松山英樹の急浮上は「さすがのゴルフ力」 荒れたショットで『65』、首位追い上げ態勢は整った【植村啓太の目】

やっぱり来たぞ、松山英樹(撮影:GettyImages)

<全米プロゴルフ選手権 2日目◇17日◇バルハラGC(ケンタッキー州)◇7609ヤード・パー71>

今年の海外メジャー第2戦は2日目の競技が行われ、日没による順延となった。早朝に起きた悲しい交通事故や、コース進入時に警察とのやりとりで誤解が生じ、スコッティ・シェフラー(米国)が逮捕されるという想定外の出来事から始まった第2ラウンド。2日目の戦いを、大会を中継するBS松竹東急(全国無料放送・BS260ch)で解説を務めたツアープロコーチの植村啓太に聞いた。

■松山英樹の総合力が光った

ホールアウト後に関係者から明かされたのが、松山英樹の体調不良だった。熱があったという中で、圧巻の「65」。要所でバーディを積み重ねていたが、そのプレーの内容はどんなものだったのか。「アプローチのうまさときょうはパッティングも良かった。ショットもいくつかはいいものがあって、そのチャンスを決めています。ただし…ちょっと危ないと言えば危ないんですが、そこはさすがのゴルフ力の強さという感じでした」。

出だしからショットが右へ右へと流れていった。それでもボギーを叩くことなくプレーを進める。奪ったバーディは7つ(ボギーは後半の1つのみ)。「ショットはあした、あさってでしっかりと戻してくると思いますし、本来のショットが戻って、きょうのようなパッティングが続けば、さらにビッグスコアも出ると思います。間違いなく優勝争いをしてくると思っています」と太鼓判を押す。

今年は春先からチップ・インが目立つ松山。グリーン周りの技により磨きがかかっている印象だが、この日もピンチをチャンスに変える場面が訪れた。4つのバーディを奪って迎えた12番パー4。フェアウェイから残り160ヤードの2打目が大きくショートし、左のラフにつかまった。ところが、そこからが真骨頂。「ライの状態は見えませんでしたが、半分ボギーと覚悟するようなところからバーディに変える。あのアプローチはPGAツアーの中でもトップクラス。今のスコアを支えています」と絶賛のチップイン・バーディとなった。首位とは5打差で残り36ホール。間違いなく争いの中心に入ってきそうだ。

日本勢ではもう一人、久常涼が予選通過。第2ラウンドは4バーディ・1ボギーで3つ伸ばし、トータル3アンダー・暫定41位タイでメジャー初の決勝進出を決めた。「久常選手は隙がないプレーヤーで、ぜんぶうまい印象です。アイアンもうまいし、アプローチもパターも欠点がないゴルファー。PGAツアーの中に入ると飛ぶほうではないと思いますが、そういうところでもがいている部分があると思います。それでも経験を積んでいて、今回メジャーで予選を通ったことで自信にもなると思う。今後、変わってくると思います」。4月の「マスターズ」では予選落ちを喫したが、その悔しさを結果に変えられるか注目だ。

■シェフラーにあっぱれ “逮捕劇”後の「66」

現地時間の朝、スタート直前に飛び込んだ衝撃のニュース。「あり得ないですよ、こんなことは。聞いたことがない。メジャーの2日目の朝に逮捕なんて、考えられないし、今後もないでしょう」。シェフラーの逮捕については植村氏も驚きすぎて言葉もない。「逮捕されて震えながらコースに戻ったと言っていましたが、あの状態からコースに行ってプレーするのは通常のメンタルではない。普通だったらゴルフにならないと思いますけど、それがいきなりバーディスタートで、終わってみれば66。本当にメンタルが強いですね」。

早朝、コースエントランスへのアプローチにおいて、警察官とのやりとりの中で誤解があったとということで一時は拘束されたが、すぐに釈放。とはいえ、そんな状態でこんなプレーができるのがあまりにも“スゴすぎる”。それも世界1位を守り続ける、ショット力のうまさがあるからだと言う。

「シェフラーの強さは、ショットに関してはクラブを自在にコントロールできるというか、思い通りに動かせているところです。皆さん右足の動きのことに触れますが、足は流れようが引こうが、クラブがいい動きをすればボールはしっかり飛ぶんです。クラブの動きが本当にすばらしい」とコーチ目線で見れば、クラブ軌道が完ぺきなのが最大の特徴だ。

「ドローもフェードも打ち分けられますし、自分の体の一部のような感じでクラブを動かせているのではないでしょうか。アプローチもいいですし、ここ最近はパターを替えて良くなって、それもうまくハマったんですね。シェフラーはぜんぶが超一流。メンタルも強い(笑)。それがきょう証明されましたね」。3月以降は5戦4勝と敵なし。アクシデントを乗り越えて、マスターズからのメジャー連勝も、高確率でありそうだ。

■タイガー・ウッズは苦戦…植村氏はそのプレーをどう見る?

いまの絶対王者が信じがたい活躍を見せた裏で、かつての世界トップは苦戦。“月いち”の出場を明言しているタイガー・ウッズ(米国)にとっては苦い全米プロとなった。初日1オーバーで出遅れると、2日目は数字だけを見ればさらにひどいものとなってしまった。序盤で2度のトリプルボギーで後退すると、終わってみれば「77」。トータル7オーバーで下位に甘んじた。

「タイガーのトリプルボギー2つはアンラッキーな部分もあったり、紙一重な部分もあったりして、後半はちょっとメンタルに来ているのかなという感じで見ていました」。序盤で落としたことによりさらに攻めたが、裏目に出た。そんなプレーでも後半は1アンダーにまとめた。「一つ一つのショットとか、飛距離にせよ、素晴らしいものは相変わらずです。160ヤードを9番アイアンでカットで打っていましたし、キャリーで300ヤードも超える。月一回試合に出るということは、体の調子もゴルフの調子も悪くないはずなんです。今後もタイガー伝説を期待したいくらいです」と、今後が楽しみだという。

タイガー自身は試合勘の問題もあると話していたが、「これから月1回の試合に出ていけば、感覚も戻してくると思うので、そこに期待したいですね」。次戦は「全米オープン」を予定。そこで王者のプレーを見せてくれるはずだ。

■“肉厚”なリーダーボード 生き残るのは誰だ?

雨が降り、コースが初日よりさらに軟らかく変貌。元々硬い、速いはずだったコース。「コースへのイメージの違いは出ていると思います。前回開催の2014年大会に出場した選手は止まらないというイメージを持っていると思うので、まったくイメージが違う。練習日とも違っているでしょうし、その日の朝スタートして、頭を切り替えられるか。対応力が求められる展開です」。

そのなかで、やはり上位には対応力と爆発力を兼ね備えた選手が名を連ねている。「5アンダー、6アンダーくらいまでは十分チャンスがあると思います。爆発力がある選手が残っていますし、シャウフェレはメジャーでトップにい続けるのがボディブローのように効いてくると思うので、そこをほかの選手が突けるかどうかですよね」。ムービングデーの刺客は誰なのか。

「コリン・モリカワもビッグスコアを出してきますし、あとはLIV組の(ブライソン・)デシャンボーと(ブルックス・)ケプカがいい位置ですね。ほかのPGAツアーの選手との絡み合いもおもしろいでしょうね。ここに松山選手が6アンダーくらいで来ると、最高の最終日になります」。役者はそろった。

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