青木真也「お前ら勘違いするな」 『格闘代理戦争』で光浴びた選手たちに一喝「わきまえろ」

“プロの仕事”について語った青木真也【写真:ENCOUNT編集部】

3か月で見えた“プロ”の始まりと終わり「自分が創っているものが大事で好き」

ABEMAのドキュメンタリー番組『格闘代理戦争-THE MAX-』の決勝が17日、行われた。第3試合に行われたスペシャルマッチでは「TEAM青木真也」の中谷優我が「TEAM桜井“マッハ”速人」の中川海に3R、残り10秒で一本勝ちを収めた。青木が番組を通じて見せてきた“プロの仕事”とは何か。大会後に話を聞いた。(取材・文=島田将斗)

青木に格闘技に「向いていない」と言われ続けてきた中谷は本来なら準決勝で姿を消すはずだったが、視聴者の声からスペシャルマッチで戻ってきた。3R、残り10秒にアナコンダチョークでタップアウトを奪った場面には歓声が上がっていた。

予定調和ならば試合後、師匠と弟子の感動的なシーンがあったかもしれない。しかし、青木は“プロ”として自分と同じものを求めていくと番組開始前から言っていた。試合後、安堵していた中谷に突き付けたのは「やっぱり向いていない」。それが格闘家から見た現実だった。

「内容がひどいですよね。やっぱりダメなんだなってものが凝縮されてた。あれだけ差があって取れないんだもん。1Rでも2Rでもフィニッシュできた。3Rももっと早くフィニッシュできた。それがムカついてなんとか最後でしょ。本当に向いていない。心の底から向いてない。普通のやつだったらすぐにいく。それぐらい明確に差をつけられないのはしょうがないですよね。彼は俺を揺さぶれなかったですね。僕の感情を何かかきたてることはなかったですね」

これまで同番組に2度監督として出演してきただけに熱量が違っていた。監督・弟子という関係性上、中谷にだけ“プロ”であることを求めているように見えたかもしれない。それゆえに他の監督や選手の「他人事感」にモヤモヤ。実際に3月に行われた初戦後の囲み取材では他のチームへ向けて「お前ら真面目にやれ」と不快感をあらわにしていた。

「でもそのなかでも俺は自分事になってこの3か月仕事をした。自分は一生懸命にやった」

当然、参戦選手たちも求めるプロ水準に達していない。その上で、それぞれの道へ進む若者たちへこう釘を刺した。

「勘違いするなよって。格闘技で何かを成り立たせるんだったらお前らここにいないよって。だからこそ目の前にあることを一生懸命やるんだよ。勘違いするなよ。わきまえろって。勝ち負けもある。強い弱いもある。それとは別に格闘技って格があるんだ。格闘技は格を闘わせるものなんだ。まだお前らは作ってもらっているだけで勘違いするなよって」

北岡悟を見て改めて考えた「死に方」

1月末のONEが終わり、『格闘代理戦争-THE MAX-』も終わった。今後については「ここからはしっかりと仕舞えるように。筋が通った畳み方をしたい」とゆっくりとうなずく。

5月で41歳になった。同世代の格闘家たちも同じように「最後」を模索する。そのなかで引っかかってしまうことがある。44歳、プロとして80戦以上戦ってきている北岡悟の「格闘技より彼女の方が大事」という発言だ。

「北岡がやめようとしてる。結局、つまり女なんでしょって。そんなもんなんだって俺は思う。多くの人は『彼からしたらそれだけ大事なものに出会ったんだよ』って言わなきゃいけない。でも、俺はそう思わない」

「正直、北岡はフェイクだ」――。これは近年、よく見るトラッシュトークのそれではない。決して悪口ではなく思わず「ヨカタじゃねぇんだよ」が漏れる。

「北岡はここまでやってて、そっちに引っくりかえるんだって。俺は正直、そういう死に方をしたくない。格闘技よりも大事なものができたと俺は思わない。俺は結婚してた、子どもがいた。でもそれよりも自分が大事。何よりも自分が創っているものが大事で好き」

『格闘代理戦争』で説いてきたプロとは何か。ここまで自分を愛し何よりも優先し貫くことができるか。「どうすればそうなれる?」と思ったならば「向いてない」。「要はルールが違うんです」とけろり。それでも近くで見てきたからこそ、声色はショックを隠しきれていなかった。島田将斗

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