまでやや苦戦気味だが、果たして予選でどんなパフォーマンスを見せてくれるのか。逆境で見せるインディ500ウイナーの意地を期待したい。

最後はタイムを出して一安心の琢磨

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